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二章 正義vs正義

47話 十の力

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「魔族の力。見せてあげるわ!!」

 ミーアの踏み込みによって、彼女の背後に大きく雪が舞い散る。手袋の手首の部分にあるそれぞれ六つずつの窪みにノーマルクリスタルを嵌め奴を殴りつける。
 奴は完璧なタイミングでバールを入れるものの、バールごと体を殴り抜けられる。奴の体が宙を舞いそれから雪の中を転がる。

「いいねぇ!! こういうのだよ!! 体が痛くて腫れて熱くなってくる!!
 お前と戦えばこの寒さもマシになる!!」

 エムスは今までに見たことないほど口角を上げ、何度殴られようと、どれだけ傷を負おうと立ち上がってくる。
 ミーアが隙を見てポーションで一旦回復しようとするが、奴はありえない姿勢から素早く迫ってきて彼女の右手を弾く。その時に瓶が割れてそれがちょうど俺とアキにふりかかる。

 ポーションは体の表面にかかるだけでも効果はある。しかし流石にかかった量が少なく完全回復まではいかない。アキに至ってはまだ重症の範疇だ。
 俺はやっと動くようになった足を動かして立ち上がる。

「リュージ様……これを使ってください……!!」

 アキは血反吐を吐きながらも火のクリスタルを五つ取り出し俺に手渡してくれる。
 これら全てを取り込めば、計十個のクリスタルを取り込むこととなる。その反動は桁違いになるだろう。
 俺はあれから一ヶ月でかなりクリスタルを扱えるようになった。とはいえ一気にこれだけのクリスタルの力を扱うのには不安が残る。

 ミーアの方は互角……いやミーアの方が押されている。このままだと……

 エムスは体力が減っているように思えない。底無しの沼のようだ。それに対しミーアは額に汗を浮かべ段々と体につける傷も増えてきている。
 
 死ぬまで何秒保つ? 三十秒か? もっと少ないのか……でも、それだけあれば十分だな。

「任して! エムスは俺とミーアで倒す」

 アキから五つのクリスタルを受け取り二人の方へと駆け出す。

「ミーアッ!! 一気に攻めるぞ!!」

 奴の攻撃射程内に入るのと同時に五つのクリスタルを体内に取り込み、それら全ての力を起動させる。
 肺に水が流し込まれた感覚に襲われ、目の前が真っ白になる。それらと並行して全身が熱く燃え盛り始める。

「そんな力使ったら……分かったわ! あなたを死なせないためにも、こいつを手早く倒しましょう!」

 二人で息を合わせて奴に暇なく攻撃を浴びせ続ける。これには奴もたまらずガードを崩し、そこに二人で同時に蹴りを入れる。

「ゴボォ……ォェエェェ!!」

 奴は後退して吐瀉物を雪の上に撒き散らす。俺達はそれぞれの武器にノーマルクリスタルを嵌め、動けずにいる奴に狙いを定める。

「せいやっ!!」

 まず俺が魔力の斬撃を飛ばし、それにより吹き飛んだところをミーアの拳が捉える。
 そして飛ばされた先は氷が混じる川の中。血まみれ傷まみれの奴はそこに落ち三途の川を渡ることとなる。

「あっ……! クリスタルよ!」

 奴から飛び出た宙を舞ったクリスタルをミーアがキャッチする。火のクリスタルが一つだけだ。
 
 ミーアが前に説明してくれたが、死ぬとクリスタルが全て体外に放出されるんだったよな……つまり奴は生きたまま川の中で……

 しかし流れは速く、奴の姿はもう見当たらない。
 奴は許されざる極悪人だ。ただ最初から根っからそうだったわけではない。できれば然るべき罰を受け人生の限りを償いに割いて欲しかった。

「二人とも大丈夫かしら?」

 ミーアが人間の体へと戻り、倒れている二人の元に向かいポーションや包帯を用いて治療する。俺もクリスタルの力をオフにして痛む体を動かしアキに火のクリスタルを返却する。

「ふぅ……それにしても本当に負荷が酷いな」
「そのうち慣れるようになるわよ。数ヶ月後には十個くらい自由自在に扱えてると思うわ」
「だといいな。これからに期待するよ」

 傷が塞がったディスティが暗い顔をしながら立ち上がる。

「これから……ワタクシはこれからどうしたら……?」
 
 人生を、生きる意味を壊され完全に生気が抜けてしまっている。未来が見えず失望の念に包まれている。

「俺だって同じ気持ちを経験したことがある。生きている意味を、今までの人生を全て否定されて。でもどう足掻いても時間は戻らない。だから前に進むしかないんだよ」

 俺は彼女にせめて進むべき道を照らすべく手を差し出す。
 彼女は戸惑いながらも俺のその誘いを受け取ろうとしてくれる。

「ディスティ後ろ!!」

 突然ミーアが血相を変えて声を張り上げる。
 俺の腹部に生温かい汁が飛びついてくる。それは皮肉なほど綺麗な赤色をしている。

「よぉ……帰ってきたぜぇ」

 バールがディスティの腹部から飛び出している。いつのまにかエムスが忍び寄っていたようで、彼女の背後からバールを突き刺したのだ。

「お前で最後だぁ……!!」

 奴はそれをそのまま容赦なく振り上げ、彼女の腹から右肩にかけてパックリと割られてしまうのだった。
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