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一部
一夜
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父親の形見を最悪な相手に取られた。それは俺にとって唯一の物で母から譲って貰ったものだった。
俺と話がしたいといきなり目の前に現れた訳のわからない人達。断ると強引に俺のしていたブレスレットを取り上げ持っていった。世の中は理不尽だらけで誰も助けてはくれない。
彼らはそれを強引にわからせた人達だった。
本当はそんなブレスレットなんてほっといてその人達を絶ちきれば良かったけど母親から譲ってもらった大事な物だったので俺は意を決して取りに行くことにした。なぜこんな何の価値もない他人のブレスレットを理不尽に取ったのかわからなかったがその意味は入ってわかった。
俺は前からその人達のターゲットになっていて知らないのは自分ばかりで気がついたときにはもう後戻りができないところまで来ていた。
扉は半開きにはなっていたがノックをして返事を待ったがその前に扉が開いた。
「あの、ブレスレットを返して下さい」
「これ?」
開いた部屋の先に男が居てブレスレットを握っていた。入るか迷ったが俺はその部屋に足を踏み入れてしまった。
ガチャン
閉められると空気が違う事に気がついた。周りの男たちは今まで関わったことのないような、むしろ避けて通ってきた人種の人達だった。そう、ここはヤクザの事務所だった。
男に近づきブレスレットを取ろうとしたが避けられてしまった。こういう人がすんなり返してくれるとは思わない。
「せっかく来たんやからお茶でもどう?」
「結構です」
「まぁまぁ。案外度胸あるんやな。友達連れてくるとかカメラ持ってきたりする子、警察連れてくる子…今の世の中何でもできるけど。一人できたってことは友達おらんのか?」
「……。早く返してください」
関西弁を話すその男はお茶を入れていた。普通に見えるけど首には刺青が見えている。周りの人は見るからにといった威圧感を出していた。脅し…恐怖感…そんな事でしか相手を操れない人種。嫌いだ。
「そうか、バックレんだけええけどな。逃げた方が助からんから。てか、お前らのせいでビビってるやないか、邪魔や!俺は美日下君と話したいんや。外でてけ」
そう言われ何人か外へ出ていき部屋は俺を含めた三人になった。聞き逃さなかったが当然のように自分の名前を知っていた。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
「立ってないでここ座って」
座ってはいけない、だけど俺は肩を持たれ無理やり座らされた。男も隣に座る。
「あの…」
「わかってる、ブレスレットやろ?」
「はぃ…」
「ほんなら俺の話聞いてな」
「わかりました」
「このままやとまずいから俺のとここんか?」
「?」
「まだ、知らんのか?」
「?」
「おかん飛んだの」
俺は何の事かさっぱりわからなかった。
「西原、何も知らんみたいやぞ」
「そうですね」
「お前、おかん借金してたん知らんのか?」
「…はい」
男は俺をじっと見ていた。
「電話かけてみ、繋がらんから」
お母さんの携帯に何度かけても繋がらなかった。
「最後に会ったのいつや」
「一昨日の朝です。朝には仕事に行ったから」
「朝、確認したんか?」
「はい」
「一昨日で何でおかん今日までおらんのや?」
「二泊三日の研修で今日帰ってくるって言ってました」
「ほな、一昨日の朝から飛んだな。説明すると、美日下君のお母さんは闇金で借金してお前を置いて逃げた。今月辺りから返済を渋り始めて先週ついに払わんくなって一昨日最終支払いを滞納したんや。んで、お前のこと観察してたけどおかん現れんかったから来てもらった次第や」
俺は頭が真っ白になった。
「年、いくつや」
「17です」
「若いな、今年で17か?」
