2 / 33
魔法の家
しおりを挟む
重たい色をした厚地のカーテンが開けられて日差しが室内に差し込む。
ベッドの上で目を覚ましたオレは、窓の方向へゴロンと寝返りを打った。
「っん……」
小さく呻いて窓の外を見れば、レースのカーテン越しでも分かるほど晴れた空が広がっていた。
この国は夏がとことん暑くて、冬はひたすらに寒い。
四季は一応あるのだが、快適な春と秋は気付く前に終わっていたりするほど短いのだ。
今は春。
暖房も、冷房も、要らない快適な陽気である。
『おはよう、家主』
季節は快適であるが、自宅が快適であるかどうかは別問題である。
なぜならこの家は喋るからだ。
『そろそろ起きる時間です』
我が家は国から支給された魔道具だ。
見た目は立派な屋敷で、名前もあるし、意志もある。
王家の宝のひとつであるこの屋敷、ライニングマジックベルト・ザ・シャトーは変形可能な屋敷型の魔道具だ。
なぜそんなモノにオレが住んでいるかというと、かくれんぼをしていた幼い王子をコイツが本気で隠してしまい大騒ぎになったからだ。
王子の頼みを聞き入れたまで、とキリッとした声で答えた意志を持つ魔道具は、魔力が強くて意志があるくせに常識が無くて危険と判断されてオレに押し付けられた。
そんな事情を知らなかったオレは、就職と共に支給された立派な屋敷に浮かれたものだ。
こうして王都に出てきてからのオレの一日は、妙に良い声で始まるようになってしまった。
今となっては、あの希望に満ち溢れたウキウキ沸き立つオレの気持ちを返してくれ、とすら思う。
コイツは屋敷に一歩足を踏み入れたオレに、何の前触れもなく『我が名はライニングマジックベルト・ザ・シャトー』と話しかけてきた陽気な魔道具であり、完全無欠の問題児だ。
『今日もいい天気だぞ』
そうでしょうね、と思いつつ返事をしないでいると更に話しかけてくるのだ、この家は。
『早く起きろ、家主』
オレは中世風の街並みが広がる王都の城下町に住んでいて、この家の見た目は街に馴染む重厚で落ち着きある豪華な造りになっている。
『仕事に行かなくていいのか?』
だがこの家はメッチャ喋る、ちっとも落ち着きがない構ってちゃんだ。
こっちが返事をしないと止まらない。
お前は母親なのか、それとも目覚まし時計か、とツッコミたくなるほど話し続ける。
『家主?』
ちなみにコイツは男性の声で喋るのだが、家に性別とかあるのだろうか?
怖いから本人(家)に聞いたことはないけれど。
『起きないならベッドを片付けるぞ?』
一向に起きないオレに焦れて家が脅しをかけてきた。
「やめろ」
コイツにはマジでベッドを跡形もなく片付ける能力がある。
朝一番から床へキスする羽目になるのはごめんだ。
オレは渋々ベッドから降りた。
家というものは勝手に間取りが変わったり、置いた物が知らない間に消えたりしないのが良いのであって、住人の生活にガッツリ介入されるのは勘弁して欲しい。
そんな理屈は、『私のことは気楽にライちゃんとでも呼んでくれ、家主よ』と話しかけてくる魔道具には通じない。
本当に魔道具なのか? 呪いとかかかってんじゃないのか?
オレが住むことになったのは、そんな疑惑のある家だ。
住居が意志を持った喋る魔道具だと何が不便かというと、始終見張られているような気持ちになることだ。
十八歳で王都に出てきて二年経ち、オレは二十歳になった。
この監視体制付きの屋敷にも最近は、ちょっとだけ慣れた。
とはいえ、認識阻害の魔道具はバチクソ使っている。
プライバシーは大切だ。
身支度を整えて部屋の外に出ると、出勤してきたお手伝いさんと出くわした。
「あら、ルドガーさま。おはようございます」
「おはよう、タミーさん」
我が家の家事を担当してくれているお手伝いさんは、タミーという。
茶色の瞳と髪を持つ、ふくよかな中年女性だ。
優しくて穏やかな彼女は魔法が使えるので、魔道具屋敷である我が家でも安心だ。
「朝食は出来ておりますので、いつでも召し上がっていただけますよ」
「ありがとう、タミーさん」
タミーさんの言葉遣いが丁寧なのは、彼女の信条でありアイデンティティなのだそうだ。
平民のオレが年上の彼女に丁寧な言葉で接してもらうのは気が引けるのだが、アイデンティティなら仕方ないと受け入れている。
タミーさんは通いのお手伝いさんなので、この家に住んではいない。
だが、ココにはオレ以外にも住んでいる者がいる。
通路を挟んだ反対側のドアが開いて、そこからひょっこり現れたのは、幼馴染のアニカだ。
「おはよう、ルド」
「ぁ……おはよう、アニカ」
我が家の気まぐれで間取りがちょいちょい変わったりするのだが、今朝のアニカの部屋はオレの部屋の向かいにあったようだ。
茶色の瞳と髪をした巨乳のアニカは同い年の二十歳で、魔法の研究をしている。
彼女は、オレの想い人だ。
