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11.不穏な影
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昨夜、ルルと合流し夕食を食べ終えそれぞれの宿に戻った後。
グレイは何やら不穏なことを言っていた。
「バレてないつもりなんだか」
と……。
「これをお願いします」
朝。グレイとルルにはお金のこともあり、午後から買い物に付き合ってもらうことになった。
同室のグレイは着いていく! と熱心に言ってきたが、午後も付き合ってもらうので遠慮した。
何とか思い出した道のりでギルドに再び向かい、ベリーエンテの素材納品を受注しようと思ったが。
「メイルフラックスの採取ですね、承ります」
朝一だった為か、タイミングなのか。丁度ベリーエンテの依頼は無かった。
まだ自分の実力も未知数な為、素材採取の依頼がいいだろうと思いこれにした。
元の世界にも似た名前のハーブがあったような。
何でも冒険者必須の薬品、いわゆるポーション類の素材にもなるらしくEランクの冒険者が良く採取する薬草とのことだ。
「こちらは水属性と相性が良い薬草ですので、水辺に良く生えていますよ」
「なるほど。ありがとうございます」
水辺。水辺かぁ。
蒼炎の森とやら方面は一人で行くには怖いし、反対側はすぐ近くには水辺はなかったな。
とすると、西側か?
「あ、そうだ」
そういえばここには図書館があったのだ。
メイルフラックスとやらの特徴と、周辺の地図もついでに見てみよう。
ギルド左奥の扉を開ける。
朝ということもあり、誰もおらず静かだ。
棚の上には『薬草』『魔法クラス』『魔物』といった具合で、項目ごとに仕分けされているのが分かる。
「薬草……辞典、これか?」
比較的分厚い辞典と、初心者向けだろうか。周辺の薬草だけを記載した薄めの辞典があった。
初心者だし、薄めでいいよな……。
お次は。
「地理……、地図……、ん? 待てよ」
そういえば、依頼書が貼ってあるボードの近くに大きめの地図があったような。
あれは、依頼の場所が把握しやすいよう置いてあったのかもしれない。
行く前にそこで確認すればいいな。
「とりあえずメイルフラックスっと」
薬草辞典には、効能での種類分けと、属性別でも索引があった。
属性がついているのは亜種みたいなもんなのか?
「ふーーん、青白い花か」
白を基調としうっすら青みがかった五枚の花弁。
他の属性だと色が変わるんだろうか?
あとは、場所だな。
薬草辞典は元の場所に返す。
図書館を出て、依頼ボードの傍まで来た。
「今日は一人か……」
「Eランク?」
あーー、視線がいたい。
一人でいても結局同じだもんな。
まぁ、いいか。
どれどれ。うん。やはり西側の門を抜けて、少し進むと北側の森と繋がる川があるみたいだな。
森だと迷いそうだし、平地のこっちで探そう。
「よし」
街に近ければ魔物が居たとしても、そう強いものは居ない……らしい。
万が一やばくなったらとりあえずスキルで逃げよう。
いざ、出発!
◆
「あーー……」
意気揚々と街を西へと向け出発し、門番の皆さんにも挨拶をして目的地まで歩いていた。
街道が途中で分岐し、反対側とは違って川と森に近いこちら側はあまり人が通らない。
何かあっても、運よく冒険者が通らなければ分からないだろう。
「金、持ってるんだろ? 出せよ」
グレイが着いてくる! と言ったのは恐らくこの為だろう。
見るからにチンピラ……んんっ。そういうクラス? なのか盗賊風の男達が俺を取り囲んだ。
ざっと見て五人。
「えーーっと、お金がないから依頼を受けたんですけど。どこ情報です、それ?」
なるべく刺激をしないように、事実を述べた。だって本当にお金無いって!
「とぼけんなよ!? 初心者がルルメアカリスとグレイヴァーン、S級二人も率いてんのはおかしいだろ!」
「大金で雇ったんだろ? 俺達にも分けてくれよ、な?」
分かりやすい展開だ。
ギルドかどこかで俺達を見てそう思ったんだろうが、二人には適わないと自覚して俺が一人になるのを待ったのか?
