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5.地方都市にて②
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「魔を知る者のルルメアカリスだ!」
「ルル様……、今日もお美しい……」
「隣は誰だ? 黒持ちなら、弟子か?」
この世界の時間や年月の概念は、元の世界とそう変わらないらしい。
夕方にあたるこの時間、お腹の限界を迎えた俺は少し早めの夕飯をルルに奢ってもらっていた。……のだが。
「ルル……、視線が……いたい」
「あら。ハヤト様が弟子だなんて、失礼しちゃうわ」
そこなのか。
いや、確かにこれだけの美しさなら注目されることに慣れているのかもしれない。
対して俺は、普通の黒髪黒目、典型的な日本人。
特別際立った容姿も持ち合わせていない。
人の注目を集める要素は全くないのだ。
「にしても、美味しいなこれ」
異世界の料理は独特で、元の世界と比べて驚きに溢れるか、もしくは淡泊かと予想していた。
しかし、木製のテーブルに所狭しと並べられた料理は、今の所素直においしいと言えるものだった。
さすがに醤油や味噌は無いだろうけど……。
和食が恋しい。
「あら、さすがですわ。そちらベリーエンテのお肉ですの。ベリーを好んで食べるそうで、生臭さが少ないそうです」
「んン?」
何となく、何となくだが。響き的に……魔物……じゃないよな?
「魔物は普通の動物に比べれば魔力を多く持っていますから、その血肉はより魔力の糧となるでしょう」
「デスヨネーー」
この世界に目覚めてからというもの、俺の勘、冴えわたっている気がする。
しかしこの鶏肉? みたいな魔物、美味しいな。ベリーエンテ、覚えたぞ。
「今日はお早めに休んでいただいて、明日冒険者ギルドへお連れする予定ですわ。冒険者の登録証があればこの世界での身分証代わりになりますもの。……もちろんハヤト様が、嫌でなければ。ですけれど」
「いや、行くよ。身の保障もだし、クラス持ちである以上、戦いは避けれなそうだ」
「そう言っていただけますと」
もちろん元の世界の感覚で言えば、戦いたくもないし、何より怖い。
ただ、それは俺の常識であって、この世界の人々の常識ではない。
クラス持ちが敬愛を集める一方で、そこには責任が伴う。
十八歳で皆それが判明するんだから、恐らく事情がない限り皆運命に従うのだろう。
それに一種の職業であるから、この世界の人にとっては冒険者=サラリーマンになることと同義かもしれない。
よほど後悔のない人生にしたいという願望が強いのか、こちらの世界の俺はとにかく思い切りが良い。
まぁ、ソロプレイヤー気質もあり、極力縛られずに。というのが前提ではあるが。
「クラスやスキルについてお話した所で、明日は早速実践についてお教えできればと思いますわ」
「ああ、頼むよ」
ルルは本当に頼りになるな。
教えてもらうことには何も不安はないんだが、もう一つ。重要な件がある。
「それより、俺が行って大丈夫か? もしウェイダーって勇者が俺の特徴をギルドに伝えていたら、脱走犯扱いされてもおかしくない気がするんだが」
善良な市民には違いないが、とんでもない魔力を調べてこいと言われ、それを調べたら俺で、その俺が逃げたって話になったらちょっとややこしい。
「それについては考えております。--そもそも彼らは報告しないでしょうけれど」
「そうなのか?」
「ええ。あいつ……こほん。グレイヴァーンが居ることを良いことに、ウェイダー自身はとても特殊クラスの持ち主とは思えないポンコツですの」
「勇者は特殊クラスなんだな」
「はい。等級のない、特殊な位置づけのクラスです。……ですが、元々幼馴染で構成されたパーティーの実力はS級に満たない基準ですの。ダンジョン踏破も、強い魔物の討伐依頼を達成できたのも、グレイヴァーンが加入してから。それで調子に乗って色々と問題を起こし、愛想を尽かしたグレイヴァーンは最近まで一時的に離脱してましたわ」
