【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～拓海～

友達の定義

「　…　時間がないから…　手短に聞くけど…　」

智花が、突如早口になった。

小声で…ここぞとばかりに口を開いた。

「…　さっきの話…　瑠衣ちゃんの話って…　あの、　フレンドって…　」

「あ…　…　…　」

いきなりそれか…　そこが、やっぱり聞きたいところか…　
まあ、仕方ないか…　

瑠衣はトイレに立った…

腹が痛いとは言っていたものの、すぐに戻るかもしれない…　
瑠衣があんな風に、俺との関係をぼかして説明した以上、今しか、ないのだ…
　
「フレンドって、言ったけど…　それって…、やっぱり違う…　単なる友達…では、ないですよね…？」

「あ…　あの…　…　」

単なる友達…？

瑠衣と俺は友達…アパートの隣人でもあり…確かに友達だ…　
瑠衣は、ものすごく話しやすい…　
男みたいにざっくばらんになんでも話せる…
俺にとって、気遣いが不要な…　なんていうか、男みたいな…そんな…友達…だけど…

「る…瑠衣は…」　友達です…　そう、言うべきなのはわかってる…。

でも…やっぱり…この状況で…瑠衣のあの態度で…
俺と瑠衣が、単なる友達だなんて俺がここで真面目に説明したとして、智花は信じるだろうか…。

瑠衣は…

瑠衣が、随分前に口にした言葉を…　借りるなら…　セックスフレンド…

だが、今この場で…
実は、俺と瑠衣はセックスフレンドなんですよ～だなんて、笑って答えることなんてできやしない。
ああ…　マジで、なんでこんな状況に…
本当のことを言えば、智花はどんな反応をするだろうか…

驚き…　そして、軽蔑…？　葉月がいるのになんて軽い男なんだとドン引きするかもしれない…。

だが…　ここで俺が適当に誤魔化したところで、きっと智花は、俺の家から去った後に、瑠衣に聞くだろう…。

本当に、ただの隣人か…　本当にただの、友達なのかと…追及するのではないか…

大半の女は…きっと、そんなもんだ…。

葉月にはそういう友達はいなさそうで安心しているが…　
俺の友人の彼女は…

彼氏の…男のセックスが上手いとか下手とか…そんな話ですら、女同士で恥ずかしげもなくするらしい…。
友人が離席中にそんなことを女同士で話しているのを偶然聞いてしまったらしくドン引きしたらしい…。
後で、かなり激しい喧嘩になったと聞いた…。

俺からしてもドン引きだ…。

俺も…恐らく葉月も…
互いのセックスのことは、他の奴らには…間違っても、同性には話さない…話すわけがない…。
そんな話をすること自体、あり得ない…
他の男に、葉月とのセックスの話…　そもそも、葉月の裸すら、想像させたくない…。

「…　拓海さん…　できれば答えて欲しい…　瑠衣ちゃんとあなたって…本当にただの友達…？　」

もう、無駄だ…　
どうせ、瑠衣が本当のことをばらしてしまうに違いない…。

もう、考えるのも面倒くさい…。
なるようになれ…　俺は、遂にそんなあきらめの境地で、口を開いた。

「いえ、違います…俺と瑠衣は…友達ではありますが…その…身体の関係が…あり、ます…最初は、酔って…その…　」

友達ではあるが、互いの欲望にまかせ、身体を重ねた…　　

友達の定義とは、なんだろう…　いや、瑠衣は…俺にとって、もはや友達とは呼べないのだろうか…
だからこそ、セックス…フレンド…？

思えば、とても曖昧な…

恋人同士ではない男女の…身体の関係性を正当化させるかのような、言葉だ…
ずるい、キーワード…　
こんな男女が溢れているからこそ…こんな、あまりにも都合のよい言葉が、あるのかもしれない…。

「…　そう…　　そう、なのね…　やっぱり、そっか…　」
智花がふうと、ため息をつく…。

葉月という恋人がいながら、他の女と寝る…　その行為に対する軽蔑の念か…　
…そう思われても仕方ない。

「は…　はい、…　その、すみません…　」

思わず、謝罪の言葉を口にした…。

これは、なんの…誰に対する謝罪なのだろう…　葉月か…　瑠衣にか…　それとも、智花にか…？

俺は静かに、テーブルの上の珈琲カップに手を伸ばした。