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1.あなたと私の不幸自慢
しおりを挟むまあ、よくある話よね。
大学進学を機に地方から出て来た純朴な青年と、
東京出身だけどモブキャラな女のコの恋愛物語。
サークルかなんかの合同飲み会でたまたま隣り合わせとなった2人は、女のコの方が飲み過ぎたことに寄りその介抱が青年1人に押し付けられ。朝まで公園のベンチでせっせとお世話してくれたその青年に対して、彼女は感謝の念を抱いて頻繁に連絡する様になり、そのうち彼女から告白して無事に交際スタート。
お互い初めてのカレカノで、ぎこちないながらも順調に続いたその関係は徐々に変化を見せるの。まあ、何と言うか彼の方がモテ出しちゃったのね。元々、小綺麗な容姿をしていて磨けば光る感じだったらしいんだけど、都会の生活にも慣れ、彼女のアドバイスで服装や髪型なんかもお洒落になっちゃったりして…ううん、それもそうだけど、やっぱり一番の理由は自信がついたからだと思う。
彼女から尽くされまくって、『自分はこんなにも愛されている』という揺るぎない自信が、彼を堂々とさせた。そしてそんな彼を周囲の女性達が目ざとく見つけ、『あんな地味な彼女なんかよりも私と付き合いませんか?』と言い寄る様になってしまったんですって。
勿論、彼は断った。『アナタ達には地味に見えても、自分にとっては最高の彼女なんです!』と胸を張って答えていた彼も、時が経てば変わってしまうもので。1年、2年とその状況が続き、次第に心が揺らぎ始めた彼は相手の誘いに乗り、そしてそれはすぐ彼女にバレてしまうの。泣きながら正座して、『そんなつもりじゃ無かった、出来心なんです』と詫びる彼を、彼女は簡単に許すんだけど、これが間違いだったのよね。謝れば許してくれることを知った彼は、その後何度も何度も浮気を繰り返し、次第に謝ることさえしなくなった。
それでも彼女は別れない。
『最終的に私の元へ戻ってきてくれれば構わないから』と、笑顔で彼を待ち続け、そのまま2人は結婚までしてしまう。でも、そんな男が結婚したからと言って落ち着くはずもなく、予想通りに結婚生活はドロドロよ。次から次へと相手を変え、時には『離婚する』と騒ぐ夫に彼女は泣いて縋った。自分の両親は勿論、義理の両親や親戚、友人なんかも巻き込んで、その全員から『もう別れた方がいい』と説得されているにも関わらず、彼女は首を縦に振らないの。愛人から嫌がらせの電話を受けたり、直接訪問を受けたりもするけれど、それでも『彼の妻は私しかいない』と自分で自分を慰めながら現在に至る。
「ってコレ、私の両親の話なんだけどね」
「ふうん」
軽い。
私がこんな重い家庭事情をカミングアウトしているというのに、目の前の男…須賀龍は驚くほど無表情だ。
「だけど娘からしてみれば、父親がウチに戻ってくるのが愛人を代える繋ぎの期間だけっていうのはどうかと思うのよね。そんで、母親がその間だけウッキウキになって、出て行かれた途端に精神を病むのがほんと苦痛で」
「あはは、それは分かる」
ここで私は気が付いた。
無表情なのではなく、この話は須賀さんにとって別段驚くことでは無いのだ。何故なら、この人もよく似た環境で育っているから。
今日は職場の飲み会で。
賑やかに二次会までを終え、指導係として普段から比較的仲の良い須賀さんと、それに吉川さんという私と同時期に中途採用で入った女性の3人で三次会をしようと意気込んでいたところを、男同士で飲みに行くはずだった清水さんが乱入してきて吉川さんを連れ去ってしまい。補足しておくと、この清水さんは吉川さんの彼氏なので『じゃあ一緒に』と誘うことも出来ず、結局こうして須賀さんと2人きりでショットバーにいるというワケだ。
現在の職場で働き始めて早1年。これまでずっと上辺だけの会話で楽しく過ごして来たはずの私が、何故こんなにディープな部分を曝け出してしまったのだろうか。…多分、飲み過ぎているせいも有るし、先に須賀さんの方から切り出されたせいでもある。
>俺の親父ってさあ、
>近所に愛人を囲ってるんだ。
>しかも俺と同じ年齢の子供までいて、
>そいつがメチャクチャ優秀らしくてさ、
>俺、物心ついた時からずっと比較されてた。
>だからこんな負けず嫌いな性格になったんだよ。
『へえ』と、よくよく考えてみれば、私の相槌もかなり軽かった。いや、考えてみなくても相当軽い。だから興味が無いワケではなく、私も同じような環境で育ったんですよという言い訳がしたいが為に自分語りを始めてしまったというか。
いや、本音を言うと、『なんだ、隠さなくていいんだな、この人には』と思ったのかもしれない。とにかく私は、今まで必死に隠していた闇の部分を解放することにしたのである。
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