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一部
二夜
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手首を握られた俺はそれが何を意味してこれからどうなるかわからなかった。ただ、俺よりも暖かい手に掴まれたのだけはわかった。
「てことでお前ら、今日からこれは俺のやから手だすなよ」
皆、微妙な表情をしていた。また、同じような事になるという言葉からどっちに転がっても良くないことだけはわかった。犬にでもされるのかはたまた捨て駒にされ警察のお世話になるのか。どちらにせよ俺は多分意見や感情を捨てなければならない生活が始まる。
「じゃあ、今日は帰ってええから」
「え、いいんですか?」
「部屋に帰るぐらいなら。監視はついてるから、これ俺の番号やから登録して。それから電話は絶対でてな」
「はい」
「ほな、おやすみ」
「おやすみ…なさい」
事務所から出ていい許可が降りた。斎藤のいう通りアパートに結局お母さんは帰ってこなかった。次の日、電話で目が覚めた。
今から事務所に来いという電話だった。支度をして俺は場違いなこの事務所にまた顔を出した。着いたら斎藤はいなかった。
「おい、ついてこい」
俺は男についていくと事務所の廊下から階段、道路へ繋がる道を掃除させられた。綺麗に隅々までしろと言われたのでできる限りした。何人か俺を見ては通りすぎた。中にはゴミをポイ捨てして入っていく者もいたが気にしてられなかった。
「ん、新人?」
階段を上がって来ていたので俺はすぐ道を開けて通した。
「こんにちは」
「こんにちはって…こんな子うち入れるんだ」
俺の事を言っているのだろうけど反応せずにすぐまた掃除に励んだ。
「番号教えて。お前いつから入った?」
「あー…えっと。昨日からで俺は何て言うか…掃除があるんですみません」
別にヤクザになったわけでもないので仲間かと言われると困るし番号を交換していいとも言われてない。サボりだと思われるのも嫌だ。
「いいから、携帯あるだろ?新人なら俺の下に付けて欲しいな。まだ誰の下とか決まってない?名前は?年いくつ、かなり若そうだけど」
「俺、ヤクザじゃないんで…」
「ヤクザじゃないんだったら何でここで掃除してんだ?風俗の子?まぁ、いいや。早く番号」
「あ…えっと…」
「教えんでええ」
「さ、いとうさん!?お疲れ様です!」
「…おはようございます」
男の後ろから階段を歩いて来たのは斎藤だった。
「こいつ俺のやから手だすな」
「すみません!!知らなくて!」
男は俺より下がって頭を下げていた。
「美日下、帰ってええから」
「は…ぃ。失礼します」
俺は片付けをして帰った。多分こんな日は滅多に無いだろうと思った。俺のとはどういう意味なんだろうか。わからないままだけど俺の未来を暗示してるんだと思う。
次の日も俺は朝組の人に呼ばれては掃除をして帰った。
「この間さ、事務所の階段上がってたら見たことない奴が掃除してたから俺、新人かと思って声かけたんだよ。そう、そしたら後ろから斎藤さん出てきてマジでビビった。そ、全然。こんな子入って来るんだ~ぐらいしか思わなくて。番号交換しなくて良かったー」
そんな話は事務所で笑い話になっていた。
「斎藤さんいつまであれさせとくんですか?」
「わかってる、もうちょいだけ」
「わかりました。では明日また呼び出します」
裏でそんな会話をされているとは俺は知らず呼ばれては掃除をしていた。そんな俺の挨拶はおはようございますではなく「お疲れ様です」に変わった。通る人、通る人にそう挨拶するようになった。初めに話かてきた男の人は俺を避けるようにしている。
斎藤さん、皆がそう呼ぶあの人はこの事務所で上の方の人らしい。若そうだけどあの人が頭を下げている姿をまだ見たことが無かった。
今日も終わりだと思ったが斎藤さんに残れと言われて残った。
「とりあえず明日で最後、そしたら他のとこ行かせる」
「はい」
「あ、忘れてた。これ返す」
ブレスレットを返してくれた。俺は受けとるとポケットに入れた。何で返してくれたのか、元々この人達にはいらないものだとわかっていたからとっくに捨てられていたと思った。とりあえず返してもらえて良かった。