「いえ、18になる年です」
「ほな、ええか。未成年は何かと面倒になる時あるからな。悪いようにはせんからとりあえずうちで働け」
「働くって…」
「風俗や」
「嫌です。他で働いて返します」
「一番手っ取り早いんやけど、普通に働いても利子しか返せんぞ?」
どれだけ借金したのだろうか…
「一回家に帰っていいですか?」
「んー帰ってどうすんねん」
「本当にいなくなったか確かめたいです」
「まぁ、そうなるよな。けど、仕事も1ヶ月前に辞めて…なんや、それも知らんかったのか。悪いな、俺らみたいなのから知らされて」
知らなかった。母親は普通に朝でかけて夕方帰ってきていたから。それならどこへ…いや今はそれどころじゃない。俺はこれからどうしたらいいのだろうか。逃げて…
「あんまり悪いこと考えんようにな。闇金から逃げれる思ってる奴結構おるけどよっぽど上手くやらな逃げれんようになってるから。因みに俺は一度も逃がしたことない。本人おらんならその周りから取るのもありやから」
俺に逃げ場はない。それよりも風俗で稼いで返すということの方が俺は恐怖でしかなかった。
「どうしよかな、念のため確認行く?西原」
「どちらでも構いません」
確認して本当にいなくなったのがわかったら…俺はこのまま連行されるのだろうか。とりあえず、確認だけはしたかった。
「すみません、ここで電話していいですか?」
「ええよ」
俺は母親の仕事の連絡を調べ電話をした。男のいう通り1ヶ月ぐらい前に辞めたと言った。ならばお母さんは毎日毎日どこへ行ってたのだろうか…心当たりは一つしかなかった。
「すみません、一ヵ所確認したい場所があるんですけどそこだけ行っていいですか?」
「ええけど…」
「確認だけお願いします」
男ももしかしたらいるかもしれないと思ったのだろうか車をだしてくれた。運転手に俺が案内した。
「適当な所だったらわかってるやろな?」
「適当ってなんですか?」
「お前、斎藤さんにその口の聞き方」
「ええよ、別に。今はグレーやから」
「はい」
男の名前が斎藤だとわかった。
真っ暗だったが目的地の場所で車を停めてもらった。
「……墓地か」
父親の墓地の所にもしかしたらと思って来たがやはり姿は無かった。携帯のライトを照らし周りに血の跡はないかだけ念のため調べた。ここで死んでないだけましかも。俺は墓地の線香辺りを調べて最近来てないか調べていた。一応あったがそこまで最近のものでも無さそうだった。
辺りも静まり返っていた。
「何調べてるんでしょう、暗闇にかこつけて逃げますかね?」
「ないな、もし死ぬならここや思たんやないか?」
「あー…」
「多分いないのはわかってたとは思う、万が一ってやつやけど万が一は所詮万が一やから…いない。17の息子置いてくぐらいや、そこまで本人は頭回らんやろうな」
「事務所帰りますか?」
「一応部屋に戻して確認だけさせてやってくれ。ほんで本人も気が済むと思うから」
「わかりました」
……………………
「てことで佐野美日下君は今日から借金持ちなんやけどバイトとかしてんの?」
「いえ…」
「そうか、なら働かなあかんのやけど…風俗いやなんやろ」
「はい」
「斎藤さん…ダメですよ」
「なんでや」
「また同じことになりますよ。素直に風俗連れてってください。そいつの為ですから」
「わかるけど、」
「ダメです。痛い目見るのはこの子ですよ。佐野行くぞ。お前は今日から風俗で働いて借金返せ。安心しろ、初めから上客つけねぇから」
俺はその人の後に着いて事務所の扉を出ようとした。
これから、どうなるのか不安しかない…
自分でもわかる血の気の引いた冷たい手、俺は不安なまま斎藤の横を通りすぎた時だった。ぎゅっと手首を握られた。
「斎藤さん!」
「加成さんに聞いてからならええか?」
「はぁ~知りませんよ」
斎藤は俺の手を握ったまま電話をかけた。
「すみません、確保したんですけどこいつ俺の好きにしてええですか?はい、そうですね。ほんなら暫く預かります」
