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127.サイン
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今回のワルダン商会の訪問は勿論契約する為だ。現領主のイーダン子爵は来週には屋敷を引き払って王都に向かい、陛下に爵位を返上しその足でシュナイダー領の港から甥がいるシャルマン公国へ移住される。子爵が領主で無くなるにあたり、新たな領主と契約を結び直さなければならない。
レイシャルでは領地で発生する契約は全て領主のサインが必要で、その契約書で発生する利益の何割かを税として領主におさめる様になっている。
だから契約のサインはとても重要なのだ。
ヘルマンさんが調べたところワルダン商会がイーダン領に会社を構え契約するようになってから、領主である子爵様への納税が極端に減っている。
恐らく商会はこちらが契約を渋らない様に納税率を上げ契約書を作成してくるだろう。そしてサインをさせ例の偽造を図り、偽造した低い税率を主張してくるはずだ。
「本当に灰汁どいよね!」
「そろそろ天罰を下そう」
そう言い悪い顔をして笑うアレックスとヘルマンさん。記憶が危うい子爵様を騙し詐取して来たのだから、そろそろおロープちょうだいしてもらおう。
そしてアレックスは勇退されるイーダン子爵の為に、この屋敷と領地内の別宅を相場より高く買い取ったそうだ。アレックス曰くこの位ではワルダンに詐取されていた額には届かないが、老後を豊かに過ごせるだけ額はあると言う。
「きちんとワルダンから巻き上げるから心配するな」
アレックスはそう言い楽しそうに笑った。
“コンコン”
「ワルダン商会の会頭がお見えになりました。お通ししてよろしいでしょうか」
悪人登場だ。アレックスとヘルマンさんと顔を見合わせ頷く。程なくして会頭が現れた。
会頭は今日も朝からぎらついた顔をして登場し、一応早朝に訪問した事を謝った。
「朝早くに訪問し申し訳ございません。ですが伯爵様と奥様の滞在が短いとお聞きいたしました。それ故に急ぐ心中をお察しいただきたく…」
そう言い頭を下げた。アレックスは表情を変えることなく会頭の話に耳を傾けると、会頭は鞄から書類を取り出しアレックスの前に置いた。説明を受けなくても分かる契約書だ。
「ここでは全ての生産者の公平を期すために実の栽培から販売まで我が商会が仲介し、公平に取引を行い領民全てが豊かになる様に我が商会が尽力しております。領主様がお代わりになられても、今まで通りの条件でご契約を頂きます様、お願い申し上げます」
一見会頭の言葉は領民想いのいい人に聞こえるが、利益の分配は圧倒的に商会が多く、とてもじゃないけど領民の事を思っているなんて思えない。
喉まで出ている文句をお茶で飲み込み、分からないふりをして契約書に目を通す。
「何故こんなに沢山あるのですか?」
知らないふりをして会頭に質問すると、少し顔を上げ見下した様な態度で
「この領地で私共が仲介する者達全ての契約書をお持ちしました。契約内容は生産者と合意済みで、後は領主様のサインで成立いたします。サイン後は私が商会に契約書を持ち帰り、契約内容と納税に関する資料を作り、控と共に後日お持ち致します。イーダン子爵家様とも同様にさせていただいておりました」
持ち帰って偽造するのよね。良心的に見せかけてやりたい放題じゃん!
