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鏡よ鏡、鏡さん
しおりを挟む『くそっ…羽根が使えれば一瞬だが、チーロに怪我をさせるわけにはいかない……これに乗るしか無い……番を馬なんかに……』
オルニスは凄く嫌そうな顔をして、ブツブツ文句を言いながら、馬車と馬を繋げている物を取り払い始めた。
おぉ馬に乗るのか!
ファンタジーでは、定番の乗馬!
僕は乗ったことない。近くで見るのだって始めてだ。
驚かさないように、恐る恐る馬の視界に移動する。
馬がちらっと僕を見て、口をモゴモゴ動かしながら、僕に近づこうとした。
『おい!チーロに近づくな!』
馬の後ろで作業していたオルニスが怒っている。馬は紐を引かれ数歩下がった。
オルニスの邪魔をして怒られてしまった。
しょぼんとしてその場を離れると、なぜだか馬車の外に色々投げ捨てられているのを発見して近づいた。
裸足だから痛いものを踏まないように慎重に歩く。
「鏡だ…」
落ちているものの中には、周りが装飾されている楕円形の30センチくらいの鏡があり、キラキラと太陽光を反射して光っていた。
おぉ!チャンス!!
今の自分の容姿を知るチャンス!!
僕は、鏡に駆け寄って覗き込んだ。
「……」
そこにいたのは、息を呑むほど美しい顔をした美少年だった。
サラサラで光り輝く金の髪と、長く密集したまつ毛。よく晴れた空のような綺麗な蒼い大きな瞳。つんとした可愛い鼻に、薄い唇。
すべてが小さな卵型の顔にバランス良くおさまっている。
線の細い、儚げな美少年が。
「…いやいや…イメージと違う」
えっ…あの逞しくも美しいオルニスの弟なんですよね!?
割とキツく鋭い眼差しの怜悧な美形と…。
作られている物の色は同じなのに全然違う!!
女性に男としてモテないタイプの……観賞用のやつだ!!全然強そうじゃない!
僕の無双は何処へ行った!
なんだかこういうキャラ知ってる。
そう……これは、BL界隈で言う、古の受けだ。
僕は腐男子では無いが、秋葉原にも溢れていて馴染みがある。
BL界も今は、多様性を極め、常にトレンドが変化して、今はドーンとポスターに出ているの、このタイプの受けでは無いのだ。むしろオルニスのような男としてカッコイイ奴が受けも攻めもやってるのだ…。
今の僕は、十数年前に発行されている系のBL本の表紙の子だ。
そして、少女漫画でも少年漫画でも、王子様の弟とかで出てくる、滅茶苦茶綺麗な脇役。
「……えっ…脇役転生?」
いやいや…諦めるな…ハリウッドなどの海外の美少年は、大きくなると驚くほどゴリマッチョになったりするのだ!!
そうだ!!
僕はあのオルニスの弟なのだ!!
ふふふ…将来が楽しみだ!!
僕はオルニスを超えてゴリゴリの戦士みたいになる!
どうやら、このストーリーは僕の成長ストーリーのようです。
『どうした?チーロ。用意が出来たぞ。鏡を見ていたのか。可愛かっただろ』
「今に見てろ…」
オルニスは僕がなにを言っているのか分からないので、鋭い目を、見開いてキョトンとしている。
『さぁ、行くぞ』
逞しい腕で僕を軽々持ち上げると、あるき出した。
いずれ…僕もオルニスをヒョイと持ち上げてやるぞ。
男を1人抱いているのに、苦もなく歩き、馬の背に跨がると僕を後ろから抱きしめるように座らせた。
「うわぁぁ…馬って乗るとこんなに高いの…」
自転車とは比べ物にならない高さに、ブルっと震えてお尻がムズムズした。
思わず後ろから回されているオルニスの左腕に、がしっとしがみついた。
『怖いのか?…そんなに必死にしがみつかなくても大丈夫だ。後ろから抱いている。まだ目覚めたばかりで疲れているだろう…眠ってもいいぞ』
オルニスが僕の目元を大きな手で塞ぐと、なんだか眠くなる…なぜだ…。
馬がゆっくりと歩き始めると、そのリズムと疲れで、コックリ…コックリとしだした。
『…ふっ…』
頭上で声を殺してオルニスが笑い、寄りかかっている腹筋が揺れる。
『……チーロ…』
ぎゅっと抱きしめられた感覚を最後に、気持ちいい眠りの世界を漂い始めた。
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