「何か、目に見えるな……」
いい奴代表グレイヴァーン、貧乏くじ引いたな。
「特殊クラスというか、勇者のパーティーに居るとメリットがあるのか? グレイヴァーンは実力者にみえたし、ソロでも、別のパーティーでもやれたと思うが」
「それは……、特級クラスゆえの苦悩ですわね」
「?」
グレイヴァーンは特級クラスなのか。
そういえば勇者がアピールしてたな。
あれかな、分かる人にしか分からない悩みとかかな。
「国単位で所在を把握されることもある、とお伝えしましたけれど。力ある者に取り入ろうとする者は、誰だと思います?」
「あーーーー……、権力者とか?」
「さすがです。グレイヴァーンだけではありませんが……。多くの特級クラスの者は、国から直接依頼を受けたり、高名な者を引き入れたい勢力に加担させられたりと、一筋縄ではいかないのです」
「なるほどな。ってことは、国から勇者パーティーに入れってお達しがあったとかか?」
「私も詳細は分かりませんが、あの実直なグレイヴァーンが脱退しないという事でしたら、恐らく」
一緒に居る内に情が湧いた、とかかもしれないしな。
「なんか……、状況は違えど、ヒトの感情ってのはどの世界も一緒なんだな」
人気者、お金持ちに下心をもって近づく者というイメージだろうか。
魔法なんて無い世界だったが、ヒトっていうものは根本的に変わらないんだろうな。
「特級、特殊クラスを有する国は、それだけで発言力も増しますからね。アルバ・ダスクの発生地であれば尚更」
「人類の危機を自国が食い止めてるんだぞ! って感じか?」
「ええ、他の国のギルドに所属している冒険者も参加しますけれど、到着が遅れる分毎回戦果はグランアルバとエルダスクの冒険者がほとんど挙げていますわね」
「そういうルルは、どうなんだ?」
「?」
「この国に何か言われたりとか、わずらわしいことに振り回されたりしてないか?」
「あら、心配してくださるの? 嬉しいですわ」
「い、いや。ソロ気質って言ってたからさ……」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたぞ。
「もちろん、私わずらわしいことは嫌いですので、上手く立ち回っているつもりですわ。グレイヴァーンもそのくらいお手のものでしょうけど、彼は生家との兼ね合いがありますから」
「……色々あるんだな」
力があるということは、必ずしも良いことばかりではないんだな。
それにしても。
「特殊クラスだろうが、強さ的には特級クラスと同じなんだよな? 国としては勇者ってクラスが重要なのか?」
グレイヴァーンをも引き立て役に選出するくらいだ。
よほど国としては勇者パーティーという者を優遇したいらしい。
「これはヒトの解釈で、実際のところは不明なのですが……」
そう前置きするルルは、どこか悲しげだ。
「アルバ・ダスクは神の試練とも言われていますけれども、一部のヒトはそれが魔族の仕業であると考えておりますの」
「解釈の違いがあるのか?」
「ええ、誰しも未知の存在には恐怖を抱きますから。魔族とは、ヒトより遥か数倍もの魔力を有して生まれ、心臓とは別に体内に魔石を有しております」
「……え!? 体内に、か?」
「はい。そして、魔物を倒した時……。その時にも、稀に魔石を落とすことがございます」
「それってーー」
魔族と魔物が同一ではないにしろ、体の機能が似ているってことか!?
「魔石は魔力の凝縮された、いわば泉。体を巡る魔力がヒトとは比べものにならない魔族にとって、心臓とも同義。大昔は、それを奪おうと、ヒトと魔族との間に戦争があったとも言われています。言い伝えではそれを嘆いた神々がアルバ・ダスクを引き起こしたとも」
「それは……、壮絶な」
差別どころの話ではない。
「時が経ちすぎて実際のところは不明ですが、ヒトの中には根強く魔族に偏見を持っている者もおります。……蒼炎の森は魔族領とも面しておりますからね。国交もほぼ断絶状態ですし。そのため、民の不安を消す目的でアルバ・ダスクで編成される冒険者連隊の総大将は、最初のアルバ・ダスクを退けた時の英雄にちなんで勇者クラスの者が務めることになっております」
