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第2部

第56話 ゼアとエメユイの攻防戦

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 時は少し遡り、第二王子の元からエメユイを救い出した少し後の話。


――ゼア視点――

「それでねエメ、私たちのこれからについてなのだけれど…」

 あの後アカリたちと少しだけ話して、一旦私たちが今後どうするのか自分たち抜きで話してきて欲しいと言うアカリの進言もあって、私たちは一度屋敷に戻ることにした。
 多分だけど、私とエメを二人きりにするためのアカリの粋な計らいだと思う。

 非常にありがたいしエメと二人になれて嬉しいのだけれど、すっっっごく、緊張する!!

 エメはいつものようにメイド服姿で夕食を作り、配膳し、にっこにこで食べる私を微笑まし気に眺めてから自分も食べて、その後にお話し合いって流れになったのだけれど、私はもうずーっと緊張しっぱなし!

 エメのエプロン姿を見るだけで顔がニヤケてくるし、自分のためにあくせく働いてるんだと思うと愛おしく感じるし、私がご飯を食べてる所をそんなふにゃりとした顔で微笑まれたら胸の奥がギューッと掴まれてるみたいに苦しくなってくる。

 エメはいつも通りの澄ました顔で私の真向かいに腰掛け、

「今後と言うのは、私とゼア様の関係について…でしょうか?」

「そっ…それも…あるのだけれど…」

 ぷしゅーと、頭から煙が出そうなくらいに顔が熱い。
 なんでエメはそんな落ち着いた感じでいられるのよ!私はこんなに余裕がないのに!!
 うぅ…やっぱりエメは私よりもずっと年上なのだし、その、色々経験豊富だから動じないのかしら。なんだかそれは、うぅ…何だか少し嫌。

「…ゼア様?どうされました?」

「エメはえっちなこととか経験豊富なのかしら…」

「っ!?」

 エメがすごく驚いた顔で何やら狼狽えている。
 え?私、もしかして今声に出てた…?

 だとしたら…だとしたら、わー!!恥ずかしい!!死にたいっ!!嘘っ!死にたくはない!!

 ゼアはわたわた慌てた様子で両手をふりふり勢いよく立ち上がる。

「ちっ、違うの!今のは違うからっ!!そのっ、エメがあんまりに落ち着いているからそういうことに経験豊富なのかとか、私以外の方と、そ、そういう行為をしていたら嫌だなとかそういうことを言いたい訳ではなくて…って私、何で自分で全部言っちゃってるのよ!!」

 ゼアは自分で自分の心情を全て吐露してしまって頭を抱える。

 あの場では大声でエメユイへの愛の告白を叫んだゼアだったが、あの時は場の流れと言うか、色々余裕がなかった故の思い切りもあったと言うか、一度落ち着いて改まると気恥ずかしさでどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

 エメユイは一瞬キョトンとした顔で慌てるゼアの顔を覗いていたが、やがて自分も椅子から立ち上がりゼアのすぐ隣まで近寄り、忙しなく動いている腕を掴んだ。
 そのまま自分の胸元まで運ぶ。

「ちょっ、エメ!?」

 ふにょん

 服越しでも否応なく感じる胸の柔らかさ。そのままギュッと力強く押し付けられ、ゼアは火を噴きそうな程真っ赤になる。
 少し落ち着き、その豊満な胸の奥から伝わる鼓動が自分のものと同じくらい速く打っていることに気付く。

 ゼアはハッとした顔でエメユイを見ると、彼女も僅かに頬を赤らめてゼアのことを愛おし気な表情で見ていた。

「私は今まで、全く他人に興味がありませんでした。あるのはメイド業と魔法に関する研究だけで、一生独り身でも構わないくらいの気持ちでいました」

 「ゼア様にお会いするまでは…」と丁寧に言を添える。

「お慕いしております。出会った時から、ずっと」

 エメユイはゼアの両手を握りしめ、顔を鼻がくっつきそうな距離まで近付けた。
 エメユイの顔はゼアが今まで見たこともないくらい真っ赤に火照っており、近付いてみると鼻息も荒く余裕がなさそうだった。

「で、出会った頃…から…?」

「はい。初めは国王が直々に命をくださり、それは大変に光栄なことでしたので快くお受けしまして、初めてゼア様の住む屋敷を伺いました。ある程度は国王から事情を聞かされておりましたが、ゼア様の人となりについては何も聞かされておらず、境遇も境遇だったので多少覚悟はしておりました。しかし、実際にお顔を拝見してみて、私は…一目惚れしてしまいました」

「ひ…一目惚れ…?そんな、嘘よ。だって私、エメと会った時なんて暗い顔してたし、丁度エメの前に世話してくれていたメイドが事故で亡くなってしまって情緒も変だっただろうし、そもそも私って元々口調とかちょっとキツいって自覚してるから…」

「…勇気を出して本心を話しましたのに、信じてくれないのですか?」

 少しだけ目を細めて、頬を膨らませるエメユイ。
 普段はクールで仕事人な彼女が見せるいじけた子供っぽい表情。それだけでゼアはキュンキュンしてしまい、握られている手にもう少しだけ力を入れる。

「しっ、信じるわ!!」

「はい、良かったです。大好きですよ、ゼア様」

「ちょっ、あなたそんな感じだった!?ちょっとデレデレ過ぎるんじゃないの!?」

「ゼア様、私、ゼア様と接吻がしたいです」

「ちょっ!?エメ!?顔近っんむっ!?」

 手を振り解いて離れようとしたゼアの両頬をがっちりと挟み、やや強引に唇を重ねた。ゼアはあまりの驚きに声を上げようとしたが隙間なく塞がれているためくぐもった音にしかならず、鼻で息をすることも忘れて段々酸欠で段々抵抗が弱くなっていく。

 ぐったりしていくゼアに気付いたエメユイは慌てて口を離した。

「ゼア様!?申し訳ありません!大丈夫ですか!?」

「…はぁ…はぁ…。死ぬかと…思った」

 ゼアは酸素をいっぱいに吸い込み、荒い息を繰り返す。エメユイは心配そうにゼアの背中と後頭部に腕を回し、倒れないように支える。
 段々と落ち着いてきたゼアは焦るエメユイに気付いて自分が鼻呼吸をしなかったのが悪いんだとフォローしようとしたが、エメユイの唇にばかり意識がいってしまい言葉が出てこない。

 エメユイはゼアの視線を辿り、それが自分の唇に向かっていることに気付いて意地悪そうに笑う。

「ゼア様は、私の唇に熱心なようですね。そんなに気持ち良かったのですか?」

「ち、違っ…くはないけれど…もう!エメ、さっきから意地悪よ!!」

 ぷんすか怒るゼアの頬を愛おし気に撫でる。撫でられているゼアは満更でもない表情で口角を緩ませて、添えられている手に無意識に擦り寄る。
 今度はエメユイの方がゼアのあまりの可愛さにノックバックする。

「ゼア様…可愛すぎますっ」

「かっ、かわっ!?はぁ!?なっ、何を!そ、それを言うならエメだって綺麗過ぎなのよ!!最初に会った時からずっとクールで何でも出来るしっ、でも寝てる時は何だかあどけない子供みたいでギャップがすごいしっ!身も心もとっても綺麗でその透き通るような碧眼に見つめられて何度悶えたか知らないでしょ!!」

 まさかの反撃を喰らって再びノックバックするエメユイ。

 その後も二人の攻防は続き、なんやかんやで二人の今後の方針は粗方決まったが、二人の関係の方針についてはベッドに持ち越されることとなった。
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