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出会い編
商業都市ミュール
しおりを挟む精霊アシュタルの魔法は本当に一瞬だった。
まるで扉を開けたらその向こうは別世界、そう思えるほど一瞬にして景色が一変する。
草原に囲まれた緑豊かな土地、目の前には石造りの立派な城壁が見える。
モンスター等の出現が多いこの街は城郭都市として頑丈な壁で街を囲み外敵から街を護っていた。
もちろん他の街や村も壁や柵を作り守りを固めてはいるが、これ程にも立派で頑丈な城壁は王都のそれに匹敵する。
「ありがとう、アシュタル。休んでいておくれ」
空間と空間を繋げ転移するアシュタルの転移魔法。これには膨大な魔力を使用する。
たくさんの魔力を使ったアシュタルは少し長めの息を吐いたあと、クロードの言葉を聞いてその場から姿を消した。
「彼は異空間を操るからね。こことは別の空間に休みに行ったんだよ」
ルミナが水の中で体を休めるようなものなのだろうとリディメリアは納得した。
「さて、ここはアスメニア王国にある東方の商業都市ミュールの城門前だ。入国手続きは終わっているから入国審査はいらないよ。門番にも話は通してあるはずだから私の姿を見れば案内が来るだろう。さぁ、行こうか」
貴族が他国に移住するとなるとかなり大変な手続きが必要になる。リディメリアは勘当されているらしく、もう貴族ではないらしいのだが手続きが大変だった事には変わりないだろう。クロードへの感謝の気持ちが募っていく。
現に城門前には入国審査と手続きで商人や旅人達が長蛇の列を作っていた。
商業都市というだけあって商人の出入りが多いのだろう。
「ミュールという街はどんな街なのですか?」
グランディオール王国とアスメニア王国では距離が離れすぎていて詳しい情報があまり入ってこない。学園の授業ですら教わらない、リディメリアが未来の王妃として教育を受けている際にアスメニア王国という国があると教わった程度だ。
「アスメニア王国の中でも中堅サイズの都市だ。商業都市ミュール。ここにはギルドと呼ばれる民営の組織がある。ギルドとは国で捌ききれない住民の困り事やモンスター討伐の仕事を依頼として受け入れて冒険者と呼ばれる職の者達にその依頼を割り振って任務をこなしてもらうとこで経済を回し、国民の安全と安心を守っているある意味合理的な街だ」
「ギルド、ですか」
「たしかこの街には«ヤドリギ»という名の大きなギルドがある。報酬さえ払えば大半のことは手助けしてくれる。リディメリアも困ったことがあったら行ってみるといい」
ギルド、それは前世にあったファンタジー系のゲームでは主人公達がよく利用したり所属したりしている組織だが、リディメリアが転生した恋愛ゲームの世界にもギルドがあることに驚いた、ゲームのシナリオにはギルドのギの字も登場しない。
もうゲームのシナリオとはかけ離れたストーリーを進んでいる為ゲームの知識は役にたちそうもないなと思った。
「ロア様、お待ちしておりました。上の者にお話は聞いております。どうぞ、こちらです」
「ああ、ありがとう」
城門脇で控えていた兵士がクロードの姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきて案内をしてくれる。本当に入国審査も無く、スムーズに入れてしまった。
そのまま兵士に連れられてこれからリディメリアはお世話になる、新たな生活を始める街に足を踏み入れた。
「わぁ!これが、ミュール…!」
リディメリアの視界にこれから自分が住むことになる街並みが目の前に広がる。
街に入ってすぐにあるメインストリートには軒並みにはたくさんの店が並び、色とりどりの商品を手に客の呼び込みをしている。そしてたくさんの人が両手に荷物を抱え街を行き交う。そんな活気溢れる街並みに思わず感嘆の声が上がった。
「領主様の屋敷に案内を致します。こちらの馬車にお乗り下さい」
メインストリートとは違う人の通りが少ない道に止められていた馬車に乗り、リディメリアとクロードは領主の屋敷に向かった。
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