【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～杉崎～

イエスかノー

「理由は、…　その…　」

「…　ストーーップ！！　」いきなり、少し大きめの声を出す智花に、俺は肩を震わせた。

「　…　え　…？　」

「ごめんごめん！！やっぱ怖いっ！！…やっぱり、いい！そんなところから、選ばなくていいっ…」
智花はそう言いながら両手を左右に物凄いスピードで振って、もういいというポーズを取る。

「…　…智花　…？」

「でも…これだけは聞かせて…本当に、一つだけ…」

「…　ん…　？」

今となっては…その、一つだけというのが、よほど怖い…　

たった今智花に提示された、三つの選択肢を凌駕するほどの威力を持った質問なのではないかと、邪推してしまう…。

「何…　かな…」

「イエスか、ノーでいいから…」

「…　ん…　イエスか、ノーで…答えられるものであれば…」

冷静なふりをして、何とかそう答えるが、胸の鼓動はなお、早いままだ…。

３つの選択肢の後は、イエスかノーか…　

理由を選べと言ったり、選ばなくていいと言ったり…いつも大人な対応をする智花には珍しい反応だ…
やはり、気丈に見せかけて…智花も、少し動揺しているのだろうとわかった。

その、イエスかノーの質問が…一体何なのか…

俺は智花の方を真っ直ぐに見つめて、智花の言葉を待った…。

「じゃ、言うわね…。イエスかノーで答えよ…。」

「ん…」智花が厳かな表情で俺を見る…。俺は、身構える…。

「修哉さんには、気になる人がいて…ううん、もう完全に心を奪われた人がいて…その人と既に…両想いである」

「…　…　…」

一つと言いながらも…　実はその中に、2つの項目が入っていることに気付いたものの…何も言えるわけがない…。

思わず、正面に座る智花を見つめる…。

真っ直ぐ過ぎる視線が俺の顔に突き刺さるようだ…。
もはや、目を逸らせない…。

こんな…ある意味、具体的な内容の質問を智花がしてきたことで…わかってしまった。

ここまで言うからには、間違いなく…智花は、予想しているのだろう。

俺が、仕事に集中したいなどといった決して個人的な理由ではなく…
誰かに心を奪われているからこそ、智花と付き合えないと、言っていると…。

「…具体的に誰とは、聞かない。さっきみたいに、身体の関係も聞かない…むしろ、聞きたくない…。だけど、代わりに…この質問にだけは答えて欲しい…それだけで、いいから…」

智花の視線に、光が宿った…。

逃がさない…他のは譲歩してあげる…だけど、この質問からは絶対に逃さない…。

智花の鋭い眼光から…まるで、智花の強い意志が溢れ出しているようで…怖いとさえ思った。

もはや、逃げることはできない…。
智花は、きっと最大限の、譲歩をしてくれているのだ…。

答えて…

相手が、誰かと…仮に、水無月さんだと智花に推測されようとも…
この質問にだけは、答えなければならない…せめてもの、智花への最後の、誠意として…

　　　絶対に、答えるべきだ…

そうでないと、きっと…お互いに、後悔が残る…

俺自身、そう…確信した。

「わかった…。イエスかノーかで、答えるよ…。」

俺は、真っすぐに智花を見返した…。