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「このごに及んで命乞いとは情けないねぇ。潔く散る王族としてのプライドすらないのかい。まあこのまま確かに放置してやってもいいんだけど、苦しんで死ぬのも嫌だろ? 第一、それで終わりじゃあたしがスカッとしない。……そら暴れるなって、手元が狂ったら面倒じゃないか」

 狙うのはルブランテの心臓。
 とどめは毒ではなく、自身の手で刺すと決めていた。
 そうやって傲慢で浅慮な王太子にざまぁみろと死の報いを突きつけてやるのだ。かつて理不尽に命を奪われた自分の家族の分まで。
 故に一切の躊躇も逡巡もなくロゼッタは馴れた様子で対象の体を蹴り起こし、一息にあっさりと抵抗なきルブランテの体にナイフを突き立てた。

「……っ! ……カ、……ル」

 閉じかけていた目をカッと見開き、苦悶の表情を一瞬浮かべてピクピクと痙攣するルブランテ。
 並行して口からブクブクと血の泡を吹き出し、やがて動かなくなった。
 今際の際にかろうじて彼が声に出した者の名前は果たしてカムシールのものだったのか、もはや永遠に知ることはできない。
 だがロゼッタにとってまったく興味のないことでもあった。

「さようなら、ルブランテ。楽勝だったけど最低で最悪なターゲットだったわ」

 なにせ復讐達成さえできれば、それでよかったのだから。

「これで本当にアンタは自由だよ、カムシール。あたしのともどもあとはもう好きにすればいいさ」

 ふと誰ともなく一人つぶやき、ロゼッタは一つ笑みを浮かべた。
 潜入を開始してからそれなりに日が経ったが、実際に面と向かって会話をしたのは今日が初めての公爵家のご令嬢。
 噂通り聡明で理知的で、そして――思っていたよりも

 すべてを理解しておきながら、それでも自分の行動を見過ごすことを選択するとは流石に思いもしなかった。
 が、それだけあの男ルブランテに嫌気が差していたというなら納得もいく。

「……さ、逃げる前に最後の仕上げをしないと。この国にきてからというものずいぶんと演技力は磨かれた気がするけども、さすがに泣きの演技はまだまだ発展途上といったところなんだよ。まあそこは状態込みでなんとかするとして、よし」

 今しがた王太子の暗殺を完遂したとは思えないほど落ち着いた様子で、ロゼッタは自身の衣服に手をかける。
 そこからなにをするかと思えば、次の瞬間衣服を勢いよく引き裂き――。
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