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休暇四日目⑥消えたレイバン

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神父に促され、二人は教会の中へと案内された。賑やかだった子ども達も、シスターが食事の準備の手伝いを促すと、素直について行った事で静けさが訪れた。


「この地は・・・随分と静かなのですね」

「えぇ・・・ここは・・・イズヴァンドは、20年前から時が止まっているのですよ」

「20年前・・・争いが起きた時の事だな」

「えぇ、隣国より攻め入られ、罪のない民の命がたくさん奪われました。その中には、領主夫妻も」

「領主夫妻の話はレイバン自ら聞きました」

「っ!・・・レイバンは・・・生きておるのですか?」

「えぇ、王都で近衛騎士を・・・俺の下で働いてくれていましたよ」

「そうなのですか・・・生き延びておったのだな・・・」


神父は、膝の上で両手をきつく握りしめ、鎮痛な面持ちで浅く息を吐いた。


「あれは・・・私の孫・・・領主は私の息子夫婦でした」

「そうか・・・」

「・・・隣国より攻め入られ、民は逃げ惑い、息子夫婦の屋敷には、混乱の最中領民が押し入ったと聞いています。私はこの教会の近くに小さな家を構え、隠居生活を送っておりました。騒ぎを聞きつけ、息子夫婦の無事を確認しに戻りましたが間に合わず・・・息子の命は絶たれた後でした。孫は・・・レイバンは、クローゼットの中から見つけ、保護しました。それからの領地は殺伐としていて、家族を奪われ仕事を無くした者で溢れかえり、幼いレイバンに、心無い事を言う者も多く、小さな心は限界を迎えたのでしょう。ある日突然・・・レイバンは姿を消したのです。小さな子どもの足です、それほどまで遠くには行っていないと思い、探し回ったのですが見つからず・・・もしかしたら、領民にやり場のない気持ちをぶつけられ、どこかで辛い思いをしていないか・・・痛い思いをして・・・もしくは命を奪われてしまったのではないかと・・・もっと、もっと私が守るべきだったのに!・・・何も・・・何もできなかった・・・」


レイバンの祖父であると言った神父は、嗚咽を漏らしながら、必死に言葉を紡いでいた。レティシアは、悲しそうに微笑むと、神父へと声をかける。


「神父様・・・レイバン様は、心根の優しい方ですわ。この地を憂いておいででした。子ども達が自分と同じ目にあわないように、二度と民が苦しい思いをせず済むようにと思っておいででした。やり方は間違えてしまいましたけれどもね・・・」

「間違えた?」

「あぁ、陛下の寝所に押し入って、あろう事か剣を向け怪我を負わせた」

「なっ・・・何故そのような事に・・・」

「王子殿下が言っておられました。王族が何をしたと言うのだと。何をした・・・何もしなかったとレイバンは言っていました」

「何も・・・」

「起きてしまった争いや被害は、替えの効かないものもあったでしょう。だが、この街は、領地は捨て置かれてしまった・・・王族が何をしたわけでもないが、何もしてくれなかったと・・・何か復興の手助けでもしていてくれれば・・・もう少し領民の気持ちも報われたかもしれない。レイバンは、それを陛下に・・・王族に知っていて欲しかったのだと。少し強引な手に出てしまったが、その気持ちは陛下にはしっかりと伝わった」


その話に、神父は小刻みに身体を震わせながら聞き漏らすまいと耳を傾けていた。






ーーーーーーーーーーーーーー

次回

・・・神父様にはお見通しでしたのね?


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