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9.一途に
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「なぁ和泉」
佐原がぽつりと呟く。なんでもないことのように話し出し、和泉もとへゆっくり近づいてきた。
「俺はお前の存在を知っていた。尚紘から和泉の話を聞かされていたし、尚紘と同じ大学だってことも、名前も顔も知っていた。でも、五年前に叔父から『尚紘のパートナーを知らないか』と聞かれたとき、それを俺は知らないと答えたんだ」
佐原に言われて気がついた。佐原は何もかも知っていたのだから、少し調べれば五年前でも和泉を探し出せたのではないか。
「なんで、そんな嘘をついたんだ……?」
尚紘に口止めされていたとしても、それは尚紘が生きていればこその話だ。
いなくなってしまったら、黙っている必要がない。今さらパートナーの和泉の存在を隠しても意味はないのに。
「お前を、尚紘のパートナーのことを叔父に教えなかったのは俺のくだらない感情のせいだ。どうせあいつに勝てるわけがなかったのに、諦めの悪い俺のせいだ」
「え……?」
和泉は首をかしげる。佐原はいったい何の話をしているのだろう。
あいつとは、尚紘のことだろうか。
佐原は何を尚紘と争っていた……?
「俺がずっと前から好きなのは、和泉、お前だよ」
目の前にいる佐原の瞳が切なげに揺れている。あまりにも咄嗟のことで、思考が止まった。何を言われているのか理解が進まない。
佐原は誰を好きだって言っている……?
「お前に尚紘というDomのパートナーがいるのはわかってた。それでも俺はパートナー持ちのお前を好きになった」
驚きすぎて言葉がなかった。
佐原はそんな前から、当時和泉が尚紘のパートナーだった頃から慕っていたと言っている。
あり得ない。話もしたことがないくらいの関係性だったのに。
「和泉と一緒にいる尚紘を見て、俺はあいつが羨ましいと思った。最初は恋愛のそれじゃなくて、ただパートナーがいる尚紘が羨ましいだけなんだと思ってた。でも違ったんだ。俺は和泉を欲しかったんだ」
「嘘だろ、だって……」
「信じられないだろ。和泉は俺の存在も知らなかったんだもんな」
本当に信じられない話だ。
佐原が、ずっと好意を寄せてくれていたなんて。
——俺の好きなSubにはパートナーがいるから。
あのときの佐原の視線の先にいたのは和泉だ。
和泉はまったく気がつかなかったが、あのとき佐原の脳裏には、和泉のことが浮かんでいたのだろうか。
「俺が一方的にパートナーがいるお前のことを好きになって、ひとり静かに諦めた。ただそれだけの話で終わるはずだったんだ」
佐原は唇をぐっと噛み締めた。
和泉には尚紘というパートナーがいた。
優しい佐原のことだ。尚紘の恋路を邪魔することはしなかったのだろう。
きっと誰にも話さずに、自分の気持ちを押し殺して、終わりにした。
佐原はそういう男だ。
そんな我慢強い男が、胸の内を隠すのが得意な男が、今、気持ちを吐露して、和泉に熱い眼差しを向けている。
言葉が溢れ出すみたいに、和泉を好きだと、ずっとずっと好きだったと好意を伝えてくる。
心が打ち震えた。
佐原に、大好きな人に好きだと言われて、見つめられる。
佐原は手を伸ばせばすぐ届くところにいる。
今、和泉の目の前に。
佐原がぽつりと呟く。なんでもないことのように話し出し、和泉もとへゆっくり近づいてきた。
「俺はお前の存在を知っていた。尚紘から和泉の話を聞かされていたし、尚紘と同じ大学だってことも、名前も顔も知っていた。でも、五年前に叔父から『尚紘のパートナーを知らないか』と聞かれたとき、それを俺は知らないと答えたんだ」
佐原に言われて気がついた。佐原は何もかも知っていたのだから、少し調べれば五年前でも和泉を探し出せたのではないか。
「なんで、そんな嘘をついたんだ……?」
尚紘に口止めされていたとしても、それは尚紘が生きていればこその話だ。
いなくなってしまったら、黙っている必要がない。今さらパートナーの和泉の存在を隠しても意味はないのに。
「お前を、尚紘のパートナーのことを叔父に教えなかったのは俺のくだらない感情のせいだ。どうせあいつに勝てるわけがなかったのに、諦めの悪い俺のせいだ」
「え……?」
和泉は首をかしげる。佐原はいったい何の話をしているのだろう。
あいつとは、尚紘のことだろうか。
佐原は何を尚紘と争っていた……?
「俺がずっと前から好きなのは、和泉、お前だよ」
目の前にいる佐原の瞳が切なげに揺れている。あまりにも咄嗟のことで、思考が止まった。何を言われているのか理解が進まない。
佐原は誰を好きだって言っている……?
「お前に尚紘というDomのパートナーがいるのはわかってた。それでも俺はパートナー持ちのお前を好きになった」
驚きすぎて言葉がなかった。
佐原はそんな前から、当時和泉が尚紘のパートナーだった頃から慕っていたと言っている。
あり得ない。話もしたことがないくらいの関係性だったのに。
「和泉と一緒にいる尚紘を見て、俺はあいつが羨ましいと思った。最初は恋愛のそれじゃなくて、ただパートナーがいる尚紘が羨ましいだけなんだと思ってた。でも違ったんだ。俺は和泉を欲しかったんだ」
「嘘だろ、だって……」
「信じられないだろ。和泉は俺の存在も知らなかったんだもんな」
本当に信じられない話だ。
佐原が、ずっと好意を寄せてくれていたなんて。
——俺の好きなSubにはパートナーがいるから。
あのときの佐原の視線の先にいたのは和泉だ。
和泉はまったく気がつかなかったが、あのとき佐原の脳裏には、和泉のことが浮かんでいたのだろうか。
「俺が一方的にパートナーがいるお前のことを好きになって、ひとり静かに諦めた。ただそれだけの話で終わるはずだったんだ」
佐原は唇をぐっと噛み締めた。
和泉には尚紘というパートナーがいた。
優しい佐原のことだ。尚紘の恋路を邪魔することはしなかったのだろう。
きっと誰にも話さずに、自分の気持ちを押し殺して、終わりにした。
佐原はそういう男だ。
そんな我慢強い男が、胸の内を隠すのが得意な男が、今、気持ちを吐露して、和泉に熱い眼差しを向けている。
言葉が溢れ出すみたいに、和泉を好きだと、ずっとずっと好きだったと好意を伝えてくる。
心が打ち震えた。
佐原に、大好きな人に好きだと言われて、見つめられる。
佐原は手を伸ばせばすぐ届くところにいる。
今、和泉の目の前に。
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