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二章 正義vs正義
43話 殺す
しおりを挟むエムスはこの前より更に速度を上げてこちらに向かってくる。
「ラピッドショット!!」
まだ距離があったので、ミーアは奴を迎撃するべく風の弾丸を放つ。
だが奴は避けも受け流しもせず、走る速度を引き上げる。奴の周りに衝撃波が発生し風の弾丸はそれに触れて軌道がズレてしまう。
「だぁぁぁ!!」
奴はまずアキに狙いを決めてバールを振り下ろす。トンファーで咄嗟に防御するものの小さい彼女では受け止めきれず後方に飛ばされる。
俺は彼女が壁に激突してしまう前に俺自身がクッションとなることでそれを防ぐ。
しかし俺がアキの方に向かってしまったせいで奴とミーアが一対一で向き合う形となってしまう。
ナイフとバールがぶつかり、火花を散らし鋭い金属音を立てる。ミーアはそこから引きながらも防御と同時に何発かナイフによる攻撃を奴の体に放つ。
そのうち数発は奴の体を切り裂く。
「良い技持ってんじゃねぇか……それにこの剣技……お前まさかま……」
ミーアの足の筋肉が突然肥大化する。力を込めたとかそういう次元ではない。まるで別人になったようだ。
俺とアキはミーアの後方にいるせいで彼女が今どんな表情をしているのか分からない。だが彼女は先程までの防御型の戦法から一転攻撃的な型を取っている。
「いいぜぇ……そっちの方が俺の好みだ!!」
ミーアにばかり負担はかけられないので、俺とアキもそれぞれの武器で奴に襲いかかり援護する。
「ありがとう助かったわ!」
ミーアの方をチラリと見るが肉体はいつも通りのものに戻っている。何事もなかったかのように戦いを続ける。
「なんだよ。つまんねぇな」
奴の体から目に見えて力が抜ける。三人で攻めていたこともあり奴が後退し腕をダランとぶら下げる。
「もういい。お前らより先にディスティを……」
その言葉を言いきれずに奴は顔面に神々しい光の固まりをぶつけられ地面に倒れる。
「あぁぁぁぁぁ!! 殺す! 殺す殺す殺す殺す!!」
それを放ったのはディスティだった。俺達を跳び越え奴の元に向かい、倒れたところに杖で追撃をかける。
何発も何発も何発も顔面に杖を叩きつける。技もクソもない。ただ怒りに全てを任せた攻撃だ。
「おいやめっ……ちょっと待て。この気配……ディスティ。君はまさか……!?」
その怒気に混じりクリスタルの圧が彼女から放たれている。それを隠す気などなく、血走る目を一瞬こちらに向けるがそれもすぐに止め奴を殴り続ける。
妹を殺され家族を全て奪われた恨みをただひたすらにぶつけ続ける。
「待てっ! そのまま続けたら死んでしまうぞ!」
動かなくなったエムスを未だに殴り続ける腕を掴み制止させる。過度な私刑を止めさせる。
「はい? 殺すために殴っているんですよ?」
彼女は危険な目をしている。もう止まる術を失った脱線列車のようだ。漆黒の憎悪の炎が瞳に宿っている。
あの時の俺と、昔の俺と一緒の目をしている。止めないといけない。無理矢理にでも。
そんな使命感めいたものが胸の中に宿った時エムスの手が動き出す。
「危ない!!」
咄嗟のことで上手く体を動かせず、彼女を殴り飛ばす形で奴の強打を避けさせる。
バールが俺の腹を突き刺し鮮血が奴の服に飛び散る。だが案外傷は深くなくすぐに離れることができる。
「あそこにいたぞ!!」
騎士団の人達が流れるようにこの場に入り込んでくる。
「この数相手は面倒だな……不本意だが……」
奴は壁を蹴り破りそこから外に飛び出して闇の中に消えていく。
「待てっ!! 殺してやるっ!!」
ディスティは血眼になってその開いた穴に飛び込み奴を追いかけ、それに続いて騎士団の人達も意気揚々と向かっていく。
「リュージ大丈夫!?」
ミーアがすぐさま適切な治療をしてくれて、俺の腹の傷は完全に塞がってくれる。
「ありがとう。ところでディスティのことだけど……」
「えぇ。彼女もクリスタル保有者で間違いないわ。でも私達とは敵対的には見えないわ」
ディスティは光のクリスタルを持っている俺を攻撃せず、エムスを真っ先に攻撃した。
奴を優先したのは家族を殺された恨みもあるだろうが、やはりそれでも彼女が俺達と敵対関係になることは想像できない。
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