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二章 正義vs正義

33話 同類

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「みんな警戒しろ! あいつは……」

 俺が言い終わる前に二人は席を立ち下がって奴から距離を取る。俺の注意は必要なかったらしい。
 俺も二人の近くまで下がりクリスタルの力をオンにする。
 ここは店の中なのであまり派手に力は使えない。どうにかして奴を店の外まで出したかったが、思惑とは反対にこちらの方へ近づいてくる。

「ん? ハンバーグかぁ。ここのハンバーグは美味いよなぁ……なにより熱々で最高だよなぁ。体を暖めてくれるから助かるぜぇ」

 奴は俺達が座っていた席まで向かい、ハンバーグを凝視する。そして何をトチ狂ったのか、俺のハンバーグを手掴みで荒々しく食べ始める。
 まだ熱が残っているので手が火傷するが、それでも構わず食い散らかす。
 
 今の奴の注意はハンバーグに向いている。その隙を突きミーアが風に乗って飛んでいき奴の腹に飛び蹴りをくらわせる。
 店の外まで飛ばされ奴は雪の上に落ちる。

「良い蹴りだぁ……オレも熱くなってきたぜぇ」

 しかし男は何事もなかったように立ち上がる。手にはいつのまにかバールを持っており、殺意の籠った二つの瞳がこちらを睨みつける。

「フラムソード!!」

 アキが剣を振り下ろすが、奴はそれをバールで受け止める。
 あの威力の攻撃を受け止めてもヒビ一つ入らない。恐らくあれは魔王の側近のフードの男が渡した武器だろう。
 となるとあれにはクリスタルの力を使った攻撃ができるはずだ。それは警戒しなければならない。

「これは火のクリスタルか……いいねぇ。オレを暖めてくれよ!」

 奴は再びおかしい行動を取る。なんと自らバールによる防御を解いて剣を自分の体に当てたのだ。
 服が焼け飛び肉が炙られているというのに奴は笑いながらアキの方へと迫る。

「お礼してやるよ!!」

 バールの振り下ろし際にアキは剣を変形させ盾にする。だがバールの一撃でそれはガラスのように砕け散ってしまう。
 それはアキの頭を強打し彼女を地に伏せさせる。頭部から多量の血液を流し、すぐに治療しないと死んでしなうかもしれない。

「クリスタルを出せよ! オレの闇のクリスタルよぉ!!」

 助けに駆けつけようにもその前に彼女の体に何発もバールが振り下ろされる。その数撃で火のクリスタルが二つ飛び出て奴に取り込まれてしまう。
 彼女から離すべく日本刀で突きを繰り出すが、ありえない姿勢からバールを動かし日本刀の軌道をずらされてしまう。

「ラピッドショット!!」

 ミーアも三発の風の弾丸で追い討ちしてくれるが奴はそれらもバールで叩き落とす。
 今度はバールで防御しても意味がないように至近距離で足に力を入れタックルをくらわせる。またしても防御を入れられてしまったがアキから奴を退かすことには成功する。

「中々良い判断と攻撃だ。いいねぇ……お前と戦ってると寒さを忘れられる。もっと熱くなろうぜぇ」

 奴は服の中からノーマルクリスタルを六つ取り出し、次にバールの先を回す。先が取れてその中の空洞にノーマルクリスタルを入れもう一度先を嵌め直す。
 俺達も迎え撃つべく俺は日本刀に、ミーアはナイフにノーマルクリスタルの力を注ぎ込む。

「せいやっ!!」

 俺の掛け声と共に俺とミーアは莫大の魔力が籠った衝撃波を飛ばす。だが奴はそれらをまるで野球ボールのように見立てバールで弾き返す。
 弾いた方向はこちらであり、俺達は躱すことすらできずにその攻撃によって凄まじい衝撃をくらう。
 特にアキの前に立っていた俺のダメージは大きく、闇のクリスタルが体外に飛び出てしまう。

「こっちに来い!!」

 奴はその場でバールを振り下ろし、そこに黒い裂け目が発生しクリスタルが引き寄せられる。それを体内に取り込むことで奴から放たれる圧がより一層強まる。

「さぁて誰から殺してやろうか」

 動けない俺達に奴が歩み寄ってくる。殺すことなど何とも思わない後ろめたさなど一切考えていない目。
 奴はまず俺の首を掴み上げる。

「ん……お前良い目をしているな」

 だが奴は殴りつけようとする拳を降ろし恍惚な笑みを浮かべる。

「オレと同じ極悪人の目だ」
「何だと?」

 俺の声から光が失われる。忌まわしい記憶の引き出しが開かれそうになり、今の傷などどうでもよくなる。

「その目だよ。人殺しの目だ。
 気に入った。オレのクリスタルは回収できたし特別に見逃してやる。今はもっと殺したい奴もいるしな」

 俺は雪の上に放り投げられ奴はどこかへと消えていく。

「ゴハッ……ミーア……ポーションをアキに」

 ミーアに一番容態が酷いアキの治療をさせようとするが、ミーアはもう気を失ってしまっている。

「そんな……なら俺が」
 
 ミーアの元まで行きアイテムボックスに手を伸ばすが、段々と体が冷たくなり視界も暗くなり、アキを治療する前に意識が暗転してしまうのだった。
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