電話をきった。
斎藤は俺をぐいっと引っ張って元の場所に戻し笑顔でこう言った。
「俺のや」
俺と話がしたいといきなり目の前に現れた訳のわからない人達。断ると強引に俺のしていたブレスレットを取り上げ持っていった。世の中は理不尽だらけで誰も助けてはくれない。
彼らはそれを強引にわからせた人達だった。
本当はそんなブレスレットなんてほっといてその人達を絶ちきれば良かったけど母親から譲ってもらった大事な物だったので俺は意を決して取りに行くことにした。なぜこんな何の価値もない他人のブレスレットを理不尽に取ったのかわからなかったがその意味は入ってわかった。
俺は前からその人達のターゲットになっていて知らないのは自分ばかりで気がついたときにはもう後戻りができないところまで来ていた。
扉は半開きにはなっていたがノックをして返事を待ったがその前に扉が開いた。
「あの、ブレスレットを返して下さい」
「これ?」
開いた部屋の先に男が居てブレスレットを握っていた。入るか迷ったが俺はその部屋に足を踏み入れてしまった。
ガチャン
閉められると空気が違う事に気がついた。周りの男たちは今まで関わったことのないような、むしろ避けて通ってきた人種の人達だった。そう、ここはヤクザの事務所だった。
男に近づきブレスレットを取ろうとしたが避けられてしまった。こういう人がすんなり返してくれるとは思わない。
「せっかく来たんやからお茶でもどう?」
「結構です」
「まぁまぁ。案外度胸あるんやな。友達連れてくるとかカメラ持ってきたりする子、警察連れてくる子…今の世の中何でもできるけど。一人できたってことは友達おらんのか?」
「……。早く返してください」
関西弁を話すその男はお茶を入れていた。普通に見えるけど首には刺青が見えている。周りの人は見るからにといった威圧感を出していた。脅し…恐怖感…そんな事でしか相手を操れない人種。嫌いだ。
「そうか、バックレんだけええけどな。逃げた方が助からんから。てか、お前らのせいでビビってるやないか、邪魔や!俺は美日下君と話したいんや。外でてけ」
そう言われ何人か外へ出ていき部屋は俺を含めた三人になった。聞き逃さなかったが当然のように自分の名前を知っていた。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
「立ってないでここ座って」
座ってはいけない、だけど俺は肩を持たれ無理やり座らされた。男も隣に座る。
「あの…」
「わかってる、ブレスレットやろ?」
「はぃ…」
「ほんなら俺の話聞いてな」
「わかりました」
「このままやとまずいから俺のとここんか?」
「?」
「まだ、知らんのか?」
「?」
「おかん飛んだの」
俺は何の事かさっぱりわからなかった。
「西原、何も知らんみたいやぞ」
「そうですね」
「お前、おかん借金してたん知らんのか?」
「…はい」
男は俺をじっと見ていた。
「電話かけてみ、繋がらんから」
お母さんの携帯に何度かけても繋がらなかった。
「最後に会ったのいつや」
「一昨日の朝です。朝には仕事に行ったから」
「朝、確認したんか?」
「はい」
「一昨日で何でおかん今日までおらんのや?」
「二泊三日の研修で今日帰ってくるって言ってました」
「ほな、一昨日の朝から飛んだな。説明すると、美日下君のお母さんは闇金で借金してお前を置いて逃げた。今月辺りから返済を渋り始めて先週ついに払わんくなって一昨日最終支払いを滞納したんや。んで、お前のこと観察してたけどおかん現れんかったから来てもらった次第や」
俺は頭が真っ白になった。
「年、いくつや」
「17です」
「若いな、今年で17か?」
「いえ、18になる年です」
「ほな、ええか。未成年は何かと面倒になる時あるからな。悪いようにはせんからとりあえずうちで働け」
「働くって…」
「風俗や」
「嫌です。他で働いて返します」
