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第2章 異世界攻略編
第44話 『呪い』を解く解答。
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俺は猛烈な焦りと共に頭を回転させる。
「主……」
額にびっしりと滲んだ汗をルナが横から拭う。
顔が火照り頭がクラクラと揺れた。
こうしている間にも俺の魔力はゼロに近づいている。
時間をかければかける程、詰みに近づいていく。
どうすればシンシアを助けられる。
『呪い』を解く為の方法は本当にないのだろうか。
精鋭ぞろいの《王国要塞》が口を揃えて不可能と断ずる代物を、俺程度の実力が解くと思う方が傲慢だ。
認めろ。
シンシアに以外にこの術式は、解呪不可能。
やばい。無力感がただ募っていく。
シンシアの手を握る。
包んだ手は雪の様に白くて寒い。
死が寸前まで迫っている。
周囲のムードは最悪に近かった。
目の前で人が死ぬ。命が奪われていく。
まるで手に掬った水がぽたぽたと零れていくように。
留めなく命が零れていく。
息は浅く、表情は青ざめ、汗を浮かばせて。
されど彼女は必死に格闘している。
諦めるな、脳を更に回転させろ。
何か。早く、手を……打たなければ!
早く……早く、早くっ。
ぎゅっ。
俺の手が握られる。
「え?」
優しい女の子の手触り。
ルナ、か。いいや違う。
俺が今の手を握っているのはシンシア・オルデンその人だ。
彼女は俺に託している。
意識はなくとも、深層心理が彼女の身体を突き動かす。
この絶望的な状況を覆す、神のような一手を望んで。
無意識下で握られた手を俺はしっかりと握り返す。
彼女はまだ諦めていないのだ。
「仮に先生にしか解けない問題があったとする」
「なんですか……いきなり?」
ルナに向かって俺は質問をする。
あまりの突然さにルナは僅かに狼狽しつつ、
「そんな時ルナはどうする」
だがルナは柔軟な発想で返答した。
「先生に答えを教えてもらう」
あまりにも単純であまりにも明快な答え。
「他には先生の作った解答をカンニングするとか……」
次々と、思い付く限りの答えを述べて。
「多分私はそうやってすぐに諦めると思います。だってどうやっても先生以外に解けない問題なんでしょう。なら、先生にやってもらう他ないですよ」
苦笑を交えつつ述べた。
嗚呼そうだ、俺に出来ない問題は先生に解いてもらう。
それがこの場合、唯一の解答だ!
「なら、そうしてもらうとしようか」
俺はいきなり鞘から剣を抜いた。
ルナは呆然とし、周囲の騎士達は驚きの声を上げる。
「貴様ッ」
そして勢いよく、俺の指先を斬った。
ぼたぼたと血が滴る手で、俺はシンシアの傷口に手を入れる。
生温かく、どろりとした感触が纏わりつく。
血と血が溶け合っていく。
俺は剣を放り捨て、唱えた。
「スキル発動……『紅魔』ッ!!!」
強烈に身体が締め付けられる。
そしてその瞬間。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP359/360 MP118/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP134/1580 MP0/1340
俺達の命が削られていった。
「かはっ……」
シンシアが血を吐いた。
俺も溜まらず、心臓を抑えながら蹲る。
「シンシア様!」
「無礼者、貴様何をした!」
「待てお前達! 待つんだ……!」
護衛の騎士達が俺に剣を伸ばす。
イレイスがその手を遮って様子を見た。
視界が揺れる。
膨大な汗が溢れ出る。
痛い、苦しい。
そんな感想が脳の中で反芻する。
まだだ!
「はぁあああああッ!!」
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP342/360 MP118/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP117/1580 MP0/1340
命が削られていく。
全身が痺れるように痛い。
唯一意識を繋ぎ止めていられたのは、シンシアのおかげだ。
彼女から握られた手の温もりが、俺に勇気を与えた。
「主……いったい何をしているんですか」
「見て分からないか……? シンシアと俺の血を、融合させているんだ。『紅魔』にかけられた力を彼女自身が行使する為に」
「まさか……!」
ルナは勘づいたようだ。
そうだ、俺達に『呪い』は解く事が出来ない。
だが、シンシア自身になら解く事が出来る。
簡単な話だ。シンシアは『呪い』によって魔力を奪われ、『呪い』を解く為の力を失っている状態だ。なら俺は、魔力に代わる別の力を与えてやればいい。
・『紅魔』
血液を媒介に魔法を発動。魔力を必要としない。
『紅魔』は魔力を介さず魔法を発動するスキル。
これならば今のシンシアでも解呪出来るはずだ。
握られた手は、何よりシンシアの核が未だ生きている事を意味しておりッ!! 死ぬ訳にはいかないと必死に抗っている証拠であるが故に……ッ!!!
