【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~帰路~

子牛

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「… … …」

結局、それから私は何一つ、拓海の言葉に反論することができなかった。

拓海は直ぐに進路を変え…
タクシーに向かって、颯爽と手を挙げる…。

「タクシーって高えし、あんま好きじゃねえけど…今日はでかい荷物、あるしな…」

独り言のようにそう言って、「ほら…葉月、乗れよ…」と、促される。

「ん… …」気が進まない…だけどもはや、乗らざるをえない…

今…私にはどこにも、行き場がない…逃げ場なんてない…。

静かに乗り込むと、タクシーは静かに私をマンションの方向へ運んでいく…。
後ろにどんどん走り去っていく夜景を見つめながら、私の頭の中にふとよぎる、一つの風景…

なんだっけ…

鹿… 牛…  なんだっけ…

そうだ… 子牛が馬車か何かに乗せられて、どこかへ連れて行かれるあの歌…

… … ドナドナドーナー、ドーナー…  

子牛を乗ーせーてー … 
ドナドナドーナードーナー…荷馬車が揺ーれーる…

頭の中に…  
昔聞いたことのある異国の、そんな歌が、静かに流れ始める…。

まるで、あの歌だ…
あの歌詞のように…私はなすすべもなく、拓海に、連れて行かれている…
行き先は私のマンション… 

自分の責任だ…。

拓海にホテルに行こうと誘われ、咄嗟に拒否をして…
ある意味、考えなしに…本当に、突発的に…拓海に別れを伝えてしまった自分の責任…。

拓海の立場なら当然だ…。
遠路はるばる恋人に会いに来て…いきなり、別れようと言われ…そして、家にはもう来ないで欲しい…

そんなことを言われて、納得できるはずがない…。

「… … … 」拓海は無言で目を閉じたまま…腕を組んで、押し黙っている…。

私は想像する…。

部屋に入れば…こんなことを言いだした私に対して、
拓海は烈火のごとく、怒り出すだろうか…

それとも…何とか気持ちを抑えながら…何事もなかったかのようにふるまうだろうか…

もしくは…無言で…意外にもそのまま…内心、怒ったまま…直接私には何も言わずに、眠るかもしれない…

この長い付き合いの中で…一度も口にしなかった、別れという決定的な言葉を拓海に伝えてしまった…

だからこそ、わからない…
この後、拓海がどうでるか…拓海の行動が、全然予測できない…

とにかく、これ以上拓海を刺激しないように気を付けねば…

そう、思っていたのに…
あんなことになるなんて… 思ってもいなかった…。

やっぱり、全力で家に上げるのを拒否するべきだったのだ… 

そう思うほどに、拓海は… 

部屋に上がってから、少しして… 

   私の知る拓海では、なくなった…。
















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