「一番手っ取り早いんやけど、普通に働いても利子しか返せんぞ?」
どれだけ借金したのだろうか…
「一回家に帰っていいですか?」
「んー帰ってどうすんねん」
「本当にいなくなったか確かめたいです」
「まぁ、そうなるよな。けど、仕事も1ヶ月前に辞めて…なんや、それも知らんかったのか。悪いな、俺らみたいなのから知らされて」
知らなかった。母親は普通に朝でかけて夕方帰ってきていたから。それならどこへ…いや今はそれどころじゃない。俺はこれからどうしたらいいのだろうか。逃げて…
「あんまり悪いこと考えんようにな。闇金から逃げれる思ってる奴結構おるけどよっぽど上手くやらな逃げれんようになってるから。因みに俺は一度も逃がしたことない。本人おらんならその周りから取るのもありやから」
俺に逃げ場はない。それよりも風俗で稼いで返すということの方が俺は恐怖でしかなかった。
「どうしよかな、念のため確認行く?西原」
「どちらでも構いません」
確認して本当にいなくなったのがわかったら…俺はこのまま連行されるのだろうか。とりあえず、確認だけはしたかった。
「すみません、ここで電話していいですか?」
「ええよ」
俺は母親の仕事の連絡を調べ電話をした。男のいう通り1ヶ月ぐらい前に辞めたと言った。ならばお母さんは毎日毎日どこへ行ってたのだろうか…心当たりは一つしかなかった。
「すみません、一ヵ所確認したい場所があるんですけどそこだけ行っていいですか?」
「ええけど…」
「確認だけお願いします」
男ももしかしたらいるかもしれないと思ったのだろうか車をだしてくれた。運転手に俺が案内した。
「適当な所だったらわかってるやろな?」
「適当ってなんですか?」
「お前、斎藤さんにその口の聞き方」
「ええよ、別に。今はグレーやから」
「はい」
男の名前が斎藤だとわかった。
真っ暗だったが目的地の場所で車を停めてもらった。
「……墓地か」
父親の墓地の所にもしかしたらと思って来たがやはり姿は無かった。携帯のライトを照らし周りに血の跡はないかだけ念のため調べた。ここで死んでないだけましかも。俺は墓地の線香辺りを調べて最近来てないか調べていた。一応あったがそこまで最近のものでも無さそうだった。
辺りも静まり返っていた。
「何調べてるんでしょう、暗闇にかこつけて逃げますかね?」
「ないな、もし死ぬならここや思たんやないか?」
「あー…」
「多分いないのはわかってたとは思う、万が一ってやつやけど万が一は所詮万が一やから…いない。17の息子置いてくぐらいや、そこまで本人は頭回らんやろうな」
「事務所帰りますか?」
「一応部屋に戻して確認だけさせてやってくれ。ほんで本人も気が済むと思うから」
「わかりました」
……………………
「てことで佐野美日下君は今日から借金持ちなんやけどバイトとかしてんの?」
「いえ…」
「そうか、なら働かなあかんのやけど…風俗いやなんやろ」
「はい」
「斎藤さん…ダメですよ」
「なんでや」
「また同じことになりますよ。素直に風俗連れてってください。そいつの為ですから」
「わかるけど、」
「ダメです。痛い目見るのはこの子ですよ。佐野行くぞ。お前は今日から風俗で働いて借金返せ。安心しろ、初めから上客つけねぇから」
俺はその人の後に着いて事務所の扉を出ようとした。
これから、どうなるのか不安しかない…
自分でもわかる血の気の引いた冷たい手、俺は不安なまま斎藤の横を通りすぎた時だった。ぎゅっと手首を握られた。
「斎藤さん!」
「加成さんに聞いてからならええか?」
「はぁ~知りませんよ」
斎藤は俺の手を握ったまま電話をかけた。
「すみません、確保したんですけどこいつ俺の好きにしてええですか?はい、そうですね。ほんなら暫く預かります」
電話をきった。
斎藤は俺をぐいっと引っ張って元の場所に戻し笑顔でこう言った。
「俺のや」
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