次の日、掃除をしていると初めて会う人が来た。
「お疲れ様です」
いつものように道を開けて頭を下げたが開けても男は事務所へ入らなかった。
「あーお前か、斎藤に迷惑かけてるのは」
俺は頭を上げその人を見たら明らかに雰囲気の違う人だった。腕を引っ張られ事務所の中へ。反射的に拒否をしてしまうと事務所の床に倒され周りはそれに注目していた。
「斎藤は?」
男が聞くと事務所の中は静まりかえっていた。1拍置いて組の一人がしっかりとした口調で言った。
「まだです!」
「呼んでこい」
「はい!」
数人の組員が走って事務所からいなくなり静まる部屋に俺は恐怖以外無かった。権力を振りかざすというのはこういう感じなんだと思った。男が椅子に座ると舎弟の人が俺が立ち上がるのを押さえ付けた。
「やめろ」
すぐに舎弟が離したが俺は立っていいかわからず床にそのままでいた。
「へー」
男は俺に近づいてきて前でしゃがむと顔を持って左右を動かし顎を上げさせ品定めをするように見ていた。
「ピアスもなし、刺青も無し、まっさらだな。年は」
「17です」
「名前は」
「佐野美日下」
「斎藤の言ってた奴に間違いないな」
肩をポンポンと叩かれそして椅子に座って携帯をいじっていた。
「今日は別の仕事できたから待たせてもらう」
俺はゆっくり立ち上がり端へとずれた。何をどうしていいかもわからず立っているしかなかった。扉が勢いよく開いた。
「加成さん、来てたんですか!」
斎藤が入ってすぐ頭を下げた後から男達がどかどかと入ってきた。
「取り込み中か」
「はい…急用ですか?」
「まぁ、さほどでもないが。下が何人かバックレた。俺も捕まえにいくがお前の方が詳しいだろ?」
「はい、何があったんですか?」
「店の金盗んで何人かの女引き抜いて逃げた。俺らの島以外のところで商売始める気で前から計画してやったらしいけど」
「まだ、女に借金ありますよね?」
「ああ」
「わかりました、すぐ何人か手配します」
電話をかけ始めた。
「おい」
と声をかけられた舎弟は斎藤が電話をしている間に俺の携帯と財布は取りあげた。まじまじと見ると携帯で写真を撮り気が済むと机に財布を投げ捨てた。
「暇だな」
そういうと俺にまた近づいてきた。俺は目を伏せ顔を横にした。この人の目はあまり見ていたくなかった。
「っ…」
顔を無理やり向けさせられその時にブレスレットに気がつき俺の腕をあげた。
「……。」
何をするかと思ったらそのブレスレットを食べようとしたので俺の手に力が入り気がついたら怖くて必死で拒んでいた。だが俺のそんな力は非力でブレスレットごと手首を噛まれ、歯が食い込んで痛かったが逆らえなかった。
「いっ…」
「あ、ちょっと何してるんですか!」
「なんだ、ダメだったか?」
「ちょ、いいから探せ、なんでもいい!見つけたらすぐ俺に連絡しろ。加成さん、後で連絡が来ます」
「どれくらいだ」
「30分以内には」
「わかった、待つか。俺も疲れた。古くさい面倒な奴らがうるさくて」
「加成さん、そんなこと言うてええんですか?」
「内緒な。30分暇だしこいついいか?」
「……。ええですけど、事務所でするんですか?」
「どこでもいい」
「ほんなら奥の部屋で」
俺は手首を掴まれたまま奥へと連れてかれると仮眠室らしき場所に入れられた。何となくされることはわかった。
「とりあえず声は出すな」
俺はそう言われ頷いた。
「よし、それでいい」
服を脱げと言われ上を脱いだ。馬乗りのような体制になった時だった。体重がかかり怖さと緊張で過呼吸になりそうだった。そんな俺を加成はじっと見て動かなかった。
「はぁはぁ…」
「おい、斎藤!斎藤!」
「はい!何ですか?」
「お前やれ」
意外な提案だった。部屋に入って来ると交代で馬乗りを変わりにベッドに上がった。
「ええですけど、電話かかってきたらとりますよ?」
「気にするな」
ベルトを緩めてズボンを下げた。
「あーそうだ、ナイフあるか?」
「んーどんなんですか?引き出しに適当なのあります」
加成が見つけ出すと寝ている美日下の腕をとりブレスレットの間にグサッと刺した。
「お前が暴れたらブレスレットは切れるから気をつけろ」
頷いた美日下は大人しかった。動揺しないようにしていたが心臓が恐怖で早くなっていた。
「口でええですか?」