「あぁ、なるほど。勇者は旗手の意味も持つのか。それで国も優遇していると」
「ただ、勇者クラスを持つ者は希少とはいえ一人ではありません。総大将になれずとも、勇者が参戦するという事実が重要ですので、勇者を有する国はご機嫌とりに忙しいでしょうね」
勇者にも色々あるんだな。
肩書きってのは、確かに元の世界でも制約があったりしたもんだな。
……俺は普通のオタクで社畜だったから、特別ないが。
「話が飛んでしまいましたが、国としては勇者を取り立てたい。ですが、冒険者ギルドでの彼は評判がわるく、民間人に暴力を振るったとも。おまけにグレイヴァーン不在時の依頼達成率が低すぎて、冒険者ランクの最高位であるS級から降格しそうなのです。……ですので、冒険者ギルドとしては今回の魔力源調査の依頼、失敗してほしいんです」
「うわぁ……。ギルドも立場が複雑だな」
国の意向を無視する訳にはいかないし。
かと言って悪評のある、実力もあやしい冒険者がいつまでもS級だったら他の冒険者の士気が下がる。
中間管理職って、こんな感じなのかな……。
「冒険者ギルドの思惑を分かっていないウェイダーは、現場に居たハヤト様の魔力に圧倒され、勝手に魔族と思い込み……勝手に依頼内容を魔族を倒すことだと思い込んで、一刻も早く達成したいと考えた」
「思い込みが激しいやつなんだな。……でも、本当に魔族だって場合もあるんじゃないか?」
たまたま(多分)俺はヒトであったが、もしかすれば本当に魔族が発生源だったかもしれない。
「逆にその方がギルドにとって都合が良いです。グレイヴァーンが居るとはいえ、魔族に勝てるほど勇者の実力はとても充分ではありません。良くて敗走でしょう」
「あーー。そもそも、魔族が襲ってくるかどうかも分からないしな。俺を見た時の勇者の感じから、結構魔族のことも良く思ってなさそうだったな。先に仕掛けて返り討ちにあいそうだ」
「はい。ギルドとしては、『魔族が居て失敗する』でも、『痕跡も見つからなかった』でも、どちらにしても勇者のS級降格の材料にはなるので、ハヤト様を連れて来れなかったウェイダーがギルドに報告することはないでしょう」
「もしかして俺、グレイヴァーンにものすっごい悪いことした?」
待ってろと言われて、勝手に離れたのは俺だ。
勇者に責められたに違いない。
「いいえ? むしろ貢献したと思いますわ。彼は闘いで手を抜くことは出来ないので、こういった形で勇者に降格して欲しいでしょうから」
「結果オーライ……か?」
「そもそもハヤト様が気に病むことではありませんわ。話を聞く前に勝手に勘違いをして、襲いかかろうとした勇者側の落ち度です」
「な、ならいいんだけどさ」
グレイヴァーンが勇者にめちゃくちゃ文句言われている未来しか見えないのは気のせいだろうか。
「ルル様……、今日もお美しい……」
「隣は誰だ? 黒持ちなら、弟子か?」
この世界の時間や年月の概念は、元の世界とそう変わらないらしい。
夕方にあたるこの時間、お腹の限界を迎えた俺は少し早めの夕飯をルルに奢ってもらっていた。……のだが。
「ルル……、視線が……いたい」
「あら。ハヤト様が弟子だなんて、失礼しちゃうわ」
そこなのか。
いや、確かにこれだけの美しさなら注目されることに慣れているのかもしれない。
対して俺は、普通の黒髪黒目、典型的な日本人。
特別際立った容姿も持ち合わせていない。
人の注目を集める要素は全くないのだ。
「にしても、美味しいなこれ」
異世界の料理は独特で、元の世界と比べて驚きに溢れるか、もしくは淡泊かと予想していた。
しかし、木製のテーブルに所狭しと並べられた料理は、今の所素直においしいと言えるものだった。
さすがに醤油や味噌は無いだろうけど……。
和食が恋しい。
「あら、さすがですわ。そちらベリーエンテのお肉ですの。ベリーを好んで食べるそうで、生臭さが少ないそうです」
「んン?」
何となく、何となくだが。響き的に……魔物……じゃないよな?
