姪っコンプレックス

 三十路を目前に控えた橘宏斗は、姉夫婦の急逝で十五歳の姪を引き取ることになった。

 水嶋千紗。宏斗の姉、奈緒美の娘である。

 宏斗は、千紗に対して叔父であるよりも遥かに大きな想いを抱いていた。
 彼は十六歳の時のバイク事故で生死の境をさまよい、記憶喪失とリハビリで二年近い入院生活を余儀なくされてしまう。

 事故直後の集中治療室のベッドに横たわる彼が目を開けて最初に見たものは、彼の頬に小さな右手で触れている赤ん坊の千紗だった。
 記憶の欠片を初めて取り戻したのは事故から一年以上もたったある日。姉が千紗を抱いてあやしている姿が、不意に事故前の情景と重なった時だった。

 千紗は事故の前後を通して暗闇に沈んでいた彼の光明。無くてはならない存在にその瞬間になった。
 心に決するものを秘して千紗を引き取った三十路前男の激変の日常が今始まった。
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