「何でもいい、早くしろ」
斎藤は馬乗りになり顔の前まで上がった。
「咥えろ」
「うっ」
「下手でもいいから、早くしろ」
鼻を摘ままれると息をできなくなり俺は斎藤のを咥えるしかなかった。
「噛むなよ」
どうしていいかわからず口を開けるしかできない。ただ、出入りするのを唾液が口から流れるのと同じく待つしかなかった。
「下手クソ…」
頭を持たれ喉奥までひたすら出し入れされる。苦しさに足をバタつかせたが意味はなかった。
何分かたったときだった。
「出すぞ…いいか、」
軽く頷いた。喉奥に当たると喉に液体が飛び散ったのがわかった。飲むしかなくそのままごくごくと飲んだ。生ぬるい気持ち悪い触感に吐きそうになる。やっとの思いで離してくれた口は開きすぎて疲れていた。
「はぁはぁ…ごほっ」
苦しさにいつの間にか涙がでていた。横を向き咳き込むと初めは意識していた手首は忘れさられブレスレットもちぎれていた。
「斎藤、斎藤電話」
「あ、はい。……何分かかってんねん!他も早よ探せ!!今から加成さんと行くから、それまでに連絡よこせ」
斎藤は耳で携帯を挟みながら話すとズボンを上げてベルトをしてシャツを入れ整えた。
「一人見つかりました」
「行くか、お前にしては遅かったな」
「どっちの話ですか?」
「ははは」
「美日下、後で連絡する」
斎藤の言葉に返事などできる気分じゃなかった。二人が部屋をでていき一人になった美日下はちぎれたブレスレットを握り事務所から出ていった。
酷い顔に違いない。駅のトイレで顔を洗い口をゆすいだ。人の目なんてどうでも良かった。わかってたけど俺はわかって無かった。でもこれでわかった。ヤクザとはそう言う生き物なんだと。これが当たり前で通るからヤクザなんだと。気持ちを殺すなんてできると思ってた。感情なんて捨てれると思ってた。けど、俺は今酷く傷ついている。
この先もっと酷い事が待ち受けているのかと思うと部屋に帰りたくなかった。どうしたらこの気持ちがなくなるのだろうとずっと考えていた。普段なら街に人が溢れているのが鬱陶しと思っていたけど今はなぜかその騒音が気休めになってる事に気がついた。
車の後部座席に乗り込んだ加成は助手席にいる斎藤に話し掛けた。
「斎藤、お前近くにいただろ」
「いつですか?」
「まぁいい」
「てことでお前ら、今日からこれは俺のやから手だすなよ」
皆、微妙な表情をしていた。また、同じような事になるという言葉からどっちに転がっても良くないことだけはわかった。犬にでもされるのかはたまた捨て駒にされ警察のお世話になるのか。どちらにせよ俺は多分意見や感情を捨てなければならない生活が始まる。
「じゃあ、今日は帰ってええから」
「え、いいんですか?」
「部屋に帰るぐらいなら。監視はついてるから、これ俺の番号やから登録して。それから電話は絶対でてな」
「はい」
「ほな、おやすみ」
「おやすみ…なさい」
事務所から出ていい許可が降りた。斎藤のいう通りアパートに結局お母さんは帰ってこなかった。次の日、電話で目が覚めた。
今から事務所に来いという電話だった。支度をして俺は場違いなこの事務所にまた顔を出した。着いたら斎藤はいなかった。
「おい、ついてこい」
俺は男についていくと事務所の廊下から階段、道路へ繋がる道を掃除させられた。綺麗に隅々までしろと言われたのでできる限りした。何人か俺を見ては通りすぎた。中にはゴミをポイ捨てして入っていく者もいたが気にしてられなかった。
「ん、新人?」
階段を上がって来ていたので俺はすぐ道を開けて通した。
「こんにちは」
「こんにちはって…こんな子うち入れるんだ」
俺の事を言っているのだろうけど反応せずにすぐまた掃除に励んだ。
「番号教えて。お前いつから入った?」
「あー…えっと。昨日からで俺は何て言うか…掃除があるんですみません」
別にヤクザになったわけでもないので仲間かと言われると困るし番号を交換していいとも言われてない。サボりだと思われるのも嫌だ。
「いいから、携帯あるだろ?新人なら俺の下に付けて欲しいな。まだ誰の下とか決まってない?名前は?年いくつ、かなり若そうだけど」
「俺、ヤクザじゃないんで…」
「ヤクザじゃないんだったら何でここで掃除してんだ?風俗の子?まぁ、いいや。早く番号」
「あ…えっと…」