「こんな短時間でよく揃えましたね。こんな大切な契約はもっと時間をかけるものだと思っていましたわ」
嫌な言い方をすると会頭はあからさまに私を睨んだ。それにアレックスが反応したが、アレックスの手を取り微笑んだ。あくまでも何も知らない無知な妻の悪意のない質問なのだ。アレックスが反応してはいけない。
そして早く契約を取り付けたい会頭は私を無視して契約書の束をアレックスの前に置いた。ここから大芝居が始まる。アレックスは珍しく微笑み会頭を見て
「今回の契約のサインは妻にしてもらうつもりだ。妻は私の半身で妻のする事は全て私がしたと思ってくれていい」
そう言いアレックスは大袈裟に私を抱き寄せ至るところに口付けを落とす。すると会頭はニヤついて私の前に契約書を置き直してサインを求めた。
私は契約書の束を持ち立上り扉に向かった。すると慌てた会頭が
「奥様!契約書をどこへもっていくのですか!」
そう言い駆け寄ってくる。私は笑顔で
「私異世界人でしょう⁈字に自信が無いので、人前で書きたくないのです。隣の部屋で書いてきますから、少し待って下さい」
「ですが!」
「こんなちゃんとした書類を改ざん何てしませんから安心して下さい。って言うか何か書いているかよく分からないしね」
そう言い笑うとまたニヤつく会頭。きっと心の中で
『王太子妃と言ってもただの無知な女だ』
とか思っているのだろう。こうしてヘルマンさんに付き添ってもらい、隣の部屋でサインをしていく。読めば読むほどブラックな契約に笑いしか出ない。
「春香様は役者になれますね」
「無知な女になりきれてますか?」
「はい。お見事です」
こうして沢山ある契約書にサインをしていく。書き終わるまで1時間ほどかかり、契約書の束を持ち応接室に戻って来た。部屋に入るとウンザリした顔のアレックスと、興奮し饒舌な会頭がいる。
私に気付くと会頭は駆け寄り、奪う勢いで私から契約書の束を取り革の書類に入れ直ぐに鞄にしまった。
「それでは私は契約書の条件をまとめ、伯爵様にお渡しする書類を作成し、明後日またお伺い致します」
「そんなに早く出来るのですか?契約書は50件以上あるのに」
そう言うも怪訝な顔をした会頭が
「我が商会はこの領地を纏めてきた唯一の商会ですぞ。従業員も優秀な者ばかりでございます。ご心配には及びません」
そう言い冷やかな視線を向ける。すると背後から冷気が漂い焦る。演技とは言え私が見下されるい事にアレックスが怒っているのだ。このままだとバレてしまう。早く会頭に帰ってもらう為に、ヘルマンさんに視線を向けると、ヘルマンさんは察し会頭に話しかけ玄関まで送って行った。
会頭が帰ると私を抱きかかえ部屋に急ぐアレックス。夫の怒り治める為に際どいスキンシップを受け
ヘロヘロになり、そのまま寝室で少し休む事になった。
アレックスは満足し執務室に戻りヘルマンさんと、明後日来る会頭を断罪する為に打ち合わせを始めた。私はベッドで微睡みながら
『明日は確か領地を視察し、明後日はワルダン商会を断罪するのよね…あれ?今回は 新婚旅行じゃなかったけ?』
全く旅行要素の無い事に苦笑いし、唯一旅行らしい明日の領地視察を楽しみに眠りについた。
レイシャルでは領地で発生する契約は全て領主のサインが必要で、その契約書で発生する利益の何割かを税として領主におさめる様になっている。
だから契約のサインはとても重要なのだ。
ヘルマンさんが調べたところワルダン商会がイーダン領に会社を構え契約するようになってから、領主である子爵様への納税が極端に減っている。
恐らく商会はこちらが契約を渋らない様に納税率を上げ契約書を作成してくるだろう。そしてサインをさせ例の偽造を図り、偽造した低い税率を主張してくるはずだ。
「本当に灰汁どいよね!」
「そろそろ天罰を下そう」
そう言い悪い顔をして笑うアレックスとヘルマンさん。記憶が危うい子爵様を騙し詐取して来たのだから、そろそろおロープちょうだいしてもらおう。
そしてアレックスは勇退されるイーダン子爵の為に、この屋敷と領地内の別宅を相場より高く買い取ったそうだ。アレックス曰くこの位ではワルダンに詐取されていた額には届かないが、老後を豊かに過ごせるだけ額はあると言う。
「きちんとワルダンから巻き上げるから心配するな」
アレックスはそう言い楽しそうに笑った。
“コンコン”
「ワルダン商会の会頭がお見えになりました。お通ししてよろしいでしょうか」
悪人登場だ。アレックスとヘルマンさんと顔を見合わせ頷く。程なくして会頭が現れた。
会頭は今日も朝からぎらついた顔をして登場し、一応早朝に訪問した事を謝った。
「朝早くに訪問し申し訳ございません。ですが伯爵様と奥様の滞在が短いとお聞きいたしました。それ故に急ぐ心中をお察しいただきたく…」
そう言い頭を下げた。アレックスは表情を変えることなく会頭の話に耳を傾けると、会頭は鞄から書類を取り出しアレックスの前に置いた。説明を受けなくても分かる契約書だ。
「ここでは全ての生産者の公平を期すために実の栽培から販売まで我が商会が仲介し、公平に取引を行い領民全てが豊かになる様に我が商会が尽力しております。領主様がお代わりになられても、今まで通りの条件でご契約を頂きます様、お願い申し上げます」
一見会頭の言葉は領民想いのいい人に聞こえるが、利益の分配は圧倒的に商会が多く、とてもじゃないけど領民の事を思っているなんて思えない。
喉まで出ている文句をお茶で飲み込み、分からないふりをして契約書に目を通す。
「何故こんなに沢山あるのですか?」
知らないふりをして会頭に質問すると、少し顔を上げ見下した様な態度で
「この領地で私共が仲介する者達全ての契約書をお持ちしました。契約内容は生産者と合意済みで、後は領主様のサインで成立いたします。サイン後は私が商会に契約書を持ち帰り、契約内容と納税に関する資料を作り、控と共に後日お持ち致します。イーダン子爵家様とも同様にさせていただいておりました」
持ち帰って偽造するのよね。良心的に見せかけてやりたい放題じゃん!