力さえあれば、必ず彼女は起きる!
俺はその可能性を信じるのみッ!!
シンシアが痛みに悶え寝間着が開けていく。
胸の谷間に汗が泉のように浮かんでいた。
「大丈夫だ……俺が絶対に死なせないッ!」
出力を上げる!
「う、ぁああああああ……ッ!?」
「う、ううぅうう……っ」
黒い稲妻がスパークする。
肌が爛れ、焼き焦がされていく。
シンシアが、何かを発動しようとする兆候なのか。
呪いが最後の抵抗と共に、強烈な痛みを催す。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP242/360 MP112/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP17/1580 MP0/1340
「絶対に……死ぬなよ」
俺は限界まで命を削っていく。
この調子だと、HPが尽きるのはシンシアか!
だが、俺は信じる。
残りの命で……きっと『呪い』を打ち消すと。
「うぁああああ!」
「いけない、これ以上はシンシア様が!」
「……まだだ、よせっ!」
───HP13/1580 MP0/1340
───HP10/1580 MP0/1340
───HP7/1580 MP0/1340
───HP4/1580 MP0/1340
───HP1/1580 MP0/1340
『魔法……』
シンシアが口を開く。
その瞬間、膨大な量の魔法陣が浮かび上がる。
上下左右、何重にも重なった魔法陣が一点に集中する。
シンシアの手が動く。
俺の手と連動しながら、刺さった短剣を掴んだ。
シンシアが薄目を開く。
そしてこくりと頷いた。
俺にこれを抜けと言うのか。
血が空中で踊る。
一粒一粒の血液が魔法陣に吸収されていく。
赤く染まった魔法陣が旋風を巻き起こす。
『さあ……行くわよ』
「……っ、ああ」
シンシアは血を操り、魔法を発動する。
全ての呪いと魔法を打ち消す、虚無の波動を。
「『虚無波』ッッッ!!!」
パリンッ……!
ガラスが割れるような異質な音が響き渡る。
纏わりついていた闇の瘴気が砕けていく。
世界に色が戻り、鮮やかに映えていく。
絵具をふんだんに使ってカンバスを染め上げる。
「はぁああ……!」
ズブズブ……。
まるで深い沼地から這い上がるように。
短剣が鈍い音を立てて身体から抜け落ちる。
いける。今なら魔力が使える。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP226/360 MP108/220
習得したばかりの『光魔法』を行使する。
ノエルに倣って回復の魔法を紡げ!
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP226/360 MP0/220
全魔力解放ッ!!
「───魔法『治癒』ッ」
どっと意識が重くなる。
傷口を中心に傷を塞いでいく。
意識を手放さないように舌を噛んだ。
じんわりとした痛みと血が混ざりあう。
淡い翠の光がシンシアを癒していった。
こればっかりは本職の人にでも頼めば良かったのに。そうしなかったのは俺のエゴだろうか。それとも焦っていただけか。そうであって欲しいものだ。
シンシアにまで独占欲を見せていては、隣の相棒に何の文句を言われるか分かった物じゃない。急激な眠気と脱力感に俺は上体を揺らした。
ぼすんっとシンシアの胸の前に落ちる。
シンシアは意識を覚醒させた。
しまった。激しくシンシアが暴れていたせいで微妙に胸元がはだけているではないか。それなのにこんな状態なら、あらぬ疑いをかけられてしまう!!
なんて言い訳しよう。
不可抗力? そんなラブコメ主人公みたいな!
「すきぃ♡」
ん?
はて、俺の耳がバクったのだろうか。
俺の脳が正常ならば彼女は今、
「あはぁ↑」
うん。勘違いじゃなかった!!
