イレブン

九十九光

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♯12ー3

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 廊下は静かだった。何らかの理由で教室から出ている生徒は一人もおらず、横を通過する四組と三組の教室を横目で確認してみると、生徒は一人二人しかおらず、いずれもスマホかゲーム機を堂々といじっていた。ここ最近で見慣れてしまったこの光景に、私は逐一注意する気になれなかった。

 問題の二組の教室には、やはり内田以外誰もいなかった。彼もこの状況に慣れてしまったのか、前の章のように疑問を投げかけてきたりはしない。普段通りのポーカーフェイスで自分の席についていた。

 面倒になって挨拶もしないで目視で出席確認をし、一応の連絡事項をしている間、私はその内田の顔を殴ってやりたいという感情に襲われた。

 根本的な理由は、この生徒が誰ともなじもうとしなかったこと、差し伸べられた手を無条件ではねのけ続けたことにあるのだ。今の彼の顔は、そんな自分の極端な人間嫌いがここまで話をこじらせたという自覚が一切ないどころか、うるさい連中がいなくなってせいせいしたとでも言いたげに見えた。問題解決のために動けとまでは言わないが少しは悪びれる様子を見せろと、私は心の中で内田に訴えていた。

 そんなむしゃくしゃした気持ちを抱えたまま、私は内田一人のために授業をする。今まではかろうじてやっていた口頭での説明も、授業と無関係の問題のせいで気力を削がれていた。日露戦争後の条約うんぬんの話で大事なところを私が板書し、それを内田がノートに書き留めるという形式で、授業は無言で進行した。二人きりの教室では互いの筆記具が字を書く音だけがこだまし、人間の声は一度も起きなかった。

 こうして四十五分間の授業が終わり、学校全体に休み時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。私は自分の荷物をまとめると足早に教室から出ていき、そのまま次の授業先である一組の教室に入った。先ほど保健の授業をしていたらしく、ちょうど一人の男子生徒が後方の出入り口から出ていくところだった。すると教室内には、教卓の上に顎を乗せて椅子に座る山田先生だけが残った。

「お疲れ様」

 山田先生が目線をこちらに向けて、ぶっきらぼうに言葉を投げつけた。本当にねぎらう気持ちのない、儀式的な言葉だった。

「一組、全員欠席ですか」

 この私のセリフに、山田先生は返事を返すことなく職員室へと引き上げた。

 この日の一組には本当に出席者がいなかった。隣の二組と美術室から一切の物音が立た
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