「こんな短時間でよく揃えましたね。こんな大切な契約はもっと時間をかけるものだと思っていましたわ」
嫌な言い方をすると会頭はあからさまに私を睨んだ。それにアレックスが反応したが、アレックスの手を取り微笑んだ。あくまでも何も知らない無知な妻の悪意のない質問なのだ。アレックスが反応してはいけない。
そして早く契約を取り付けたい会頭は私を無視して契約書の束をアレックスの前に置いた。ここから大芝居が始まる。アレックスは珍しく微笑み会頭を見て
「今回の契約のサインは妻にしてもらうつもりだ。妻は私の半身で妻のする事は全て私がしたと思ってくれていい」
そう言いアレックスは大袈裟に私を抱き寄せ至るところに口付けを落とす。すると会頭はニヤついて私の前に契約書を置き直してサインを求めた。
私は契約書の束を持ち立上り扉に向かった。すると慌てた会頭が
「奥様!契約書をどこへもっていくのですか!」
そう言い駆け寄ってくる。私は笑顔で
「私異世界人でしょう⁈字に自信が無いので、人前で書きたくないのです。隣の部屋で書いてきますから、少し待って下さい」
「ですが!」
「こんなちゃんとした書類を改ざん何てしませんから安心して下さい。って言うか何か書いているかよく分からないしね」
そう言い笑うとまたニヤつく会頭。きっと心の中で
『王太子妃と言ってもただの無知な女だ』
とか思っているのだろう。こうしてヘルマンさんに付き添ってもらい、隣の部屋でサインをしていく。読めば読むほどブラックな契約に笑いしか出ない。
「春香様は役者になれますね」
「無知な女になりきれてますか?」
「はい。お見事です」
こうして沢山ある契約書にサインをしていく。書き終わるまで1時間ほどかかり、契約書の束を持ち応接室に戻って来た。部屋に入るとウンザリした顔のアレックスと、興奮し饒舌な会頭がいる。
私に気付くと会頭は駆け寄り、奪う勢いで私から契約書の束を取り革の書類に入れ直ぐに鞄にしまった。
「それでは私は契約書の条件をまとめ、伯爵様にお渡しする書類を作成し、明後日またお伺い致します」
「そんなに早く出来るのですか?契約書は50件以上あるのに」
そう言うも怪訝な顔をした会頭が
「我が商会はこの領地を纏めてきた唯一の商会ですぞ。従業員も優秀な者ばかりでございます。ご心配には及びません」
そう言い冷やかな視線を向ける。すると背後から冷気が漂い焦る。演技とは言え私が見下されるい事にアレックスが怒っているのだ。このままだとバレてしまう。早く会頭に帰ってもらう為に、ヘルマンさんに視線を向けると、ヘルマンさんは察し会頭に話しかけ玄関まで送って行った。
会頭が帰ると私を抱きかかえ部屋に急ぐアレックス。夫の怒り治める為に際どいスキンシップを受け
ヘロヘロになり、そのまま寝室で少し休む事になった。
アレックスは満足し執務室に戻りヘルマンさんと、明後日来る会頭を断罪する為に打ち合わせを始めた。私はベッドで微睡みながら
『明日は確か領地を視察し、明後日はワルダン商会を断罪するのよね…あれ?今回は 新婚旅行じゃなかったけ?』
全く旅行要素の無い事に苦笑いし、唯一旅行らしい明日の領地視察を楽しみに眠りについた。
応援ありがとうございます!
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