「いや、本当。宿代で全部消えたんで、薬草採取でお金を稼ごうと……」
「嘘言ってんじゃねぇぞ!?」
キレたよ! 本当のこと言っただけだろ!?
俺が何したってんだ!
「物分りの悪いあんちゃんには……、お仕置きが必要だな?」
「へへ」
あぁ、やっぱりそういう流れになるんですね……。
ヤバくなったら逃げる。最初から覚悟していて良かった。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
俺の特性で一瞬で体内を巡った魔力は、スキルの発動によってすぐさま足元へと集中し俺を風の如く動かした。
「!? 速いぞ!」
「ちっ、おい!」
奴らが塞いだ進行方向とは逆。街の方へ移動しようとしたが。
予想をしていなかった訳ではないが、更に別の仲間が道を塞ぐ。
こちらが二人。後ろに五人。
「うーーん」
出来れば人と戦いたくない。というのも、悪い者ですら傷つけたくないとかいう、元の世界での感覚ではない。
こいつらの裏に、もしかすればあの勇者のような別の人物が居るかもしれないからだ。
冒険者すら利用して利権を得ようとする者。……俺はまだこの国やこの世界を知らな過ぎる。
「逃げられたら面倒だ、やれ!」
言ってる場合じゃ……、ないか。
「はぁ」
スキルを幾つか覚えて、俺はオンラインゲームで良くやっていた戦法を思い出していた。
距離を詰められた時、最初から避けるのではなく、少し引きつけた後不意に避ける。
そうすることで、勢いはそのままに相手は体勢を崩す。
そこを俺が攻撃する。
だが相手の裏に何か居るとも限らない。
一応、魔弓は使わずに済む方法も実は考えていた。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
【クラススキル:胴造り・自動】
俺の特性により、身体能力を高めるスキルが一気に発動する。
「おらあああ!」
なりふり構わず刃を振りかざす奴を、まずは一人。
引きつけてーー、躱す。
「!?」
ふらついたところを、胴造りで強化された身体を上手く使って。
「ふぐぅっ」
疾風の如き速さを得た手刀は、見事に相手を一撃で沈めた。
ふう。まずは一人。
「てんめぇ!」
「はぁ」
E級と侮っていたとはいえ、一撃だ。
奴らも一筋縄ではいかないと思ったのだろう。
今度は三人一気に駆けてきた。
「っし」
十分に引きつけたのち、今度は地面に手をつく形でしゃがみこみ、足払いを掛けた。
もちろんその脚は強化されているので……、想像するだけで痛い。
「いってえええええ!」
「うわっ」
「あと三人」
今度は一人がナイフを持って攻めてくる。
相手も警戒しているはず。全く同じやり方では読まれているかもしれない。
俺は背負い投げの要領で、相手が突き刺すナイフの軌道をすんでで避け、その突き出た腕を掴んで相手を地面に叩きつけた。
「ぐはっ」
あと二人か?
「なんだよこいつ……、本当にE級か!?」
「くそっ、一旦退いてーー」
退かせるのはまずいなぁ。
仲間を呼ばれるかもしれない。
俺は退路を塞いでいた二人が駆けるのを先回りし、仁王立ちして止める。
今度は俺が、退路を塞ぐ番だ。
「な、なんなんだよお前!」
「あのなぁ、そっちからケンカ売ってきたんだからその言い方ないだろ?」
「どけよおお!」
片方が投げやりに攻めてくる。
ほんと、学習しないんだな。
向かってくるのをひょいっと避け、片方の足で引っ掛ける。
体が宙に浮いた瞬間、その足でかかと落としを決めた。
「ひぃっ」
さて、丁度一人だし聞きたいことも聞けるな。
「あんたら、誰に言われてきたの?」
「な、何がだっ!」
「誰かに命令されたとか?」
「ち、ちがうっ。たまたま、ギルドの連中が噂していたお前らを見付けて、儲けようとしただけだっ」
うーーん、じゃぁ特に誰かに雇われたとかじゃないか。
まぁ、ルルとグレイ相手に手を出すとか、普通の奴じゃ考えないよな。
「うん、じゃあ」
「み、見逃してくれるの……ガッ」
「とりあえず薬草採取したいから、おやすみ」
遠慮なく背後に回って手刀を叩きこむ。
いいよな? だって俺なんか問答無用で七人に襲われたんだ。
「そこの者おぉーー! 大丈夫か!!」
「お?」
駆け寄りながら、こちらを呼ぶ声が聞こえる。
心配してくれているようだから、こいつらの仲間じゃないだろうが……誰だ?
