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一章 出会いとクリスタル

14話 退避

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「ちょっと何やってるのよ!? 本当に死ぬわよ!?」
 
 女の子を助け終わり、苦しみ悶える俺にミーアが声をかける。信じられないものを見る目で、俺が行った予想外の行動に若干引いている。

「ごめん……でもできるかもって思ったら勝手に体が動いちゃって……」
「はぁ……しょうがないわね。傷見せてちょうだい。ポーションで治療するから」
「いや俺より先にこの子の……」

 先程まで暴走していた女の子の容態を確認するが、彼女には特段外傷、特に火傷痕は見られない。とはいえ古傷などはあるが。
 火のクリスタルの力か衣服が燃えていないように見えたが、本当に使用者には害を一切与えないようになっているのだろう。

「この子は大丈夫よ。力を使い過ぎて気を失っているだけだわ。それよりどう考えてもあなたの方が重症でしょ!」

 ミーアに軽く叱られながら俺は治療を受ける。効率良く怪我したところにポーションをかけてもらう。
 品質の良い物なのか、焼け爛れた体はみるみるうちに治っていく。

 この世界は本当にすごいな……ぐちゃぐちゃに吹き飛ばされない限りはポーションでこうやって治せるんだから。
 前の世界にもあったらな……紛争とかで死ぬ人も少なかっただろうに……

「ほら。人が来る前にさっさと出てエルフィー達と合流するわよ」

 ミーアは女の子を背中に抱え、誰かが来る前にここを出て事前に決めていた合流場所まで走る。

「そういえばあの市場放ったらかしにしてよかったのかな……」

 ボロボロになってしまった市場のテントが見えなくなったあたりで、今回の件の後処理につい気になってしまう。

「エルフ達を攫った商人が死んだらしいけど、非人道的なことをやっていたのだから自業自得よ。市場が燃えてしまったのは管理者に悪いけれど、この子を騎士団に渡すわけにはいかないわ。あれは不慮の事故ってことにさせてもらうわ」

 自分の意思でやったわけじゃないとはいえこの子は放火をしでかした。本来は騎士団に渡すべきなのだろうがこの子はクリスタル所持者だ。
 色々聞いておきたいこともあるし、何よりこの子がやろうと思えば騎士団の人なんて簡単に焼き殺せてしまうだろう。それほど先程見た力は強力だ。

「ん……ぅ……」

 合流場所に指定していた森に入り、約束の場所まで後もう少しという所でミーアの背中で寝ていた女の子が目を覚ます。

「きゃっ……!!」

 薄っすら目を開いたと思えば、急にカッと目を見開き慌て出しミーアを突き飛ばし、そのせいで女の子は地面を転がってしまう。

「もう起きたの!? あんなに消耗していたはずなのに……」

 ミーアは突き飛ばされたことよりもう意識を取り戻すほどの回復力に驚いている。

「大丈夫?」

 俺は擦りむいて傷を増やす彼女に手を差し伸べるが、怯えてしまっており手を取ろうとはしてくれない。
 
「怯えなくてもいいわよ……というより単純な魔力量だけならリュージよりあなたの方が多いでしょ」

 ミーアは女の子に対して呆れた様子で応対する。

「僕が……?」
「ちょっと待って。君はさっきまでの記憶はあるの?」

 その何も分かっていない、ポカンとしている表情に俺は違和感を覚える。

「記憶……気づいたら暗い僕のような子供がいっぱいいる場所にいて……」

 先程の奴隷市場のことだろう。さっきまでは燃えていて明るかったが、特に灯りなどもなく暗かった。

「それってもしかして記憶喪失ってこと?」

 話を聞いているとどうやら暴走していた間記憶がないというより、それ以前の記憶もないように思われる。

「はい……昔のことが全く思い出せず……」
「なぁミーア。これってもしかしてクリスタルの力を使った反動だったりしないか?」

 クリスタルのあの力は人智を超えている。こんな小さな子があれほどの力を引き出したのだ。何か体に障害が出てもおかしくはない。

「いえ。クリスタルにはそんな反動はないはずだわ。消耗こそすれど身体に重大な影響がないって説明を受けたわ」
「じゃあクリスタルのせいじゃないのか」

 女の子は相変わらず怯えている。目が覚めたら体が燃えていて、そうして気を失って今に至る。年齢を考えたらこんな風に怯えてしまうのも当然だ。

「怖がらなくてもいいよ。俺は君の味方だから」

 この子がクリスタル使用者だろうが、どんな経緯があったのかは俺には関係ない。
 この子はきっと本心から怯え困っている。ならば俺は彼女を助けなければならない。
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