「主……」
額にびっしりと滲んだ汗をルナが横から拭う。
顔が火照り頭がクラクラと揺れた。
こうしている間にも俺の魔力はゼロに近づいている。
時間をかければかける程、詰みに近づいていく。
どうすればシンシアを助けられる。
『呪い』を解く為の方法は本当にないのだろうか。
精鋭ぞろいの《王国要塞》が口を揃えて不可能と断ずる代物を、俺程度の実力が解くと思う方が傲慢だ。
認めろ。
シンシアに以外にこの術式は、解呪不可能。
やばい。無力感がただ募っていく。
シンシアの手を握る。
包んだ手は雪の様に白くて寒い。
死が寸前まで迫っている。
周囲のムードは最悪に近かった。
目の前で人が死ぬ。命が奪われていく。
まるで手に掬った水がぽたぽたと零れていくように。
留めなく命が零れていく。
息は浅く、表情は青ざめ、汗を浮かばせて。
されど彼女は必死に格闘している。
諦めるな、脳を更に回転させろ。
何か。早く、手を……打たなければ!
早く……早く、早くっ。
ぎゅっ。
俺の手が握られる。
「え?」
優しい女の子の手触り。
ルナ、か。いいや違う。
俺が今の手を握っているのはシンシア・オルデンその人だ。
彼女は俺に託している。
意識はなくとも、深層心理が彼女の身体を突き動かす。
この絶望的な状況を覆す、神のような一手を望んで。
無意識下で握られた手を俺はしっかりと握り返す。
彼女はまだ諦めていないのだ。
「仮に先生にしか解けない問題があったとする」
「なんですか……いきなり?」
ルナに向かって俺は質問をする。
あまりの突然さにルナは僅かに狼狽しつつ、
「そんな時ルナはどうする」
だがルナは柔軟な発想で返答した。
「先生に答えを教えてもらう」
あまりにも単純であまりにも明快な答え。
「他には先生の作った解答をカンニングするとか……」
次々と、思い付く限りの答えを述べて。
「多分私はそうやってすぐに諦めると思います。だってどうやっても先生以外に解けない問題なんでしょう。なら、先生にやってもらう他ないですよ」
苦笑を交えつつ述べた。
嗚呼そうだ、俺に出来ない問題は先生に解いてもらう。
それがこの場合、唯一の解答だ!
「なら、そうしてもらうとしようか」
俺はいきなり鞘から剣を抜いた。
ルナは呆然とし、周囲の騎士達は驚きの声を上げる。
「貴様ッ」
そして勢いよく、俺の指先を斬った。
ぼたぼたと血が滴る手で、俺はシンシアの傷口に手を入れる。
生温かく、どろりとした感触が纏わりつく。
血と血が溶け合っていく。
俺は剣を放り捨て、唱えた。
「スキル発動……『紅魔』ッ!!!」
強烈に身体が締め付けられる。
そしてその瞬間。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP359/360 MP118/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP134/1580 MP0/1340
俺達の命が削られていった。
「かはっ……」
シンシアが血を吐いた。
俺も溜まらず、心臓を抑えながら蹲る。
「シンシア様!」
「無礼者、貴様何をした!」
「待てお前達! 待つんだ……!」
護衛の騎士達が俺に剣を伸ばす。
イレイスがその手を遮って様子を見た。
視界が揺れる。
膨大な汗が溢れ出る。
痛い、苦しい。
そんな感想が脳の中で反芻する。
まだだ!
「はぁあああああッ!!」
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP342/360 MP118/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP117/1580 MP0/1340
命が削られていく。
全身が痺れるように痛い。
唯一意識を繋ぎ止めていられたのは、シンシアのおかげだ。
彼女から握られた手の温もりが、俺に勇気を与えた。
「主……いったい何をしているんですか」
「見て分からないか……? シンシアと俺の血を、融合させているんだ。『紅魔』にかけられた力を彼女自身が行使する為に」
「まさか……!」
ルナは勘づいたようだ。
そうだ、俺達に『呪い』は解く事が出来ない。
だが、シンシア自身になら解く事が出来る。
簡単な話だ。シンシアは『呪い』によって魔力を奪われ、『呪い』を解く為の力を失っている状態だ。なら俺は、魔力に代わる別の力を与えてやればいい。
・『紅魔』
血液を媒介に魔法を発動。魔力を必要としない。
『紅魔』は魔力を介さず魔法を発動するスキル。
これならば今のシンシアでも解呪出来るはずだ。
握られた手は、何よりシンシアの核が未だ生きている事を意味しておりッ!! 死ぬ訳にはいかないと必死に抗っている証拠であるが故に……ッ!!!