「はぁ、だいじょうぶか?」
「ああ、平気だ。えっと……どちら様?」
走ってきたのは門番さんと同じく、騎士のような恰好をした茶髪の男性。
門番さんとは違い、少し華やかな装備品なのは気のせいだろうか。
「おっと、申し遅れた。私は『相の聖団』の護衛騎士を務める者。君の依頼を出した所の所属だと思ってくれていい」
「あぁ! 依頼の」
そういえば依頼元がそんな名前のところだったか?
「ポーションの素材を依頼していたんだが、昨日この周辺で冒険者が盗賊の被害にあったんだ。その問題が解決するまで依頼を取り下げようと思ったのだが、先に君が受注していてね」
なるほど。昨日この人の所属先がギルドに依頼を出した後、そのことを把握したが、ギルドに伝達がいく前に依頼書が掲示されたと。
……それを選んだのがたまたま目を付けられていた俺ってのもすごいな。
「いやーー、君。強いんだね。おかげで手間が省けたよ」
「その襲われた盗賊ってのはこいつらで間違いないのか?」
「ああ、間違いないだろう。襲われた者も相手は七人だと言っていた。それに、こいつらは度々他の街とこの周辺を行き来していてね。いわゆるお尋ね者ってやつだ」
「お尋ね者ねぇ」
そんな奴が堂々と街で俺を見掛けるのか?
あ、あれか? 昨日ベリーエンテを探し回って、北側から少し西よりの森に差し掛かってたからそこにこいつらの拠点があったとか?
んで、尾行してた……とか。考え過ぎかな。
「後の事は私たちに任せてくれ。是非、お礼がしたいんだが……どうだろう?」
「いや、俺は別に」
そうこうしていると、彼の仲間が乗っていた馬車だろうか。それが到着し、テキパキと盗賊を乗せていく。
「では素材の採取も私達からの依頼だし、依頼達成の際に報酬を上乗せしておくというのはどうだろう?」
「ああ、それなら……」
正直ギルドで大々的にお礼をされると悪目立ちしそうでイヤだったが、そういう受け取り方なら問題ないだろう。
「ギルドカードを見せてもらえるかい?」
「……どうぞ」
安易に渡すべきではないんだろうが、まぁ悪い人ではなさそうし良いだろう。
「ハヤト君だね……、うん? E級なのかい!? いやぁ、びっくりしたよ」
「あはは……」
大体みんな同じ反応だな。
「ライラット殿にはこちらから報告しておく。心ばかりだが、ギルドで受け取ってくれ」
「どうも」
「じゃぁ、君も気を付けて! 残りの採取も頼んだよ!」
慌ただしい人だな。
ささっと盗賊を回収した護衛騎士の皆さんは、すぐに元来た道を引き返した。
「相の聖団……。名前からして、宗教法人か何かか?」
帰ったらルルかグレイに聞いてみよう。
「お」
丁度道端に、辞典で見たような花が咲いていた。
それが、奥に行くにつれて徐々に数が増えていく。
「こっちが川辺か」
思った通り、少し進むと地面が沈み、その底には水が流れ川となっている。
「確か数は十だったよな」
根元の少し上、茎の部分から採取し十本を納品だったはず。
ベリーエンテの依頼を受けた際に用意した、ナイフを使って茎の部分を刈り取る。
「……十っと、こんなもんだろ」
盗賊のせいで思いの外時間を費やした俺は、急いでギルドへと戻った。
グレイは何やら不穏なことを言っていた。
「バレてないつもりなんだか」
と……。
「これをお願いします」
朝。グレイとルルにはお金のこともあり、午後から買い物に付き合ってもらうことになった。
同室のグレイは着いていく! と熱心に言ってきたが、午後も付き合ってもらうので遠慮した。
何とか思い出した道のりでギルドに再び向かい、ベリーエンテの素材納品を受注しようと思ったが。
「メイルフラックスの採取ですね、承ります」
朝一だった為か、タイミングなのか。丁度ベリーエンテの依頼は無かった。
まだ自分の実力も未知数な為、素材採取の依頼がいいだろうと思いこれにした。
元の世界にも似た名前のハーブがあったような。
何でも冒険者必須の薬品、いわゆるポーション類の素材にもなるらしくEランクの冒険者が良く採取する薬草とのことだ。
「こちらは水属性と相性が良い薬草ですので、水辺に良く生えていますよ」
「なるほど。ありがとうございます」
水辺。水辺かぁ。
蒼炎の森とやら方面は一人で行くには怖いし、反対側はすぐ近くには水辺はなかったな。
とすると、西側か?