ベッドの上で目を覚ましたオレは、窓の方向へゴロンと寝返りを打った。
「っん……」
小さく呻いて窓の外を見れば、レースのカーテン越しでも分かるほど晴れた空が広がっていた。
この国は夏がとことん暑くて、冬はひたすらに寒い。
四季は一応あるのだが、快適な春と秋は気付く前に終わっていたりするほど短いのだ。
今は春。
暖房も、冷房も、要らない快適な陽気である。
『おはよう、家主』
季節は快適であるが、自宅が快適であるかどうかは別問題である。
なぜならこの家は喋るからだ。
『そろそろ起きる時間です』
我が家は国から支給された魔道具だ。
見た目は立派な屋敷で、名前もあるし、意志もある。
王家の宝のひとつであるこの屋敷、ライニングマジックベルト・ザ・シャトーは変形可能な屋敷型の魔道具だ。
なぜそんなモノにオレが住んでいるかというと、かくれんぼをしていた幼い王子をコイツが本気で隠してしまい大騒ぎになったからだ。
王子の頼みを聞き入れたまで、とキリッとした声で答えた意志を持つ魔道具は、魔力が強くて意志があるくせに常識が無くて危険と判断されてオレに押し付けられた。
そんな事情を知らなかったオレは、就職と共に支給された立派な屋敷に浮かれたものだ。
こうして王都に出てきてからのオレの一日は、妙に良い声で始まるようになってしまった。
今となっては、あの希望に満ち溢れたウキウキ沸き立つオレの気持ちを返してくれ、とすら思う。
コイツは屋敷に一歩足を踏み入れたオレに、何の前触れもなく『我が名はライニングマジックベルト・ザ・シャトー』と話しかけてきた陽気な魔道具であり、完全無欠の問題児だ。
『今日もいい天気だぞ』
そうでしょうね、と思いつつ返事をしないでいると更に話しかけてくるのだ、この家は。
『早く起きろ、家主』
オレは中世風の街並みが広がる王都の城下町に住んでいて、この家の見た目は街に馴染む重厚で落ち着きある豪華な造りになっている。
『仕事に行かなくていいのか?』
だがこの家はメッチャ喋る、ちっとも落ち着きがない構ってちゃんだ。
こっちが返事をしないと止まらない。
お前は母親なのか、それとも目覚まし時計か、とツッコミたくなるほど話し続ける。
『家主?』
ちなみにコイツは男性の声で喋るのだが、家に性別とかあるのだろうか?
怖いから本人(家)に聞いたことはないけれど。
『起きないならベッドを片付けるぞ?』
一向に起きないオレに焦れて家が脅しをかけてきた。
「やめろ」
コイツにはマジでベッドを跡形もなく片付ける能力がある。
朝一番から床へキスする羽目になるのはごめんだ。
オレは渋々ベッドから降りた。
家というものは勝手に間取りが変わったり、置いた物が知らない間に消えたりしないのが良いのであって、住人の生活にガッツリ介入されるのは勘弁して欲しい。
そんな理屈は、『私のことは気楽にライちゃんとでも呼んでくれ、家主よ』と話しかけてくる魔道具には通じない。
本当に魔道具なのか? 呪いとかかかってんじゃないのか?
オレが住むことになったのは、そんな疑惑のある家だ。
住居が意志を持った喋る魔道具だと何が不便かというと、始終見張られているような気持ちになることだ。
十八歳で王都に出てきて二年経ち、オレは二十歳になった。
この監視体制付きの屋敷にも最近は、ちょっとだけ慣れた。
とはいえ、認識阻害の魔道具はバチクソ使っている。
プライバシーは大切だ。
身支度を整えて部屋の外に出ると、出勤してきたお手伝いさんと出くわした。
「あら、ルドガーさま。おはようございます」
「おはよう、タミーさん」
我が家の家事を担当してくれているお手伝いさんは、タミーという。
茶色の瞳と髪を持つ、ふくよかな中年女性だ。
優しくて穏やかな彼女は魔法が使えるので、魔道具屋敷である我が家でも安心だ。
「朝食は出来ておりますので、いつでも召し上がっていただけますよ」
「ありがとう、タミーさん」
タミーさんの言葉遣いが丁寧なのは、彼女の信条でありアイデンティティなのだそうだ。
平民のオレが年上の彼女に丁寧な言葉で接してもらうのは気が引けるのだが、アイデンティティなら仕方ないと受け入れている。
タミーさんは通いのお手伝いさんなので、この家に住んではいない。
だが、ココにはオレ以外にも住んでいる者がいる。
通路を挟んだ反対側のドアが開いて、そこからひょっこり現れたのは、幼馴染のアニカだ。
「おはよう、ルド」
「ぁ……おはよう、アニカ」
我が家の気まぐれで間取りがちょいちょい変わったりするのだが、今朝のアニカの部屋はオレの部屋の向かいにあったようだ。
茶色の瞳と髪をした巨乳のアニカは同い年の二十歳で、魔法の研究をしている。
彼女は、オレの想い人だ。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる