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第8章 竜界編

04 竜后、無竜

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 九十八階層で身体の調整を終えたローグは、カプセルハウスへと戻り、ゆっくりと休む。そして翌朝、ついに無竜が待つだろう九十九階層へと向かった。

「これは……今までの階層と違うな」

 九十九階層は今までのようなだだっ広い空間ではなく、これまでのダンジョン同様、フロアボスの部屋のような造りだった。だがそこは戦うための部屋とは違い、暮らすための部屋に見える。見ると寝具や椅子、テーブル、食器や本棚まである。

 そんな部屋の中央で滑らかで銀色に輝く毛をまとう竜が丸くなって寝ていた。

《母様~っ! 久しぶり~!》

 中央にいた銀色に輝く竜は片目をパチッと開き、声の主を見た。

《おかえり、時竜。久しぶりですね。それにしても……ずいぶん成長したみたいね》
《うんっ! このお兄ちゃんに戦い方を教えてもらったの~! すっごく強いんだよ~!》

 それを受け、銀色に輝く竜はチラリとローグの方を見た。

《あなたが竜界に現れた人間ですね。わずか一年半でここまでたどり着くなんて……さすがあの子達が連れてきた人間ね。私は無竜、全ての属性竜を生んだ者です》

 ローグは床に膝をつき、胸に手を当て頭を下げる。

「初めまして。俺はローグと申します。地上にある国で国王を勤めております。この竜界には地上にいた十体の竜の力を借りて参りました」
《見ていました。あの子達が人間と仲良くしている光景など初めて見ましたわ。昔のあの子達はとにかくヤンチャ──と、この話は今必要ありませんね。さて……》

 無竜の表情が真剣なものに変わった。場に緊張が走る。

《ローグさん? ここへ来た目的を伺ってもよろしいでしょうか》
「はい。その……実は……」

 ローグは無竜に誤魔化す事なく真実を語った。全ての話を聞いた無竜はローグに対し深々と頭を下げた。

《わ、私達の娘が申し訳ありませんっ! まさか人様の魔力を勝手に使用して子を作ってしまっただなんて!》
「あ、いやっ! そこまで謝らなくても!」
《いいえ、これは許される事ではありませんっ! どうしたら許していただけるでしょうか? もちろん水竜にはあとできつく躾をしますので!》

 それと時を同じくし、塔の外で光竜と戦っていた水竜。

《くらえっ! 【ウォーターブレ──エェェェックション!!》
《ぎゃあぁぁぁっ!? す、水竜っ!! 汚いですよっ! なんという真似をっ!!》
《あ、あはは。ごめんごめん》

 光竜はタイミングを読み躱わそうとしていたが、くしゃみでタイミングがずれ、水竜の放ったウォーターブレスに涎や鼻水が混じったものの直撃を受けた。

《うぅぅ、汚い……》
《た、多分誰か噂してたのよっ! 私は悪くないわっ!》
《……良いでしょう。もう少し厳しくいきます》
《わ、私のライフはもうゼロよぉぉぉぉっ!?》

 それを見ていた他の竜達は口を揃えてこう言った。

《《》》

 そして話はローグに戻り、ローグは生まれた子について話をしていた。

《あなたは神の使徒だったのですか……》
「はい。それで、俺の魔力を使った水竜の子は全く例のない種族になってしまいまして」
《神竜人でしたね。確かに今まで聞いた事もない種族です。そもそも神、竜、人が交わる事などありえないのです》

 話が長くなりそうだったため、無竜は人化し、テーブルでお茶を飲みながら話をしている。ちなみに時竜は例の如くローグの膝の上で丸まっている。

《なるほど。ではあなたの目的はこの報告なのですね?》
「はい。黙っているのも違う気がしまして」
《ふふっ、真面目なのですね。それに真っ直ぐで良い眼をしています。水竜の気持ちもわからないではありませんね》
「か、からかわないで下さいよ」
《ふふっ》

 無竜はローグに怒りを向けるでもなく、ただ事実をそのまま受け入れた。

《さて、私はひとまず納得しました。ですが……全竜は納得しないかもしれませんね》
「……やはり全竜は恐ろしい相手なのでしょうか?」
《そうですねぇ……。全竜は私ほど穏やかではありませんよ。恐らく全力で殺しにかかるでしょう》
「そうですか。しかし、それも承知の上で来ましたので……。それに、水竜が勝手にやらかした事とはいえ、挨拶はしておかないとですね。ケジメは大切ですから」

 無竜はローグの真摯な態度に感心していた。

《ふふっ、私は貴方を応援しますよ。久しぶりに見たあの子達はあんなにも幸せな表情をしているのですもの。あの子達ももう大人です。今さら口出しはしません。しかし、何度も言いますが、全竜は違います。先に進むなら覚悟してお行きなさい》
「忠告ありがとうございます。さて、リーミン」
《なに~?》

 ローグは膝の上にいる時竜に声を掛けた。

「俺はこれから全竜の所に行く。お前はどうする?」

 すると時竜はローグの膝から降り、テーブルの上に移動した。

《私は母様に成長を見せるから、ここでお兄ちゃんの帰りを待つよっ。お父さん、本当に短気だから気を付けてね、お兄ちゃんっ!》
「短気……か、ははっ。まぁ……死なない様に頑張るよ」

 そうしてローグは無竜とは戦わず、最後の竜が待つ最上階へと向かうのだった。

 そしてローグのいなくなった無竜の部屋。

《母様? お兄ちゃんの力を確かめなくても良かったの?》
《……確かめるまでもありませんでした》
《え? か、母様?》

 時竜は無竜の額から汗が垂れ、身体は微かに震えている事に気付いた。

《ふぅ……。何とか竜の威厳だけは保てたかしら? もし戦っていたら負けていたわ。それだけ彼と私の間には差があったの。時竜にはまだ分からないかもしれないけど、あの人は……とんでもないバケモノよ。全く……、あの子達ったら、とんでもない人間を見つけてきたわね》

 ローグは威圧していたわけでもなく、比較的穏やかに接していたが、無竜はそれでもローグの力を感じ取っていた。

《私に戦い方を教えてくれたのはお兄ちゃんだし、強いのは分かってるけど……そこまでなの?》
《正直……私は彼と戦いたくないわね。絶対に勝てないもの。けど、全竜なら負けても私は痛くもなんともないし……こっそり見戦いを覗き見しに行く?》
《行くっ! お兄ちゃんの本気見てみたい!》
《あらあら、お父さんの応援はしないのかしら?》
《だって、お兄ちゃんの方が強いし優しいし、何より格好いいもん! 母様もそう思うよねっ?》
《ん、ん~……確かに? 私もこっそり彼の魔力もらおうかしら》
《あ~浮気だ~。父様に言わなきゃ~》
《あ、もうっ! 良いわよ別に。私の方が全竜より強いもの。彼が勝ったら……ロクに育児もせず飛び回ってばかりの全竜には離婚してもらおうかしら》
《母様が本気の目してる……》

 こうして二人の戦いを見るため、無竜と時竜はこっそりローグの後を追うのであった。
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