婚約破棄でも構わないけど、真面目馬鹿とは聞き捨てならないので祝福は本日をもちまして終了しました。

椿谷あずる

文字の大きさ
13 / 20

13.意外な弱点

 
「さて、それでは行きましょうか」

 馬車を降り、王都の中心街へと歩き出す。

「で、一体何の苗を買いに行くんだい?」

 私の後ろに続くように歩きながらグレイが聞いた。私はくるりと振り向いて答える。

「そのことなんですけど、実はグレイ様の好きな野菜は何なのかをお尋ねしたくて」
「僕の好きな野菜?」

 彼は不思議そうに聞き返してきた。

「ええ。お屋敷では一緒にお食事を取りませんし、せめてその口に運ばれるものくらいは私がご用意してもいいかなって」
「そんなこと気にしていたのか」
「もちろん! 大切ですよ、とても」

 これから共に生活する上で。

「さあ教えて下さい!」
「それは……」
「?」

 グレイは急に語気を弱めた。

「別に何でもいいよ。君の好きなもので」
「そんなこと言わないで下さい」
「何故さ?」
「何でもいいって言われちゃうと、私が好きな野菜ばかりになるからですよ。グレイ様はきっと違うものがお好みでしょう?」
「別にそれでいいって」

 そう言うと、彼はばつが悪そうに視線を逸らした。何かがおかしい。

「……グレイ様、もしかして」
「なんだい」
「野菜嫌いですか?」

 私の質問に、グレイは顔を背けたまま答えた。

「嫌いじゃないよ。好きなものが特にないだけだ」
「本当に?」
「本当に」

 私はじっと彼を見つめた。グレイはその視線に気まずさを感じ始めたのか、顔を背けたまま段々と前へと進んでいく。

「グレイ様」

 私は彼の前に立ちふさがった。そうしてにっこりと微笑む。

「『別に何でもいい』ってのは婚約者だけにしましょう? お野菜食べれるようになったら、きっとご家族も喜びますよ」
「君さっきから知っててわざと訊ねたのかい?」
「いいえ、つい今さっき思い出しただけです」

 そういえば、ミスティ夫人が「グレイは嘘をつくのが下手で、ばれないうちにそそくさと逃げるような振る舞いをする」って言っていたなあって。まさかこんな場面でその情報が活用できるとは思ってなかったけど。

「君が意地の悪い人だとは思わなかったよ」

 グレイはため息交じりに言う。

「でも、そのおかげでお野菜を食べてくれるなら、私としては嬉しい限りです」
「……善処するよ」

 観念したように、グレイは言った。その様子を見て私は彼に小指を差し出す。

「何これ」
「指切りです」
「見ればわかるよ。そうじゃなくて、何故そんなことを」
「野菜がきっと食べれるように」
「そういうの、別に必要ないんだけど……はあ」

 そう言いながらも、彼は小指を絡めてきた。その手が少しだけ温かいことに気が付く。

「この事は他言無用だから」
「ええ、かしこまりました」

 彼の決意を目の当たりにし、私は笑顔で頷いた。そしてそっとその指を離した。

「では早速お店を探し……」

 そんな折だった。

「あら、お姉様」

 後方から声。振り返ると、そこには見慣れた顔の人物がいた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

こんな国、捨てて差し上げますわ

藍田ひびき
恋愛
「ユリアーナ!本日をもって、お前との婚約を破棄する!」 『豊穣の聖女』ユリアーナは婚約者である王太子アルベリクから、突然に婚約破棄を言い渡された。しかもアルベリクは妹のフランシーヌと新たに婚約すると言う。  聖女を掲げる神殿側はそれを不服とし、ユリアーナとフランシーヌのどちらが聖女に相応しいか、試験をするように助言するが…? ※ 4/27 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。