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やっぱり映画は初デートの定番ですよね
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恋愛映画を観ることになった。
チケットを買ってシアターに入る。
中はそこそこの込み具合。
カップルの比率が高めで隣合って着席している男女のペアが散見される。
そういう人たちの中には距離感が近い親密なカップルもおり。
「あ――」
自分たちの席を探している最中、沙条さんが微かな声を上げた。
彼女の視線を追うと。
あ――。
俺も沙条さんと同じ反応になった。
とあるカップルがキスをしていたのだ。
それも、かなり濃厚なやつ。
舌合わせ――唾液トレードチュッチュ――ハレンチキッス――や、一般的な名称はフレンチキスとかディープキスだ。
映像の中では見たことがあれど、実際に現物を拝見いたすのは初めての事で、頭の中は一瞬、パニックになった。
フレンドリーキッスも済ませていない俺たちには刺激が強すぎる光景だった。
通路に立ち竦む初デートな俺たち。
「あの……」
背後から控えめに声を掛けられ、ハッとする。
後ろにいた女性の通行の邪魔になっていたのだ。
「す、すみません!」
一言謝罪し、俺は沙条さんの手を引いて歩みを進める。
「えっと、座席……席はっと……あった。あそこだ」
間を埋めるように言いながら、席へと向かう。
その途中で気付く。
無意識のうちに沙条さんの手を引いていたことに。
俺は右手で沙条さんの手首の辺りを掴んでいた。
沙条さんは顔を赤くしながら、繋ぎ目に視線を注いでいる。
そんな反応をされると、こっちまで脈拍が上がってしまうが、このくらいは許される関係ではあるので、俺はポーカーフェイスで通路を突き進んだ。
……内心めっちゃドキドキしてた。
自然に手を放して着席する。
「楽しみだね、映画。評判いいみたいだし」
「そ、そうですねっ。楽しみです」
「沙条さんは映画とかよく見る?」
「えっと……話題作は友だちと良く見に来ます。黒羽くんはどうですか?」
「見る方だとは思うけど、映画館よりは家派かな。今はサブスクとかあるし」
「なるほど、便利ですよね」
自然に会話が弾んできていい感じ……かと思ったが。
「あ――」
沙条さんが微かな声を上げた。
デジャヴを感じる声だった。
彼女の視線を辿ると……前列に座っているカップルがまたしても口づけを交わしていた。
今度は深いキスではないのだけれど、代わりに何度も唇を重ね合わせては微笑みあっている。
二人のラブラブ度合いがありありと伝わって来て、顔が熱くなる。
「さっきから、なんかすごいね、みんな」
「はい……」
俺が笑って誤魔化すように口にした言葉に、消え入りそうな返事が返ってくる。
それから少し間をおいて。
「あの……」
隣の席に座っている沙条さんがおずおずと言葉を紡ぎ出す。
短めのスカートの上で両手をギュッと握って。
小さな声なので、聞き逃さないように耳を傾ける。
「ああいうのは、その……カップルとして当たり前の行為なのでしょうか?」
「や、どうなんだろうね。人それぞれだと思うけど」
「人それぞれ……。そうですよね」
沙条さんの手から力が抜けた。
表情を伺うと安堵したように口元を綻ばせている。
そんな彼女と視線が合わさる。
上目遣いで覗き込むような沙条さんの視線。
それにドキッとしていると、沙条さんは俺にはにかんだ笑顔を向けてきた。
そして。
「……私たちは、こうしましょう」
沙条さんがそう口にした直後。
右手が温かい感触に包まれる。
沙条さんが手を重ねてきたのだ。
手を繋ぎながら映画を観る。
初デートでちょっとだけ背伸び。そんな距離感だった。
「なんかいいね、これ」
曖昧な感想を口にする俺。
「そう、だね……」
