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夏目さんの好きな人

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「…………。」


「香月。」


「…」


「香月!」



「あ、ごめん。豊兄さん。」

移動中の車の中。僕はぼーっとしちゃってた。

芸名を香月にして暫く経って、本名も『月(ルナ)』から『香月』に変更した。

今の僕は、雪村月(ルナ)ではなく、春山香月。芸名、冬木香月。

名前を変えて暫くは今みたいに返事がすぐにできなかったけど、最近はだいぶ慣れていたのに、呼ばれたことに気付いていなかった。



「香月、悩みがあるなら言ってくれよ?やっぱり同居が嫌なんだろ?全く親父も何を考えてるんだか。」

運転席の兄さんは、ハンドルを回しながら何かに苛立っているようだ。

僕は表情が変わらないから、僕の気持ちは口に出さないと伝わらない。

だから、僕の様子が少しでもおかしいと、みんな心配なのだそう。



「悩みってわけじゃないんだけど…。好きな人のことが、どんどん好きになるのに、その人には好きな人がいたんだよ。どうすればいいのかな?」

「香月を選ばないやつがいるわけないだろう。そんな見る目のないやつのことをいつまでも考えるな。兄さんがいるじゃないか。そいつは、その好きな人とやらとどうにかなってるのか?どうにかなりそうなのか?」

「分からないよ。」


「なら、好きだって伝えてみればいい。後悔するぞ。」

「迷惑じゃないかな…。」

「香月を好きにならない奴なんていない。迷惑じゃない。もしかしなくても、それ、夏目太陽だろう。」


「エッ」


「表情なんてなくたってそのくらいお兄ちゃんは分かるぞ。だが!役者っていうのはな、ああいうブイブイ言わせている奴は好青年に見えても下半身は暴れん坊将軍なんだ。あいつなら男も女も入れ食いだろう!兄ちゃんがあいつのことを調べてやる!お前に相応しい男かどうかをなァ!」


「ちょっと兄さん、そこまでしなくても、いいから!」


そんなこんなでついたスタジオは、太陽の現場の近くだった。
今日は女性誌のグラビアとファッション誌の表紙の撮影だって。

仕事が終わったら、少しくらい様子を見れるかな?
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