「魔物は普通の動物に比べれば魔力を多く持っていますから、その血肉はより魔力の糧となるでしょう」
「デスヨネーー」
この世界に目覚めてからというもの、俺の勘、冴えわたっている気がする。
しかしこの鶏肉? みたいな魔物、美味しいな。ベリーエンテ、覚えたぞ。
「今日はお早めに休んでいただいて、明日冒険者ギルドへお連れする予定ですわ。冒険者の登録証があればこの世界での身分証代わりになりますもの。……もちろんハヤト様が、嫌でなければ。ですけれど」
「いや、行くよ。身の保障もだし、クラス持ちである以上、戦いは避けれなそうだ」
「そう言っていただけますと」
もちろん元の世界の感覚で言えば、戦いたくもないし、何より怖い。
ただ、それは俺の常識であって、この世界の人々の常識ではない。
クラス持ちが敬愛を集める一方で、そこには責任が伴う。
十八歳で皆それが判明するんだから、恐らく事情がない限り皆運命に従うのだろう。
それに一種の職業であるから、この世界の人にとっては冒険者=サラリーマンになることと同義かもしれない。
よほど後悔のない人生にしたいという願望が強いのか、こちらの世界の俺はとにかく思い切りが良い。
まぁ、ソロプレイヤー気質もあり、極力縛られずに。というのが前提ではあるが。
「クラスやスキルについてお話した所で、明日は早速実践についてお教えできればと思いますわ」
「ああ、頼むよ」
ルルは本当に頼りになるな。
教えてもらうことには何も不安はないんだが、もう一つ。重要な件がある。
「それより、俺が行って大丈夫か? もしウェイダーって勇者が俺の特徴をギルドに伝えていたら、脱走犯扱いされてもおかしくない気がするんだが」
善良な市民には違いないが、とんでもない魔力を調べてこいと言われ、それを調べたら俺で、その俺が逃げたって話になったらちょっとややこしい。
「それについては考えております。--そもそも彼らは報告しないでしょうけれど」
「そうなのか?」
「ええ。あいつ……こほん。グレイヴァーンが居ることを良いことに、ウェイダー自身はとても特殊クラスの持ち主とは思えないポンコツですの」
「勇者は特殊クラスなんだな」
「はい。等級のない、特殊な位置づけのクラスです。……ですが、元々幼馴染で構成されたパーティーの実力はS級に満たない基準ですの。ダンジョン踏破も、強い魔物の討伐依頼を達成できたのも、グレイヴァーンが加入してから。それで調子に乗って色々と問題を起こし、愛想を尽かしたグレイヴァーンは最近まで一時的に離脱してましたわ」
「何か、目に見えるな……」
いい奴代表グレイヴァーン、貧乏くじ引いたな。
「特殊クラスというか、勇者のパーティーに居るとメリットがあるのか? グレイヴァーンは実力者にみえたし、ソロでも、別のパーティーでもやれたと思うが」
「それは……、特級クラスゆえの苦悩ですわね」
「?」
グレイヴァーンは特級クラスなのか。
そういえば勇者がアピールしてたな。
あれかな、分かる人にしか分からない悩みとかかな。
「国単位で所在を把握されることもある、とお伝えしましたけれど。力ある者に取り入ろうとする者は、誰だと思います?」
「あーーーー……、権力者とか?」
「さすがです。グレイヴァーンだけではありませんが……。多くの特級クラスの者は、国から直接依頼を受けたり、高名な者を引き入れたい勢力に加担させられたりと、一筋縄ではいかないのです」
「なるほどな。ってことは、国から勇者パーティーに入れってお達しがあったとかか?」
「私も詳細は分かりませんが、あの実直なグレイヴァーンが脱退しないという事でしたら、恐らく」
一緒に居る内に情が湧いた、とかかもしれないしな。
「なんか……、状況は違えど、ヒトの感情ってのはどの世界も一緒なんだな」
人気者、お金持ちに下心をもって近づく者というイメージだろうか。
魔法なんて無い世界だったが、ヒトっていうものは根本的に変わらないんだろうな。
「特級、特殊クラスを有する国は、それだけで発言力も増しますからね。アルバ・ダスクの発生地であれば尚更」
「人類の危機を自国が食い止めてるんだぞ! って感じか?」
「ええ、他の国のギルドに所属している冒険者も参加しますけれど、到着が遅れる分毎回戦果はグランアルバとエルダスクの冒険者がほとんど挙げていますわね」
「そういうルルは、どうなんだ?」
「?」
「この国に何か言われたりとか、わずらわしいことに振り回されたりしてないか?」
「あら、心配してくださるの? 嬉しいですわ」
「い、いや。ソロ気質って言ってたからさ……」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたぞ。
「もちろん、私わずらわしいことは嫌いですので、上手く立ち回っているつもりですわ。グレイヴァーンもそのくらいお手のものでしょうけど、彼は生家との兼ね合いがありますから」
「……色々あるんだな」
力があるということは、必ずしも良いことばかりではないんだな。
それにしても。
「特殊クラスだろうが、強さ的には特級クラスと同じなんだよな? 国としては勇者ってクラスが重要なのか?」
グレイヴァーンをも引き立て役に選出するくらいだ。
よほど国としては勇者パーティーという者を優遇したいらしい。
「これはヒトの解釈で、実際のところは不明なのですが……」
そう前置きするルルは、どこか悲しげだ。
「アルバ・ダスクは神の試練とも言われていますけれども、一部のヒトはそれが魔族の仕業であると考えておりますの」
「解釈の違いがあるのか?」
「ええ、誰しも未知の存在には恐怖を抱きますから。魔族とは、ヒトより遥か数倍もの魔力を有して生まれ、心臓とは別に体内に魔石を有しております」
「……え!? 体内に、か?」
「はい。そして、魔物を倒した時……。その時にも、稀に魔石を落とすことがございます」
「それってーー」
魔族と魔物が同一ではないにしろ、体の機能が似ているってことか!?