「教えんでええ」
「さ、いとうさん!?お疲れ様です!」
「…おはようございます」
男の後ろから階段を歩いて来たのは斎藤だった。
「こいつ俺のやから手だすな」
「すみません!!知らなくて!」
男は俺より下がって頭を下げていた。
「美日下、帰ってええから」
「は…ぃ。失礼します」
俺は片付けをして帰った。多分こんな日は滅多に無いだろうと思った。俺のとはどういう意味なんだろうか。わからないままだけど俺の未来を暗示してるんだと思う。
次の日も俺は朝組の人に呼ばれては掃除をして帰った。
「この間さ、事務所の階段上がってたら見たことない奴が掃除してたから俺、新人かと思って声かけたんだよ。そう、そしたら後ろから斎藤さん出てきてマジでビビった。そ、全然。こんな子入って来るんだ~ぐらいしか思わなくて。番号交換しなくて良かったー」
そんな話は事務所で笑い話になっていた。
「斎藤さんいつまであれさせとくんですか?」
「わかってる、もうちょいだけ」
「わかりました。では明日また呼び出します」
裏でそんな会話をされているとは俺は知らず呼ばれては掃除をしていた。そんな俺の挨拶はおはようございますではなく「お疲れ様です」に変わった。通る人、通る人にそう挨拶するようになった。初めに話かてきた男の人は俺を避けるようにしている。
斎藤さん、皆がそう呼ぶあの人はこの事務所で上の方の人らしい。若そうだけどあの人が頭を下げている姿をまだ見たことが無かった。
今日も終わりだと思ったが斎藤さんに残れと言われて残った。
「とりあえず明日で最後、そしたら他のとこ行かせる」
「はい」
「あ、忘れてた。これ返す」
ブレスレットを返してくれた。俺は受けとるとポケットに入れた。何で返してくれたのか、元々この人達にはいらないものだとわかっていたからとっくに捨てられていたと思った。とりあえず返してもらえて良かった。
次の日、掃除をしていると初めて会う人が来た。
「お疲れ様です」
いつものように道を開けて頭を下げたが開けても男は事務所へ入らなかった。
「あーお前か、斎藤に迷惑かけてるのは」
俺は頭を上げその人を見たら明らかに雰囲気の違う人だった。腕を引っ張られ事務所の中へ。反射的に拒否をしてしまうと事務所の床に倒され周りはそれに注目していた。
「斎藤は?」
男が聞くと事務所の中は静まりかえっていた。1拍置いて組の一人がしっかりとした口調で言った。
「まだです!」
「呼んでこい」
「はい!」
数人の組員が走って事務所からいなくなり静まる部屋に俺は恐怖以外無かった。権力を振りかざすというのはこういう感じなんだと思った。男が椅子に座ると舎弟の人が俺が立ち上がるのを押さえ付けた。
「やめろ」
すぐに舎弟が離したが俺は立っていいかわからず床にそのままでいた。
「へー」
男は俺に近づいてきて前でしゃがむと顔を持って左右を動かし顎を上げさせ品定めをするように見ていた。
「ピアスもなし、刺青も無し、まっさらだな。年は」
「17です」
「名前は」
「佐野美日下」
「斎藤の言ってた奴に間違いないな」
肩をポンポンと叩かれそして椅子に座って携帯をいじっていた。
「今日は別の仕事できたから待たせてもらう」
俺はゆっくり立ち上がり端へとずれた。何をどうしていいかもわからず立っているしかなかった。扉が勢いよく開いた。
「加成さん、来てたんですか!」
斎藤が入ってすぐ頭を下げた後から男達がどかどかと入ってきた。
「取り込み中か」
「はい…急用ですか?」
「まぁ、さほどでもないが。下が何人かバックレた。俺も捕まえにいくがお前の方が詳しいだろ?」
「はい、何があったんですか?」
「店の金盗んで何人かの女引き抜いて逃げた。俺らの島以外のところで商売始める気で前から計画してやったらしいけど」
「まだ、女に借金ありますよね?」
「ああ」
「わかりました、すぐ何人か手配します」
電話をかけ始めた。
「おい」
と声をかけられた舎弟は斎藤が電話をしている間に俺の携帯と財布は取りあげた。まじまじと見ると携帯で写真を撮り気が済むと机に財布を投げ捨てた。
「暇だな」
そういうと俺にまた近づいてきた。俺は目を伏せ顔を横にした。この人の目はあまり見ていたくなかった。
「っ…」
顔を無理やり向けさせられその時にブレスレットに気がつき俺の腕をあげた。
