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偶然を装って
しおりを挟む「伯爵、レティシア嬢の姿が見えんが、部屋にいるのか?」
「レティシアでございますか?あれはいつも急にいなくなるものでして・・・確認はいたしますが、娘に何か?」
「面白い令嬢ではないか。なぜ姉だけを紹介したんだ?もったいぶらなくてもいいではないか」
「別に、もったいぶったわけでは・・・少々お待ち下さい」
辺境伯はそういうと、使用人を呼び、レティシアの居所を伺う。数分が経ち、使用人が応接室へと戻ってきた。
「旦那様、レティシアお嬢様は、街に出たようです」
「そうか・・・殿下、申し訳ないのですが、レティシアは街に出て不在にしているようです」
「街か・・・」
「ですので、時間を持て余してもなんですし、ここはマリーリアとお茶でも・・・」
「茶はいい。当主、私も街に出る」
「し、しかし・・・」
「お父様、街に出ると聞こえましたが、私がご案内いたしますわ」
やり取りを聞いていたマリーリアが応接室へと入ってくる。
「マリーリア嬢か・・・構わなくていい。勝手に見て回るだけだからな。では、失礼するよ」
ウィルフレッドを従えヴィンセントは本邸を立ち去った。伯爵は礼をして送り出したが、マリーリアはその後ろ姿をじっと見つめていた。
「ウィルフレッド、今から街に行くぞ」
「殿下、レティシア嬢に会いたいのはわかりますが、警護の件もありますし、何より入れ違いになっては時間の無駄ですよ。屋敷で待たれた方がいいのでは?」
「偶然に街で出会ったというのがまたいいのではないか!もし会えなければ、街の話をして一緒に行きたいと請えばいい。そう、デートに誘えるというものだな!早く行くぞ!」
ヴィンセントはウィルフレッドの言葉も聞かず、足早に馬車へと向かって行った。ウィルフレッドはヴィンセントの行動力に焦りを感じていた。自分は何もできていないのに、ヴィンセントがどんどんと先に進もうとする。前日にヴィンセントに会ったレティシアは、決して気のある素振りはなかった。しかし、関わる頻度や時間が多ければ、人の気持ちは変わることもある。どうにかして自分も彼女と親密になりたい。その気持ちが自身を焦らせていた。ウィルフレッドは、28歳と遅い初恋で心がかき乱されていた。
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次回
【マリーリアside】
なぜ私ではないの?なぜ、レティシアなの?
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