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入学後
魔法陣学
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教室内は、黒板を中心に半円を描くように椅子と机が置いてあった。
空いている所ならどこに座ってもいいらしい。
ケフィンとエーベルトと並んで椅子に座った。
まだ先生が来ない。ザワザワと騒がしい。
「聞いたか? メルフィスは特別室だってさ」
「王子は特別に決まってるだろ」
そんな噂話が耳に入ってくる。
メルフィスはどこだと確認すれば、一人離れた後方の席に座っていた。
「今のうちに取り入って王城勤めになれないかな?」
「ばっか。王城の魔法使いは四つ星以上が必須だろ。お前にその才能があるのかよ?」
「わかんねーじゃん」
言いたい放題だな……。
そんな噂話をするくせに、みんな遠巻きでメルフィスに近づく人はいない。
メルフィスに声を掛けるか悩む。
こういう場合、普通はどうするんだ? みんな声を掛けないなら掛けるべきじゃないのか?
でも……一人離れた場所にいるメルフィスにエルドが重なった。
立ち上がろうとした瞬間に、先生が教室に入ってきたので、今は声を掛けるのはやめた。
◆◇◆
魔法陣学の勉強中だ。
エルドは、授業なんてほぼ出なかった。
みんなと学ぶという事が楽しい。
俺は今、すごい普通を満喫している気がしてウキウキとする。
普通の魔法使いは、魔法書を持っていないと魔法がすぐに使えない。
時間があれば地面に描いたりできるけれど、大抵はその魔法書に書いておいた魔法陣で魔法を使う。
魔法陣を学んで自分に合った魔法書を一冊作る。それが魔法陣学の最終目的だ。
俺は……どうするか。
俺は魔法陣を使わなくていいけれど、魔法陣でなきゃいけない魔法も多い。家族に見せた録音なんて特にそうだ。イメージではなく、事象として取っておく場合は魔法陣でないとできない。
そういう魔法陣を魔法書に集めようか。
それよりも、珍しい魔法陣を作れば《優良》貰えないかな?
焦茶色の髪を肩まで伸ばして一つに縛っているアンリ先生は、良い意味で熱血、悪い意味でうざい。
眼鏡の向こう側がキラリと光っている気がする。
魔法の基礎を学ぶなんて退屈の他にない。
飽きてきて手元の魔法陣のお手本の紙をヒラヒラと手で弄ぶ。
「ディノ・バスカルディ!」
名前を呼ばれて動きがピタリと止まる。
遊んでいたのを先生に見つかったらしい。
慌てて姿勢を正す。
「魔法陣の勉強なんて退屈か?」
その通りと思っていても、ニッコリ笑って微笑む。
「いいえ。とんでもありません」
「こちらに来て、中級水魔法を使うための魔法陣を黒板に描いてみろ」
中級……今勉強しているのも、ここにあるお手本も初級なんですけど……。
先生の言う中級水魔法は、一部屋分の水を発現させる魔法だ。
前に出て描こうとして……やめた。
ここで描いてしまったら、普通じゃなくなる?
それならわからないフリをするべきか?
けれど中級魔法陣なら描けてもおかしくない?
まだ普通の基準がわからない。
そんな葛藤をして、黒板の前で止まっていた。
「ふんっ。わからないくせに授業を聞かないとはな。お前のような見習いが調子に乗るな」
鼻で笑われた。ムカッとするよね。
普通がいいけれど──馬鹿にされて黙っていられるほどお人好しでもない。
『わかりません』だなんて絶対言ってやらないと心に決める。
スラスラと黒板に魔法陣を描いた。
「それは中級水魔法を使う魔法陣じゃ──」
先生も途中で黙る。
中級魔法を使う魔法陣なんかよりも、複雑で難しい陣だ。
カッカッとチョークの音を鳴らして、五分もかからずに魔法陣を描き終えた。
「先生、これでよろしいですか?」
「あ、ああ……」
教室内はシーンと静まり返っている。
この魔法陣がわかる見習いがいないからだ。
「戻っていい……」
自分がいた場所に戻ると、そっとケフィンが耳打ちしてくる。
(なぁ、あの魔法陣ってなんのやつだ?)
