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R15(前半)
1.サエキ アンリ
しおりを挟む私、佐伯 杏里は18歳。
あ、間違えた。昨日で19歳になった、都内の大学に通う平凡な、大学生だ。
特段何かができるわけではなく、進路も決まっていたわけではなく。亡くなった父母が私の為に貯金してくれていたお金を学費として、都内の大学に通っているわけだから将来の事には不安がないとは言えない。
「はぁ~~、この先、どうしよう」
「杏里、またそれ?とりあえず、今日はバイトないんでしょ?今、居酒屋だっけ?」
「今日は、バイト、ない。でもね、居酒屋も変な男ばっかりでもうやだ」
机に突っ伏した杏里を見て、親友の朋美は笑う。
「杏里は可愛いもんねえ~、なんか、ちょっとお嬢様~みたいな雰囲気もあるから男がすぐ寄ってきちゃうのは分かるけど。そういえば、最近できた彼氏、は?」
「え?……ああ、あれは……別れたの」
朋美はその返事に目を見開いて杏里の顔を覗き込んだ。
「えぇ?!早くない?なんで?」
「それは……向こうが身体目当てだった……から?」
「はぁ~ん、さては杏里さん……処女ですなあ?」
「ちょっ!」
講義室で堂々と『私、処女なんです!』なんて言う馬鹿はいないでしょう!
杏里はバクバクと鼓動を打つ心臓を抑えて、俯いた。
「だ、だって……」
”だって、想い人がいて、彼の事が忘れられないから……” なんて言えない。
杏里はその代わりとなる無難な理由を探した。
「だって……まだ、踏ん切りがつかないから……」
「な~る~ほ~ど?では、この朋美さんが、19歳の誕生日祝いに素敵な場所に連れて行ってあげよう!今日、ね!」
「へ?」
「ほら、立つ、行くよ」
「え?しかも今から?!!」
「思い立ったがナントヤラってね!」
朋美に腕を引っ張られ、杏里は渋々大学を出た。
「ねえ、講義サボって……とか不良すぎない?」
「ねえ、やめて。不良、とか、いつの時代なの?」
ケラケラと笑いながら、朋美は杏里の腕に自分の腕を絡めた。
そして朋美は「とりあえず、食べないと戦はできないしさ、策略練るのも大切ですよねえ~」と騒ぎながらカフェに足を運ぶ。
テラス席に座り、人目も気にせず化粧を直し始めた朋美の鏡を覗き込み、杏里はずっと気になっていた事を口にする。
「で、朋ちゃん……。何処にいくの?怖いんだけど」
「大丈夫ってば。そんな怪しい所じゃないから。そうだな~、朋美さん的にはね、杏里が処女を捨てられない理由は、こう、なんていうか、委ねられないからじゃないかって思うの」
”処女”、”処女”、と何度も連呼しないで欲しい。
本当に、こんな大都会の中心で!恥ずかしいっ!!
赤面して顔を抑えた私の前で、朋美は言葉を続けた。
「だから、杏里には、大人な包み込んでくれるような優しい男性が良いと思うんだよねえ」
大人で、私の事をよく理解してくれて、全てを包み込んでくれるような、優しい……男性……。
「まあ、でも……それはそうかも、」
杏里は大都会の空を見上げた。
昔はこんな小さな空の下に生きていたわけではなかったのに。
この世界は高層ビルが立ち並び、夜もビルの明かりで星は見えず、空と呼べる空すらない。
昔は……いや、前世では、見上げれば夜は満点の星空が広がり、昼には遮るものすらない青が広がっていたのに。
ああ、本当に。色々、変わってしまった筈なのに、私の気持ちはまだあそこにある……から。
杏里はその、過去に、想いを馳せた。
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