力さえあれば、必ず彼女は起きる!
俺はその可能性を信じるのみッ!!
シンシアが痛みに悶え寝間着が開けていく。
胸の谷間に汗が泉のように浮かんでいた。
「大丈夫だ……俺が絶対に死なせないッ!」
出力を上げる!
「う、ぁああああああ……ッ!?」
「う、ううぅうう……っ」
黒い稲妻がスパークする。
肌が爛れ、焼き焦がされていく。
シンシアが、何かを発動しようとする兆候なのか。
呪いが最後の抵抗と共に、強烈な痛みを催す。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP242/360 MP112/220
【ステータス】
名前:シンシア・オルデン レベル:78
HP17/1580 MP0/1340
「絶対に……死ぬなよ」
俺は限界まで命を削っていく。
この調子だと、HPが尽きるのはシンシアか!
だが、俺は信じる。
残りの命で……きっと『呪い』を打ち消すと。
「うぁああああ!」
「いけない、これ以上はシンシア様が!」
「……まだだ、よせっ!」
───HP13/1580 MP0/1340
───HP10/1580 MP0/1340
───HP7/1580 MP0/1340
───HP4/1580 MP0/1340
───HP1/1580 MP0/1340
『魔法……』
シンシアが口を開く。
その瞬間、膨大な量の魔法陣が浮かび上がる。
上下左右、何重にも重なった魔法陣が一点に集中する。
シンシアの手が動く。
俺の手と連動しながら、刺さった短剣を掴んだ。
シンシアが薄目を開く。
そしてこくりと頷いた。
俺にこれを抜けと言うのか。
血が空中で踊る。
一粒一粒の血液が魔法陣に吸収されていく。
赤く染まった魔法陣が旋風を巻き起こす。
『さあ……行くわよ』
「……っ、ああ」
シンシアは血を操り、魔法を発動する。
全ての呪いと魔法を打ち消す、虚無の波動を。
「『虚無波』ッッッ!!!」
パリンッ……!
ガラスが割れるような異質な音が響き渡る。
纏わりついていた闇の瘴気が砕けていく。
世界に色が戻り、鮮やかに映えていく。
絵具をふんだんに使ってカンバスを染め上げる。
「はぁああ……!」
ズブズブ……。
まるで深い沼地から這い上がるように。
短剣が鈍い音を立てて身体から抜け落ちる。
いける。今なら魔力が使える。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP226/360 MP108/220
習得したばかりの『光魔法』を行使する。
ノエルに倣って回復の魔法を紡げ!
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP226/360 MP0/220
全魔力解放ッ!!
「───魔法『治癒』ッ」
どっと意識が重くなる。
傷口を中心に傷を塞いでいく。
意識を手放さないように舌を噛んだ。
じんわりとした痛みと血が混ざりあう。
淡い翠の光がシンシアを癒していった。
こればっかりは本職の人にでも頼めば良かったのに。そうしなかったのは俺のエゴだろうか。それとも焦っていただけか。そうであって欲しいものだ。
シンシアにまで独占欲を見せていては、隣の相棒に何の文句を言われるか分かった物じゃない。急激な眠気と脱力感に俺は上体を揺らした。
ぼすんっとシンシアの胸の前に落ちる。
シンシアは意識を覚醒させた。
しまった。激しくシンシアが暴れていたせいで微妙に胸元がはだけているではないか。それなのにこんな状態なら、あらぬ疑いをかけられてしまう!!
なんて言い訳しよう。
不可抗力? そんなラブコメ主人公みたいな!
「すきぃ♡」
ん?
はて、俺の耳がバクったのだろうか。
俺の脳が正常ならば彼女は今、
「あはぁ↑」
うん。勘違いじゃなかった!!
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