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 私とリルガー様は、レパイア王国の王城まで来ていた。
 王城の中に突入したが、人の気配はまったくしない。兵士も使用人も魔術師も、どこにもいないのである。
 兵士については、ゾルガイルさんから事前に聞いていた。全戦力を王都の前に配置したそうなのだ。
 使用人と魔術師については、まったくわからない。家に帰ったのか、逃げる王族に同行したのか、とにかくここにいないことは確かである。

「さて、ここで間違いないのですか?」
「ええ、間違いありません」

 私は、リルガー様と数名の兵士とともに、ある部屋の前まで来ていた。
 ここは、聖女が結界を張るための部屋である。恐らく、ここにカーテナ様がいるはずだ。
 無事であるならば、使用人や魔術師と同じようにどこかにいっているかもしれない。だが、命を使う魔法を行使したため、ここにいるのではないだろうか。

「行きましょう」
「はい……」

 リルガー様の言葉を合図に、部屋の扉が一気に開かれた。
 すると、その中の様子が見えてくる。
 部屋の中にも、人の気配はほとんどない。だが、人っ子一人いないという訳ではなかった。ある人物が、部屋の真ん中に倒れているのだ。

 私は、それがカーテナ様ではないと思った。
 白い髪に、痩せ細った体をした老人。どうして、そのような人物がここにいるのかと思ったのである。
 だが、直後に感じた。その体から溢れる魔力が、彼女が何者かを私に伝えてくれたのである。

「カーテナ様……?」
「……う」

 私の呼びかけに、カーテナ様は少しだけ体を動かした。
 その動き一つ一つ重々しい。本当に、彼女の体は老化してしまっているようだ。
 いや、老化だけではない。純粋に弱ってもいるのだ。このままだと、本当に命が危ないかもしれない。

「……生きていたのね」
「ええ……」

 私の顔を見て、カーテナ様はゆっくりと呟いた。
 その顔には、あまり感情が見えない。怒りも驚きも悲しみも何もないのだ。弱っているため、表情を変える力もないのだろうか。

「あなたは、カーテナ様なのですか?」
「ええ、そうよ。私は、カーテナ・ラルカンテ。この国の聖女……」
「どうして……そのような姿に?」
「禁忌の魔法の代償……とでもいえばいいのかしら? 私は自らの命を使って……使わされた結果、こうなったのよ」

 私の質問に、カーテナ様はそう答えてくれた。
 やはり、禁忌の魔法によって、彼女は老人の姿になったようである。
 命を使うと聞いていたので、それはとても納得できた。彼女は自らの生命力を使ったため、老化してしまったのだろう。
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