「あ、そうだ」
そういえばここには図書館があったのだ。
メイルフラックスとやらの特徴と、周辺の地図もついでに見てみよう。
ギルド左奥の扉を開ける。
朝ということもあり、誰もおらず静かだ。
棚の上には『薬草』『魔法クラス』『魔物』といった具合で、項目ごとに仕分けされているのが分かる。
「薬草……辞典、これか?」
比較的分厚い辞典と、初心者向けだろうか。周辺の薬草だけを記載した薄めの辞典があった。
初心者だし、薄めでいいよな……。
お次は。
「地理……、地図……、ん? 待てよ」
そういえば、依頼書が貼ってあるボードの近くに大きめの地図があったような。
あれは、依頼の場所が把握しやすいよう置いてあったのかもしれない。
行く前にそこで確認すればいいな。
「とりあえずメイルフラックスっと」
薬草辞典には、効能での種類分けと、属性別でも索引があった。
属性がついているのは亜種みたいなもんなのか?
「ふーーん、青白い花か」
白を基調としうっすら青みがかった五枚の花弁。
他の属性だと色が変わるんだろうか?
あとは、場所だな。
薬草辞典は元の場所に返す。
図書館を出て、依頼ボードの傍まで来た。
「今日は一人か……」
「Eランク?」
あーー、視線がいたい。
一人でいても結局同じだもんな。
まぁ、いいか。
どれどれ。うん。やはり西側の門を抜けて、少し進むと北側の森と繋がる川があるみたいだな。
森だと迷いそうだし、平地のこっちで探そう。
「よし」
街に近ければ魔物が居たとしても、そう強いものは居ない……らしい。
万が一やばくなったらとりあえずスキルで逃げよう。
いざ、出発!
◆
「あーー……」
意気揚々と街を西へと向け出発し、門番の皆さんにも挨拶をして目的地まで歩いていた。
街道が途中で分岐し、反対側とは違って川と森に近いこちら側はあまり人が通らない。
何かあっても、運よく冒険者が通らなければ分からないだろう。
「金、持ってるんだろ? 出せよ」
グレイが着いてくる! と言ったのは恐らくこの為だろう。
見るからにチンピラ……んんっ。そういうクラス? なのか盗賊風の男達が俺を取り囲んだ。
ざっと見て五人。
「えーーっと、お金がないから依頼を受けたんですけど。どこ情報です、それ?」
なるべく刺激をしないように、事実を述べた。だって本当にお金無いって!
「とぼけんなよ!? 初心者がルルメアカリスとグレイヴァーン、S級二人も率いてんのはおかしいだろ!」
「大金で雇ったんだろ? 俺達にも分けてくれよ、な?」
分かりやすい展開だ。
ギルドかどこかで俺達を見てそう思ったんだろうが、二人には適わないと自覚して俺が一人になるのを待ったのか?
