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オルニスとチーロ

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そういえば、兄の名前はなんというのだろうか。
やたら長い横文字は覚えられる気がしない。

「ユーの名前、ワット!!」

『ん?どうした?俺がなんだ?』

名前って聞くの難しいな、ジェスチャー無いな。
ここは自らの名乗るしか無いけど、前世の千葉一郎の名前は卒業したい。
だってこの兄のような金髪鳥人間の美青年になるなら、もっと何だろう…ルシファーとか、レオンハルトとかそういうのだろ!!

「オマエ、ナマエ、ナニ!」

『……』

「えーっと、ワット、ネーム、トリニンゲン!」

『……』

駄目だ…兄は完全に可哀想な子を見る目で見始めた。

「あーー!!僕は、千葉一郎!!千葉一郎!」

『チーバチーロ?』

「ノーノーノー!!やめてそんな名前!!チーバはマジで駄目!ゆるキャラだから!一郎!!一郎!!」

頭の中に浮かぶのは、某ネズミさんキャラに県を持っていかれているあの赤い犬が…。

『チーロと呼んで欲しいのか?』

「そう、僕の前世、一郎。兄は?」

ウンウンと頷いた。僕の名前は、後でつけてもらうとして、兄をなんと読んだらいいのか。

『チーロ、俺の番は、凄くかわいいな…チーロ』

兄が鋭い眼差しを蕩けるように緩めて、僕の頬に手を当てた。

『俺は、オルニスだ。オルニス』

おっ!!今名前を言ってる!?
だが難しい!!

「ダーオニュリシュ?」
あってる?と小首を傾げて聞いた。

『オルニス』
「オルニチン」
あれ?しじみに入ってる何か体にいい成分になった!?

『…オ、ル、ニ、ス』 
「オルニス!」

今のは絶対にちゃんと言えた!
僕は、鼻息荒くドヤ顔をした。

『……知らなかった…番に名前を呼ばれるだけで、こんなに満たされるのか…もう一度呼んでくれ…』

僕の頬に添えられた手が離れて、指が一本立てられた。
これはもう一回って事かな?

「オルニス」

完璧な発音だったと思う。
オルニスは、再び嬉しそうに笑った。どうやら弟を可愛がるタイプのお兄ちゃんらしい。
あれ、お兄ちゃんなのに名前呼びで良いのかな?

あー、そういえば、弟の二郎は僕の事を一郎!と呼んでいたし、僕も姉のことを華子と呼んでいた。

『チーロの服やら色々と揃えないとな…ここから一番近い街は…ランダか…』

ブツブツと喋りながら、オルニスが、近くの布を漁り出した。

『…色々と持ち出す余裕もなかったからな…』

オルニスの服は、中世ヨーロッパというよりも、もっとデザインが現代の感覚に近くて、ファンタジーゲームっぽい。
背中は羽根を出す為にダイアモンド型に開いている。

右の羽根の付け根あたりが、包帯でぐるぐる巻にされて、包帯は血が滲んでいて痛そうだった。右だけが怪我のせいで上手に畳めないのか、ちょっとずれてる。

「……これ、どうしたの?大丈夫?」

オルニスの背中に歩み寄って包帯が巻かれてない所に触れた。

『こら…歩き回るな、殻も落ちているし危ないぞ…』

引っ張り出した白い布を手にして、オルニスが振り返った。

「血がいっぱい滲んでいるよ、病院とか行ったほうがいいんじゃない?」

『なんだ?羽根か?心配してくれているのか、チーロは優しいな。大丈夫だ』

オルニスが笑って、僕に布を巻き始めた。
おぉー、これで裸族から開放されるぞ。でも、この布、包帯に使ったらどうかと思い、布の端っこを掴んで、右手を羽根のようにパタパタさせた。

『ん?これを羽根に使えって言っているのか?いや、いい大丈夫だ。チーロを裸で連れ歩くなんて冗談じゃない』

なんだか若干怒り気味の声色にビビる。
まさかその怪我は、触れられたくない系の負傷なのだろうか?
両親の死に関するものか…それとも…痴情のもつれか。
よし…心配だけど聞かないようにしよう。

『こんなに綺麗だと心配だ…天人の番は、本来なら天人と同じくらい逞しく、力も能力も高いのだが……すまない…』

僕が、白い布で古代の人ぽくなった所で、オルニスに抱きしめられた。体格差があるので、オルニスの胸くらいまでしかないから、すっぽりとおさまってしまった。
オルニスの体温と匂いはなんだか安心する。

「……」

オルニス…傷心なの?

そういう時は、やっぱり誰かにぎゅっと抱きつくと安心するよね。
僕も気分が落ち込むと、一番下の弟に構うフリして抱きついたりした。

僕は、そっとオルニスの背中に腕を回した。

大丈夫

お兄ちゃんでも、泣いてもいいよ

僕がぎゅってしてあげる

心の痛いのも、体の痛いのも、全部ポカポカに温めて、溶けてなくなれ。

ピーカーブー!!

あれ?これって…いない、いないばーだっけ?
間違えた。

『番というのはすごいな…抱きしめただけで、痛みもなくなる気がする…さぁ、行くぞ、日が暮れる前に宿に着きたい』



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