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不穏な気配

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「――案内は以上だ」

 最後にリスベルテスの寝室を紹介したところでルドリエがこちらを振り返った。
 ある程度の間取りを覚える段階で、残念ながら彼から手を差し出されることは一度もなかった。
 実家と比べても部屋数は多く、作りも複雑ではあったが、このぐらいならすぐに慣れるだろう。

「今後なにか困り事があれば君に用意した侍女に申し付けてくれ。私はこれで失礼させてもらう」

 先ほどからずっとそわそわとしているルドリエのことが少し気になった。
 リスベルテスは案内のお礼を述べるついでに、一つ質問してみることにする。

「王太子殿下はこの後どちらに?」
「日課の魔法の鍛錬だ。一人の男として愛する者を守れるよう強くならなくてはいけないのでな、悪いがこれ以上君に時間を割くつもりはない」

 てっきり寵愛しているらしい正妃の元を訪れるかと思いきや、意外な返答だった。
 だが理由はどうであれ、用事があるならお引き止めするわけにはいかないだろう。
 かかとを返して寝室の前から去ろうとしたルドリエだったがふとなにかを思い出したかのように足を止め、

「――そうそう、勘違いをされないように言っておくが、側妃の件に関してはあくまで父上たちが勝手に決めたことで私の意思ではない。我が家の問題に巻き込まれた君には酷な話だが、ワタシニトッテ正妃セイヒダケガタイセツデ、君を愛するつもりはないことだけは前もって伝えておく。ゆえに私に余計な期待はしないでほしい」

 言いたいことだけを口にすると、こちらの返事も待たずに今度こそ立ち去って行った。

 ルドリエの姿が見えなくなってもその場に縫い付けられたかのように硬直するリスベルテス。
 だがこれから彼と行わなければならない子作りに際し、どこにも付け入る隙が見当たらないことに対する落胆からくるものではない。

(今の、ぞわりと体中が総毛立つようなあの感覚は……)

 ほんの一瞬だが、ルドリエから闇属性の気配を感じた。
 それも同じ闇の魔法使いでも扱える者の少ない禁断の魔法。
 心を意図的に操り、魔法をかけた者への絶対的服従心を誘発する魅了チャームと呼ばれる類のもの。

(本人はもちろん気づいておられないようですが間違いありませんね、わたくしには分かります。だってその魔法――使

 もしかすると事態は自分たちが思っていたよりずっと深刻かもしれない。
 最初の内は様子を見るつもりだったが、これは早急に対処しなくては。

(いささか当初の予定とは異なりますが、この程度は問題ありません。今優先すべきは蝕まれた殿下の心をお救いすること。そしてそのあとは――)

 人知れず陰謀の匂いを感じ取ったリスベルテスはすぐさま行動を開始した。
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