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野営

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「シイラ、カシュクールが動いたぞ。」

「へぇ、サリュー、どんな感じ?」

 サリューは、樹木の精霊王だけあって、繋がる情報が早かった。

「この私の夜を動けるのはドラゴンしかいない。
 ドラゴンで追って来てるよ」

 ふわりと、降り立った白い鳥は闇の精霊王タラントだった。

「さて、どうするかの?
 ドラゴンを撃ち落とすか?」

 精霊王が三人もここにいるなんて、信じがたかった。
 この世界に来て、精霊がどれ程貴重で人との関りを持ってくれる精霊が少ないかを理解していた。
 
「シイラが門番に渡したのって、何か重要な物だったんだよね?
 それをあのユアが渡さなかったって事?」

「そうだ、ライカ。
 私たちは、ライカに暴言を吐くような輩に力を貸したくは無い。
 だから、逆鱗を渡したのだ。
 その意味をちゃんと理解できていれば、何が逆鱗に触れたのかすぐ分かるようにしておいたが、今頃渡ったと言う事は王宮全体が救世主の魅了魔法で支配を受けているのだろう。
 それにな、救世主などと言う者を認めてはおらん。
 魔力量だけで精霊が力を貸しているわけではないからな。
 それを勘違いしおって、さすがにあの救世主はどうにもならんクズだぞ。」

「う~ん、俺は誰か一人でも分かってくれれば良いって思うタイプなんだよな。
 代わりに怒ってくれて嬉しいけど、あんまり無茶すんな。」

「な、ライカ出来た嫁だ。
 私たちが娶るに相応しいと思わないか?」

 異種族間でもそんな話が出るんだって、俺はかなりぼんやり思ってたんだ。
 だって、あのジョージとクインが毎回、娶るって言うからその言葉の意味自体にも、慣れちゃってたんだよね。

「タラント、ドラゴンは任せた。
 サリューは先に他の奴らに報告しといて。」

 シイラが他の二人の精霊王に色々指示を出していた。
 もしかして、シイラって精霊王の中でも偉いのかな?って首を傾げてしまった。
 
「さぁ、ライカ休もう。
 ドラゴンが夜目が利くとは言っても、タラントが闇を濃くすれば見ることは出来ないからね。
 明日はやっと、枝道に行ける。
 そうしたら、そう易々と追いつけないさ。」

 シイラはそう言うと俺を小脇に抱えて、テントの中へと潜って行った。
 テントは向こうの世界でも使ったことは無かったけど、限られた狭い空間って意外と落ち着くものだと知った。
 体の大きいシイラが横になって、二人並んで寝てもそれほど気にならなかった。
 それに、毛布や寝具はしっかり買って入れて来たから、テントの中は快適な状態だった。
 これって、アレだ!グランピング!!
 豪華ベッドとかでは無いけど、ふかふかな毛布を敷いてその上に厚手の綿布団でぬくぬくだった。

「ね、シイラ
 俺、親がいないからこうやって、心配されたり大事にされるの、なんか照れ臭いけど凄く嬉しいんだ。
 だから、一緒に来てくれてありがとうね。
 利害の一致だったのかもしれないけど、俺は凄く感謝してるんだ。
 最初にシイラが友達になってくれて、こうやってると嬉しくて楽しくて…
 だから、困ったことがあったら俺に言って。
 俺が出来る事なら、何でもしてあげるから」

 シイラが布団の中から手を握って来た。
 精霊だからなのかちょっと体温は低くて、それが少しだけ火照った体に気持ち良かった。

「ライカ、本気で考えてくれ。
 私たちに娶られることを」

 俺を本気で守ってくれようとしてるシイラ達に、絆されちゃってたんだ。
 本当は最初から、シイラを嫌いじゃなかった。
 風呂の中で、裸を見られて恥ずかしい気持ちとそれだけじゃない欲情を知った。
 
「うん、いいよ」

 すんなり返事が出た。
 
「え?いいのか?」

「ふふ、何でよ、言ったの自分なのに」

「そうだが、精霊王たち全員に娶られるのだぞ?」

「全員って何十人もいるわけじゃないでしょ?
 それにタラントやサリューの事、好きだし」

 そう言うとちょっと不機嫌そうな顔をした。

「私には好きって言ってくれないのか?」

「シイラ、大好きだよ」

 仮の約束だと言って、俺の唇に口づけをした。

「ライカがライカである以上、私は絶対に離れない」

「うん、俺も約束するよ」

 そう決めたら、シイラとしっかり口づけをした。
 俺はこんな事自体初めてで、何も分かっていなかった。
 口の中に誰かの舌が入って来て、ぬめぬめとした感触の物が這いずり回り、俺の舌を絡めとって行くなんて初めての経験だった。
 漫画の処女みたいに、どこで息継ぎすればいいか分からない、なんてぶりっ子な言葉が自分の中にあるとすら思わなかった。
 正確には、鼻息が相手に掛かるのが恥ずかしくて、息を止めたって事だった。

「んー、んー!!!」

 苦しくって苦しくって、シイラの背中をタップして合図をした。

「ライカ、どうした?」

「はぁ、はぁ、苦しくて」

 息継ぎは少し唇をずらしてするんだよって言われても、根本的にその息がシイラに掛かるのが恥ずかしくて息を止めてたんだから、どうにもならなかった。


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