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13.意外な弱点
しおりを挟む「さて、それでは行きましょうか」
馬車を降り、王都の中心街へと歩き出す。
「で、一体何の苗を買いに行くんだい?」
私の後ろに続くように歩きながらグレイが聞いた。私はくるりと振り向いて答える。
「そのことなんですけど、実はグレイ様の好きな野菜は何なのかをお尋ねしたくて」
「僕の好きな野菜?」
彼は不思議そうに聞き返してきた。
「ええ。お屋敷では一緒にお食事を取りませんし、せめてその口に運ばれるものくらいは私がご用意してもいいかなって」
「そんなこと気にしていたのか」
「もちろん! 大切ですよ、とても」
これから共に生活する上で。
「さあ教えて下さい!」
「それは……」
「?」
グレイは急に語気を弱めた。
「別に何でもいいよ。君の好きなもので」
「そんなこと言わないで下さい」
「何故さ?」
「何でもいいって言われちゃうと、私が好きな野菜ばかりになるからですよ。グレイ様はきっと違うものがお好みでしょう?」
「別にそれでいいって」
そう言うと、彼はばつが悪そうに視線を逸らした。何かがおかしい。
「……グレイ様、もしかして」
「なんだい」
「野菜嫌いですか?」
私の質問に、グレイは顔を背けたまま答えた。
「嫌いじゃないよ。好きなものが特にないだけだ」
「本当に?」
「本当に」
私はじっと彼を見つめた。グレイはその視線に気まずさを感じ始めたのか、顔を背けたまま段々と前へと進んでいく。
「グレイ様」
私は彼の前に立ちふさがった。そうしてにっこりと微笑む。
「『別に何でもいい』ってのは婚約者だけにしましょう? お野菜食べれるようになったら、きっとご家族も喜びますよ」
「君さっきから知っててわざと訊ねたのかい?」
「いいえ、つい今さっき思い出しただけです」
そういえば、ミスティ夫人が「グレイは嘘をつくのが下手で、ばれないうちにそそくさと逃げるような振る舞いをする」って言っていたなあって。まさかこんな場面でその情報が活用できるとは思ってなかったけど。
「君が意地の悪い人だとは思わなかったよ」
グレイはため息交じりに言う。
「でも、そのおかげでお野菜を食べてくれるなら、私としては嬉しい限りです」
「……善処するよ」
観念したように、グレイは言った。その様子を見て私は彼に小指を差し出す。
「何これ」
「指切りです」
「見ればわかるよ。そうじゃなくて、何故そんなことを」
「野菜がきっと食べれるように」
「そういうの、別に必要ないんだけど……はあ」
そう言いながらも、彼は小指を絡めてきた。その手が少しだけ温かいことに気が付く。
「この事は他言無用だから」
「ええ、かしこまりました」
彼の決意を目の当たりにし、私は笑顔で頷いた。そしてそっとその指を離した。
「では早速お店を探し……」
そんな折だった。
「あら、お姉様」
後方から声。振り返ると、そこには見慣れた顔の人物がいた。
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