「魔石は魔力の凝縮された、いわば泉。体を巡る魔力がヒトとは比べものにならない魔族にとって、心臓とも同義。大昔は、それを奪おうと、ヒトと魔族との間に戦争があったとも言われています。言い伝えではそれを嘆いた神々がアルバ・ダスクを引き起こしたとも」
「それは……、壮絶な」
差別どころの話ではない。
「時が経ちすぎて実際のところは不明ですが、ヒトの中には根強く魔族に偏見を持っている者もおります。……蒼炎の森は魔族領とも面しておりますからね。国交もほぼ断絶状態ですし。そのため、民の不安を消す目的でアルバ・ダスクで編成される冒険者連隊の総大将は、最初のアルバ・ダスクを退けた時の英雄にちなんで勇者クラスの者が務めることになっております」
「あぁ、なるほど。勇者は旗手の意味も持つのか。それで国も優遇していると」
「ただ、勇者クラスを持つ者は希少とはいえ一人ではありません。総大将になれずとも、勇者が参戦するという事実が重要ですので、勇者を有する国はご機嫌とりに忙しいでしょうね」
勇者にも色々あるんだな。
肩書きってのは、確かに元の世界でも制約があったりしたもんだな。
……俺は普通のオタクで社畜だったから、特別ないが。
「話が飛んでしまいましたが、国としては勇者を取り立てたい。ですが、冒険者ギルドでの彼は評判がわるく、民間人に暴力を振るったとも。おまけにグレイヴァーン不在時の依頼達成率が低すぎて、冒険者ランクの最高位であるS級から降格しそうなのです。……ですので、冒険者ギルドとしては今回の魔力源調査の依頼、失敗してほしいんです」
「うわぁ……。ギルドも立場が複雑だな」
国の意向を無視する訳にはいかないし。
かと言って悪評のある、実力もあやしい冒険者がいつまでもS級だったら他の冒険者の士気が下がる。
中間管理職って、こんな感じなのかな……。
「冒険者ギルドの思惑を分かっていないウェイダーは、現場に居たハヤト様の魔力に圧倒され、勝手に魔族と思い込み……勝手に依頼内容を魔族を倒すことだと思い込んで、一刻も早く達成したいと考えた」
「思い込みが激しいやつなんだな。……でも、本当に魔族だって場合もあるんじゃないか?」
たまたま(多分)俺はヒトであったが、もしかすれば本当に魔族が発生源だったかもしれない。
「逆にその方がギルドにとって都合が良いです。グレイヴァーンが居るとはいえ、魔族に勝てるほど勇者の実力はとても充分ではありません。良くて敗走でしょう」
「あーー。そもそも、魔族が襲ってくるかどうかも分からないしな。俺を見た時の勇者の感じから、結構魔族のことも良く思ってなさそうだったな。先に仕掛けて返り討ちにあいそうだ」
「はい。ギルドとしては、『魔族が居て失敗する』でも、『痕跡も見つからなかった』でも、どちらにしても勇者のS級降格の材料にはなるので、ハヤト様を連れて来れなかったウェイダーがギルドに報告することはないでしょう」
「もしかして俺、グレイヴァーンにものすっごい悪いことした?」
待ってろと言われて、勝手に離れたのは俺だ。
勇者に責められたに違いない。
「いいえ? むしろ貢献したと思いますわ。彼は闘いで手を抜くことは出来ないので、こういった形で勇者に降格して欲しいでしょうから」
「結果オーライ……か?」
「そもそもハヤト様が気に病むことではありませんわ。話を聞く前に勝手に勘違いをして、襲いかかろうとした勇者側の落ち度です」
「な、ならいいんだけどさ」
グレイヴァーンが勇者にめちゃくちゃ文句言われている未来しか見えないのは気のせいだろうか。
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