【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～就寝～

空

「ん、はあ　…　　や、やめて…　拓海っ…　　何っ　…」

強引なキスに息苦しさを覚え…私は両手で必死に拓海の身体を押しのけ、顔を引き剥がした…。
その反動で、拓海の指も私のそこから引き抜かれ…

ほうと、息をつく…。

「はあ…　は、…　拓海…　？　」私は恐る恐る拓海を見つめる…。

その目に、光がない…

目の前にいる私を見ていない…。
ぼうっと…遠くを見つめているような拓海の視線に、ぞくりと寒気がした…。

　　今…　　

　　　　なんて…　？

私は　…　　今、拓海に何を…　聞かされた…　？

拓海はなんと、口走ったのか…　

あり得ない…　
きっと、何かの間違いだ…　

私の聞き間違い…　…　そう…きっとそう…　

「…葉月…な…？　いいだろ…　今までおまえが嫌だって…絶対やめてって言うからさ…俺、ちゃんと我慢してたろ…ちゃんと、毎回つけてたし…　」

やはり…そういう、ことを…

　　　　そういう意味で言ったのか…　

私は拓海の発言に驚きつつも…なんとか、震える声で、言葉を発した…。

「…　た…　たく、み…　…　？」

「なあ…　いいだろう…？考えてみればさ…俺たち付き合ってもう何年だ…？恋人同士なんだしいいじゃん、たまにはつけなくたってさ…俺、生ナマでしてみたい…葉月をそのまんま味わいたい…少しはわかんねえ…？男の気持ち…」

生…　　

なまで、してみたい…　　
私をそのまま…味わいたい…　　

拓海が今…　こんな状況で…そんな発言をすることに、心から憤りを覚える…。

頭の中に…ガンガンと騒音がし始めるような感覚…

「拓海、聞いて…　だから、さっき…言ったよね…　」

「…　…　…」突如、黙り込む拓海を前に、私は言葉を続ける…。

「さっきから何度も、言ってる……　わ…　私、拓海とはもう…」

やっぱり声が…
震えてしまうのを止められない…。
今この瞬間…もしも仮に、私が対応を間違えば…
そんなことはないと信じたいが…　拓海を逆上させて…危険な状況に陥ってしまう気がして、ならない…。

「…何をだよ…勝手なこと、言ってんな…　おまえのそれは一時の気の迷いだよ…　…」

低い声で、きっぱりと呟く拓海…

なんで…わかってくれないのだろう…
全然、わかろうとしてくれない…

拓海がいつもと違う…。

どこか、おかしい…　　

その眼に…いつもの光がないように見える…

私を見ていない…
拓海の視線の先に、私がもはや、いないかのような錯覚を覚えるほどに…

拓海は、目の前にいる私ではなく…　ひたすら空くうを見つめていた…　。