「いや、本当。宿代で全部消えたんで、薬草採取でお金を稼ごうと……」
「嘘言ってんじゃねぇぞ!?」
キレたよ! 本当のこと言っただけだろ!?
俺が何したってんだ!
「物分りの悪いあんちゃんには……、お仕置きが必要だな?」
「へへ」
あぁ、やっぱりそういう流れになるんですね……。
ヤバくなったら逃げる。最初から覚悟していて良かった。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
俺の特性で一瞬で体内を巡った魔力は、スキルの発動によってすぐさま足元へと集中し俺を風の如く動かした。
「!? 速いぞ!」
「ちっ、おい!」
奴らが塞いだ進行方向とは逆。街の方へ移動しようとしたが。
予想をしていなかった訳ではないが、更に別の仲間が道を塞ぐ。
こちらが二人。後ろに五人。
「うーーん」
出来れば人と戦いたくない。というのも、悪い者ですら傷つけたくないとかいう、元の世界での感覚ではない。
こいつらの裏に、もしかすればあの勇者のような別の人物が居るかもしれないからだ。
冒険者すら利用して利権を得ようとする者。……俺はまだこの国やこの世界を知らな過ぎる。
「逃げられたら面倒だ、やれ!」
言ってる場合じゃ……、ないか。
「はぁ」
スキルを幾つか覚えて、俺はオンラインゲームで良くやっていた戦法を思い出していた。
距離を詰められた時、最初から避けるのではなく、少し引きつけた後不意に避ける。
そうすることで、勢いはそのままに相手は体勢を崩す。
そこを俺が攻撃する。
だが相手の裏に何か居るとも限らない。
一応、魔弓は使わずに済む方法も実は考えていた。
【ユニークスキル:早気】
【クラススキル:足踏み・疾風】
【クラススキル:胴造り・自動】
俺の特性により、身体能力を高めるスキルが一気に発動する。
「おらあああ!」
なりふり構わず刃を振りかざす奴を、まずは一人。
引きつけてーー、躱す。
「!?」
ふらついたところを、胴造りで強化された身体を上手く使って。
「ふぐぅっ」
疾風の如き速さを得た手刀は、見事に相手を一撃で沈めた。
ふう。まずは一人。
「てんめぇ!」
「はぁ」
E級と侮っていたとはいえ、一撃だ。
奴らも一筋縄ではいかないと思ったのだろう。
今度は三人一気に駆けてきた。
「っし」
十分に引きつけたのち、今度は地面に手をつく形でしゃがみこみ、足払いを掛けた。
もちろんその脚は強化されているので……、想像するだけで痛い。
「いってえええええ!」
「うわっ」
「あと三人」
今度は一人がナイフを持って攻めてくる。
相手も警戒しているはず。全く同じやり方では読まれているかもしれない。
俺は背負い投げの要領で、相手が突き刺すナイフの軌道をすんでで避け、その突き出た腕を掴んで相手を地面に叩きつけた。
「ぐはっ」
あと二人か?
「なんだよこいつ……、本当にE級か!?」
「くそっ、一旦退いてーー」
退かせるのはまずいなぁ。
仲間を呼ばれるかもしれない。
俺は退路を塞いでいた二人が駆けるのを先回りし、仁王立ちして止める。
今度は俺が、退路を塞ぐ番だ。
「な、なんなんだよお前!」
「あのなぁ、そっちからケンカ売ってきたんだからその言い方ないだろ?」
「どけよおお!」
片方が投げやりに攻めてくる。
ほんと、学習しないんだな。
向かってくるのをひょいっと避け、片方の足で引っ掛ける。
体が宙に浮いた瞬間、その足でかかと落としを決めた。
「ひぃっ」
さて、丁度一人だし聞きたいことも聞けるな。
「あんたら、誰に言われてきたの?」
「な、何がだっ!」
「誰かに命令されたとか?」
「ち、ちがうっ。たまたま、ギルドの連中が噂していたお前らを見付けて、儲けようとしただけだっ」
うーーん、じゃぁ特に誰かに雇われたとかじゃないか。
まぁ、ルルとグレイ相手に手を出すとか、普通の奴じゃ考えないよな。
「うん、じゃあ」
「み、見逃してくれるの……ガッ」
「とりあえず薬草採取したいから、おやすみ」
遠慮なく背後に回って手刀を叩きこむ。
いいよな? だって俺なんか問答無用で七人に襲われたんだ。
「そこの者おぉーー! 大丈夫か!!」
「お?」
駆け寄りながら、こちらを呼ぶ声が聞こえる。
心配してくれているようだから、こいつらの仲間じゃないだろうが……誰だ?