(上級の水獣を呼ぶ召喚魔法陣です)
「しょうか──ぐふっ!」
思わずと言う風に大声を出しかけたケフィンの脇腹を肘で小突く。
周りの級友にチラリと見られたけれど、笑顔でやり過ごす。
(召喚って……まじかよ……)
魔法陣の中でも召喚魔法陣だけは太古からある魔法陣で、昔の大魔法使いが魔獣と契約して作ったものらしい。属性別にあり、書き換える事ができない唯一の魔法陣だ。
(みんなにはわからないし、先生には大ダメージを与えられて僕は満足です)
(先生……こっちチラチラ見てるな……)
(ああ楽しい)
(お前……性格悪いんだな……)
引きつった顔をするケフィンを見て微笑む。
褒め言葉をありがとう。
空いている所ならどこに座ってもいいらしい。
ケフィンとエーベルトと並んで椅子に座った。
まだ先生が来ない。ザワザワと騒がしい。
「聞いたか? メルフィスは特別室だってさ」
「王子は特別に決まってるだろ」
そんな噂話が耳に入ってくる。
メルフィスはどこだと確認すれば、一人離れた後方の席に座っていた。
「今のうちに取り入って王城勤めになれないかな?」
「ばっか。王城の魔法使いは四つ星以上が必須だろ。お前にその才能があるのかよ?」
「わかんねーじゃん」
言いたい放題だな……。
そんな噂話をするくせに、みんな遠巻きでメルフィスに近づく人はいない。
メルフィスに声を掛けるか悩む。
こういう場合、普通はどうするんだ? みんな声を掛けないなら掛けるべきじゃないのか?
でも……一人離れた場所にいるメルフィスにエルドが重なった。
立ち上がろうとした瞬間に、先生が教室に入ってきたので、今は声を掛けるのはやめた。
◆◇◆
魔法陣学の勉強中だ。
エルドは、授業なんてほぼ出なかった。
みんなと学ぶという事が楽しい。
俺は今、すごい普通を満喫している気がしてウキウキとする。
普通の魔法使いは、魔法書を持っていないと魔法がすぐに使えない。
時間があれば地面に描いたりできるけれど、大抵はその魔法書に書いておいた魔法陣で魔法を使う。
魔法陣を学んで自分に合った魔法書を一冊作る。それが魔法陣学の最終目的だ。
俺は……どうするか。
俺は魔法陣を使わなくていいけれど、魔法陣でなきゃいけない魔法も多い。家族に見せた録音なんて特にそうだ。イメージではなく、事象として取っておく場合は魔法陣でないとできない。
そういう魔法陣を魔法書に集めようか。
それよりも、珍しい魔法陣を作れば《優良》貰えないかな?
焦茶色の髪を肩まで伸ばして一つに縛っているアンリ先生は、良い意味で熱血、悪い意味でうざい。
眼鏡の向こう側がキラリと光っている気がする。
魔法の基礎を学ぶなんて退屈の他にない。
飽きてきて手元の魔法陣のお手本の紙をヒラヒラと手で弄ぶ。
「ディノ・バスカルディ!」
名前を呼ばれて動きがピタリと止まる。
遊んでいたのを先生に見つかったらしい。
慌てて姿勢を正す。
「魔法陣の勉強なんて退屈か?」
その通りと思っていても、ニッコリ笑って微笑む。
「いいえ。とんでもありません」
「こちらに来て、中級水魔法を使うための魔法陣を黒板に描いてみろ」
中級……今勉強しているのも、ここにあるお手本も初級なんですけど……。
先生の言う中級水魔法は、一部屋分の水を発現させる魔法だ。
前に出て描こうとして……やめた。
ここで描いてしまったら、普通じゃなくなる?
それならわからないフリをするべきか?
けれど中級魔法陣なら描けてもおかしくない?
まだ普通の基準がわからない。
そんな葛藤をして、黒板の前で止まっていた。
「ふんっ。わからないくせに授業を聞かないとはな。お前のような見習いが調子に乗るな」
鼻で笑われた。ムカッとするよね。
普通がいいけれど──馬鹿にされて黙っていられるほどお人好しでもない。
『わかりません』だなんて絶対言ってやらないと心に決める。
スラスラと黒板に魔法陣を描いた。
「それは中級水魔法を使う魔法陣じゃ──」
先生も途中で黙る。
中級魔法を使う魔法陣なんかよりも、複雑で難しい陣だ。
カッカッとチョークの音を鳴らして、五分もかからずに魔法陣を描き終えた。
「先生、これでよろしいですか?」
「あ、ああ……」
教室内はシーンと静まり返っている。
この魔法陣がわかる見習いがいないからだ。
「戻っていい……」
自分がいた場所に戻ると、そっとケフィンが耳打ちしてくる。
(なぁ、あの魔法陣ってなんのやつだ?)
(上級の水獣を呼ぶ召喚魔法陣です)
「しょうか──ぐふっ!」
思わずと言う風に大声を出しかけたケフィンの脇腹を肘で小突く。
周りの級友にチラリと見られたけれど、笑顔でやり過ごす。
(召喚って……まじかよ……)
魔法陣の中でも召喚魔法陣だけは太古からある魔法陣で、昔の大魔法使いが魔獣と契約して作ったものらしい。属性別にあり、書き換える事ができない唯一の魔法陣だ。
(みんなにはわからないし、先生には大ダメージを与えられて僕は満足です)
(先生……こっちチラチラ見てるな……)
(ああ楽しい)
(お前……性格悪いんだな……)
引きつった顔をするケフィンを見て微笑む。
褒め言葉をありがとう。
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