「……。」
何をするかと思ったらそのブレスレットを食べようとしたので俺の手に力が入り気がついたら怖くて必死で拒んでいた。だが俺のそんな力は非力でブレスレットごと手首を噛まれ、歯が食い込んで痛かったが逆らえなかった。
「いっ…」
「あ、ちょっと何してるんですか!」
「なんだ、ダメだったか?」
「ちょ、いいから探せ、なんでもいい!見つけたらすぐ俺に連絡しろ。加成さん、後で連絡が来ます」
「どれくらいだ」
「30分以内には」
「わかった、待つか。俺も疲れた。古くさい面倒な奴らがうるさくて」
「加成さん、そんなこと言うてええんですか?」
「内緒な。30分暇だしこいついいか?」
「……。ええですけど、事務所でするんですか?」
「どこでもいい」
「ほんなら奥の部屋で」
俺は手首を掴まれたまま奥へと連れてかれると仮眠室らしき場所に入れられた。何となくされることはわかった。
「とりあえず声は出すな」
俺はそう言われ頷いた。
「よし、それでいい」
服を脱げと言われ上を脱いだ。馬乗りのような体制になった時だった。体重がかかり怖さと緊張で過呼吸になりそうだった。そんな俺を加成はじっと見て動かなかった。
「はぁはぁ…」
「おい、斎藤!斎藤!」
「はい!何ですか?」
「お前やれ」
意外な提案だった。部屋に入って来ると交代で馬乗りを変わりにベッドに上がった。
「ええですけど、電話かかってきたらとりますよ?」
「気にするな」
ベルトを緩めてズボンを下げた。
「あーそうだ、ナイフあるか?」
「んーどんなんですか?引き出しに適当なのあります」
加成が見つけ出すと寝ている美日下の腕をとりブレスレットの間にグサッと刺した。
「お前が暴れたらブレスレットは切れるから気をつけろ」
頷いた美日下は大人しかった。動揺しないようにしていたが心臓が恐怖で早くなっていた。
「口でええですか?」
「何でもいい、早くしろ」
斎藤は馬乗りになり顔の前まで上がった。
「咥えろ」
「うっ」
「下手でもいいから、早くしろ」
鼻を摘ままれると息をできなくなり俺は斎藤のを咥えるしかなかった。
「噛むなよ」
どうしていいかわからず口を開けるしかできない。ただ、出入りするのを唾液が口から流れるのと同じく待つしかなかった。
「下手クソ…」
頭を持たれ喉奥までひたすら出し入れされる。苦しさに足をバタつかせたが意味はなかった。
何分かたったときだった。
「出すぞ…いいか、」
軽く頷いた。喉奥に当たると喉に液体が飛び散ったのがわかった。飲むしかなくそのままごくごくと飲んだ。生ぬるい気持ち悪い触感に吐きそうになる。やっとの思いで離してくれた口は開きすぎて疲れていた。
「はぁはぁ…ごほっ」
苦しさにいつの間にか涙がでていた。横を向き咳き込むと初めは意識していた手首は忘れさられブレスレットもちぎれていた。
「斎藤、斎藤電話」
「あ、はい。……何分かかってんねん!他も早よ探せ!!今から加成さんと行くから、それまでに連絡よこせ」
斎藤は耳で携帯を挟みながら話すとズボンを上げてベルトをしてシャツを入れ整えた。
「一人見つかりました」
「行くか、お前にしては遅かったな」
「どっちの話ですか?」
「ははは」
「美日下、後で連絡する」
斎藤の言葉に返事などできる気分じゃなかった。二人が部屋をでていき一人になった美日下はちぎれたブレスレットを握り事務所から出ていった。
酷い顔に違いない。駅のトイレで顔を洗い口をゆすいだ。人の目なんてどうでも良かった。わかってたけど俺はわかって無かった。でもこれでわかった。ヤクザとはそう言う生き物なんだと。これが当たり前で通るからヤクザなんだと。気持ちを殺すなんてできると思ってた。感情なんて捨てれると思ってた。けど、俺は今酷く傷ついている。
この先もっと酷い事が待ち受けているのかと思うと部屋に帰りたくなかった。どうしたらこの気持ちがなくなるのだろうとずっと考えていた。普段なら街に人が溢れているのが鬱陶しと思っていたけど今はなぜかその騒音が気休めになってる事に気がついた。
車の後部座席に乗り込んだ加成は助手席にいる斎藤に話し掛けた。
「斎藤、お前近くにいただろ」
「いつですか?」
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