「はぁ、だいじょうぶか?」
「ああ、平気だ。えっと……どちら様?」
走ってきたのは門番さんと同じく、騎士のような恰好をした茶髪の男性。
門番さんとは違い、少し華やかな装備品なのは気のせいだろうか。
「おっと、申し遅れた。私は『相の聖団』の護衛騎士を務める者。君の依頼を出した所の所属だと思ってくれていい」
「あぁ! 依頼の」
そういえば依頼元がそんな名前のところだったか?
「ポーションの素材を依頼していたんだが、昨日この周辺で冒険者が盗賊の被害にあったんだ。その問題が解決するまで依頼を取り下げようと思ったのだが、先に君が受注していてね」
なるほど。昨日この人の所属先がギルドに依頼を出した後、そのことを把握したが、ギルドに伝達がいく前に依頼書が掲示されたと。
……それを選んだのがたまたま目を付けられていた俺ってのもすごいな。
「いやーー、君。強いんだね。おかげで手間が省けたよ」
「その襲われた盗賊ってのはこいつらで間違いないのか?」
「ああ、間違いないだろう。襲われた者も相手は七人だと言っていた。それに、こいつらは度々他の街とこの周辺を行き来していてね。いわゆるお尋ね者ってやつだ」
「お尋ね者ねぇ」
そんな奴が堂々と街で俺を見掛けるのか?
あ、あれか? 昨日ベリーエンテを探し回って、北側から少し西よりの森に差し掛かってたからそこにこいつらの拠点があったとか?
んで、尾行してた……とか。考え過ぎかな。
「後の事は私たちに任せてくれ。是非、お礼がしたいんだが……どうだろう?」
「いや、俺は別に」
そうこうしていると、彼の仲間が乗っていた馬車だろうか。それが到着し、テキパキと盗賊を乗せていく。
「では素材の採取も私達からの依頼だし、依頼達成の際に報酬を上乗せしておくというのはどうだろう?」
「ああ、それなら……」
正直ギルドで大々的にお礼をされると悪目立ちしそうでイヤだったが、そういう受け取り方なら問題ないだろう。
「ギルドカードを見せてもらえるかい?」
「……どうぞ」
安易に渡すべきではないんだろうが、まぁ悪い人ではなさそうし良いだろう。
「ハヤト君だね……、うん? E級なのかい!? いやぁ、びっくりしたよ」
「あはは……」
大体みんな同じ反応だな。
「ライラット殿にはこちらから報告しておく。心ばかりだが、ギルドで受け取ってくれ」
「どうも」
「じゃぁ、君も気を付けて! 残りの採取も頼んだよ!」
慌ただしい人だな。
ささっと盗賊を回収した護衛騎士の皆さんは、すぐに元来た道を引き返した。
「相の聖団……。名前からして、宗教法人か何かか?」
帰ったらルルかグレイに聞いてみよう。
「お」
丁度道端に、辞典で見たような花が咲いていた。
それが、奥に行くにつれて徐々に数が増えていく。
「こっちが川辺か」
思った通り、少し進むと地面が沈み、その底には水が流れ川となっている。
「確か数は十だったよな」
根元の少し上、茎の部分から採取し十本を納品だったはず。
ベリーエンテの依頼を受けた際に用意した、ナイフを使って茎の部分を刈り取る。
「……十っと、こんなもんだろ」
盗賊のせいで思いの外時間を費やした俺は、急いでギルドへと戻った。
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