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31.薄い効果

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 私は、今日も学校に来ていた。
 学生として、それは当たり前のことである。どんなに授業がつまらなくても、学校を休んでいいということにはならないのだ。

「ああ、おはようございます、エルファリナさん」
「おはようございます、レリクス様」

 教室に入って席まで着くと、レリクス様が挨拶をしてきた。
 先日色々とあったものの、彼とは今も級友として過ごしている。

 あれから、特に彼は目立った動きを見せていない。最初に会った時と同じ、優しい王子様なのである。
 時々、その裏側の顔も見えてくるが、それは些細なことだ。

「……あれから、何かありましたか?」
「いえ、特に何もありません」
「そうですか……あれだけでは、効果が薄いということでしょうか?」
「ええ、そうかもしれませんね……」

 レリクス様は、私に質問をしてきた。
 それは、聖痕に関する通達のことについての質問だ。
 私の実家から、何か連絡があったのか。そういうことを彼は聞いているのだ。

 ただ、残念ながら、あれから特に連絡はない。
 いや、残念なのだろうか。正直、連絡が来られても、それはそれで困るような気がするのだが。

「レリクス様の方は、どうなんですか? 色々と意図があるんでしょう? それは、どうなっているんですか?」
「そちらの方も、特に動きはないようです」
「そうですか……」

 私の質問に、レリクス様ははっきりと答えてくれた。
 その答えに対して、私は少し含みを覚える。彼の言葉は、なんだか他人事のような気がするのだ。

 ただ、レリクス様に何かしらの意図があることは確かである。
 つまり、彼は誰かに何かを監視させているということなのだろうか。その口振りからは、そんな感じがする。

「……そろそろ、次の段階に進んでもいいのかもしれませんね」
「次の段階、ですか?」
「ええ、まだ色々と出せる手札はあります。あなたもわかっているでしょう? 僕がまだ全ての情報を出していないことを」
「それを出すということですか?」
「そうしようと思っています」

 レリクス様は、全ての情報を明かしていない。
 それは、彼の戦略であるようだ。恐らく、切れる手札を残しておきたいということなのだろう。

 ゲームの時も思っていたことではあるが、彼は中々に狡猾な人間である。
 とりあえず、今は一応辛うじて味方であるといえるのだが、敵に回すと色々と厄介そうだ。
 実際に、この間は色々と大変だったのだから、それは間違いない。

「さて、これからどうなるか。また見物といった所ですかね……」

 彼は、真剣な顔でそのようなことを呟いていた。
 それは、言葉通りの意味であるとは思えない顔だ。やはり、彼にも色々と重要な意図があるということなのだろう。
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