沙条さんが少しだけ手に力を籠める。
甘酸っぱくも幸せな雰囲気の中、上映が始まるのを静かに待った。
チケットを買ってシアターに入る。
中はそこそこの込み具合。
カップルの比率が高めで隣合って着席している男女のペアが散見される。
そういう人たちの中には距離感が近い親密なカップルもおり。
「あ――」
自分たちの席を探している最中、沙条さんが微かな声を上げた。
彼女の視線を追うと。
あ――。
俺も沙条さんと同じ反応になった。
とあるカップルがキスをしていたのだ。
それも、かなり濃厚なやつ。
舌合わせ――唾液トレードチュッチュ――ハレンチキッス――や、一般的な名称はフレンチキスとかディープキスだ。
映像の中では見たことがあれど、実際に現物を拝見いたすのは初めての事で、頭の中は一瞬、パニックになった。
フレンドリーキッスも済ませていない俺たちには刺激が強すぎる光景だった。
通路に立ち竦む初デートな俺たち。
「あの……」
背後から控えめに声を掛けられ、ハッとする。
後ろにいた女性の通行の邪魔になっていたのだ。
「す、すみません!」
一言謝罪し、俺は沙条さんの手を引いて歩みを進める。
「えっと、座席……席はっと……あった。あそこだ」
間を埋めるように言いながら、席へと向かう。
その途中で気付く。
無意識のうちに沙条さんの手を引いていたことに。
俺は右手で沙条さんの手首の辺りを掴んでいた。
沙条さんは顔を赤くしながら、繋ぎ目に視線を注いでいる。
そんな反応をされると、こっちまで脈拍が上がってしまうが、このくらいは許される関係ではあるので、俺はポーカーフェイスで通路を突き進んだ。
……内心めっちゃドキドキしてた。
自然に手を放して着席する。
「楽しみだね、映画。評判いいみたいだし」
「そ、そうですねっ。楽しみです」
「沙条さんは映画とかよく見る?」
「えっと……話題作は友だちと良く見に来ます。黒羽くんはどうですか?」
「見る方だとは思うけど、映画館よりは家派かな。今はサブスクとかあるし」
「なるほど、便利ですよね」
自然に会話が弾んできていい感じ……かと思ったが。
「あ――」
沙条さんが微かな声を上げた。
デジャヴを感じる声だった。
彼女の視線を辿ると……前列に座っているカップルがまたしても口づけを交わしていた。
今度は深いキスではないのだけれど、代わりに何度も唇を重ね合わせては微笑みあっている。
二人のラブラブ度合いがありありと伝わって来て、顔が熱くなる。
「さっきから、なんかすごいね、みんな」
「はい……」
俺が笑って誤魔化すように口にした言葉に、消え入りそうな返事が返ってくる。
それから少し間をおいて。
「あの……」
隣の席に座っている沙条さんがおずおずと言葉を紡ぎ出す。
短めのスカートの上で両手をギュッと握って。
小さな声なので、聞き逃さないように耳を傾ける。
「ああいうのは、その……カップルとして当たり前の行為なのでしょうか?」
「や、どうなんだろうね。人それぞれだと思うけど」
「人それぞれ……。そうですよね」
沙条さんの手から力が抜けた。
表情を伺うと安堵したように口元を綻ばせている。
そんな彼女と視線が合わさる。
上目遣いで覗き込むような沙条さんの視線。
それにドキッとしていると、沙条さんは俺にはにかんだ笑顔を向けてきた。
そして。
「……私たちは、こうしましょう」
沙条さんがそう口にした直後。
右手が温かい感触に包まれる。
沙条さんが手を重ねてきたのだ。
手を繋ぎながら映画を観る。
初デートでちょっとだけ背伸び。そんな距離感だった。
「なんかいいね、これ」
曖昧な感想を口にする俺。
「そう、だね……」
沙条さんが少しだけ手に力を籠める。
甘酸っぱくも幸せな雰囲気の中、上映が始まるのを静かに待った。
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