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精霊の章

169話

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【シャシャシャゲェェェェイ!!】

 雄たけびを上げながら、巨大単眼牛鬼「ビッグアイスパイダー」、省略して「ビアス」と言う怪物はルースたちへ向け、まずはその鎌のような鋭い足を振り下ろしてきた。


ズッパパァァァアン!!
「衝撃で床が切れたか‥‥‥」

 交わしたのはいいが、その足が突き刺さった場所から一直線に切れて言っている光景は、その足がどれだけの威力を持っているのかを示していた。

‥‥‥とはいえ、以前出くわした怪物に比べると、しゃべることができるほどの知性は無さそうだ。


 いや、できたのかもしれないが…‥‥知性の分をすべて力の方に振った感じとも言えるだろう。


『ふーはっはっはっはっは!!まずはこのビアスの攻撃力にビビったか!!まともに受ければ体があっちとこっちにお別れするし、かと言って避けるのもそのうち辛くなってくるだろう!!』


 大声で響く新幹部というボルスターとやらの声がうるさいが、今は無視をしておくべきであろう。


 
 ぎょろぎょろっと大きな目玉を動かし、ルースたちを見ながら足を振り下ろしてくビアス。

 巨大単眼蜘蛛‥‥‥とはいえ、単にその目玉を潰して戦闘力を剥ぐという行為はやりづらそうだ。

 大抵蜘蛛には8つの目があると聞くし、あの巨大な単眼ももしかしたら単に肥大化、いや、発達した目玉の一つと言うだけで、他にも見えないほどのサイズで目があるかもしれないからだ。


 それに、蜘蛛と言えばこの手の鎌よりも…‥‥


【ビュシュワァァァァ!!】

 叫びながらビアスが何か液体を口から吐き出してきた。


 避けたところにその液体がかかり…‥‥ジュウウウウウウっという音を立てながら、溶かしていく。

 溶解液、もしくは毒液と言ったところであろうか。


 そしてその後方の部分からは、ぶしゅううううっと白い塊を飛ばしてきた。


べちゃん! べちゃん!!

【なんじゃこのべちゃべちゃした物体は!?】
「恐らくだけど、蜘蛛の糸・・・・・の、成り損ないかな?」


 蜘蛛と言えば蜘蛛の巣が普通見られる。

 中には巣をつくらない種類もいるそうなのだが、その巣には粘着質な糸が使用されているのだ。



 その糸の出来損ないのようなものを粘着弾として創り上げ、砲撃してきたのだろう。

 その粘着質はどれだけのものかはわからないが、目的はおそらくルースたちの行動をそれで制限し、攻撃を当てやすくするためであろう。


 何にせよ、このままべちゃべちゃと粘着弾を放たれ、床を溶かされていけば、ルースたちの行動範囲が狭くなる。

 タキたちと共にかく乱しようと他方から攻めてみるが‥‥‥


【ちぃっ!意外に表面が固いのじゃ!】
【シャベルじゃ歯が立たナい……】

 爪や光線、鈍器などで攻撃されているのに、ぴんぴんしているビアス。

 蜘蛛と言えばその腹は柔らかいものだと思っていたが、この怪物は全身が鉄の鎧のようにガッチガチに硬くなっているのであろう。

「魔法攻撃も効果はいま一つか」


 複合魔法で、蜘蛛相手には有効そうな炎や氷と言った攻撃もやってみたが、効果はほとんどない。

 高熱と冷却の繰り返しによる弱体化も狙ってみたが、生憎その対策もされているようだ。


【ビヤシヤァァァァア!!】

 もはや向かうところ敵なしと言いたいのか、あちこちへ腕を振り回し、溶解液を飛ばし、粘着弾を乱発するビアス。

 今はまだかわせるが、このままではルースたちの体力が尽きてやられてしまう。



「ちっ、なかなか厄介な状況か」
『ふーはっはっはっはっはっは!!さぁ、諦めてビアスに殺されるか、もしくは腹に収められて糧となるか、その選択をするがいいぞ!!命乞いをしても、お前らはこの組織の敵であるから効かないもんねーーー!!ふーはっはっは「ごりっつ」べぐわぁ!?あ、あごぎゃばずれだぁぁぁ!!』


……高笑いする声がうるさかったが、顎が外れたようだ。そりゃ、それだけ大声で笑っていれば外れるだろうな。


 とにもかくにも、このままでは打つ手が無い。

 有効打もないし、粘着弾などのせいで床がだんだん無くなってきて、かわすのにも辛くなってくる。



 今ある戦力の状態を見て、ルースは考えを巡らせる。

 ルース自身は複合魔法及び精霊の力、タキとヴィーラは光線や爪、シャベルなど物理的・非物理的攻撃が可能。ミュルは金棒をぶん回して直撃させたり、大地を割って岩を当てたりと物理的攻撃。

 だが、このどれどもが致命的な一撃を当てられていないことから考えると、個人個人の攻撃ではほぼ無意味に近いのだろう。

 敵の怪物、ビアスとやらは鎌のような前足の斬撃、粘着弾、溶解液もしくは毒液と言う物で、このどれもがまともに受ければ致命傷になりかねない。

 まぁ、粘着弾は動きを封じられてしまうので正確に言えばそこまでのものでもないが‥‥‥



 とにもかくにも、全く打つ手が無い。
 
 相手の防御力が高すぎて、攻撃が通用しない…‥‥ん?

「待てよ?外部からの攻撃に対してなら強いのなら……内部はどうだ?」

 ふと、ルースはある案を思いついた。


 昔話の一寸法師のように、相手の体内に入りこんで攻撃すればどうだろうか。

 だが、その攻撃をするには相手に食われる必要性があり‥‥‥そもそもあのビアスとか言う怪物には口はあれども、どうみても飛び込んだ瞬間に粉々にかみ砕かれる未来しかない。

 精霊状態になれば実体をほぼ無くせるが、その対策をしていないとも限らない。


……いや、そもそもの話、喰われてしまうのではなく、喰わせてしまえばいいのではないだろうか?


「そうだ!!」

 ピカッと閃き、ルースは魔導書グリモワールを構え直し、ビアスの口の位置を狙う。

 わざわざ自分が潜りこまずとも、相手の体内を攻撃する手段はあったのだ。


「ベースは水で良いとして‥‥‥火と電気、あとは闇かな」

 複合させる属性を頭の中で素早く考え、ルースはその魔法を発動させる。


「行ってこい!『ドッペルボンバー』!!」

 魔法を発動させて現れたのは、人型をした液体。

 水人形とか言う魔法があるのだが、その魔法を大元にして作り上げた複合魔法。


「それでどうするのでアルか?」
「こいつをあいつに食わせるんだよ!」

 ミュルからの問いかけに対して、ルースは作り上げた人型液体、ドッペルボンバーを動かす。

 そのままその人形は歩み始め、そして飛んだ。


【ジャゲバァァァン!!】

 口に飛ぶ物体を見て、ばくっと噛みつき咀嚼するビアス。

 普通に固形のものであれば、そこで終わってしまうが…‥‥生憎、その人形のほとんどが液体状であり、ただ単に飲まれたに過ぎない。


 外部からは見えないが、魔法を行使して中で再生させ、ビアスの体内の中心部近くへ移動させる。


「確か蜘蛛とかの蟲の心臓部は…‥‥この辺りか」

 大体の位置を定め、ルースは人形に合図を送る。



 ビアスの体内に入った人形…‥‥ドッペルボンバーはその合図を元に、その真の力を発揮した。

 形成している物は水と毒液だが、中にある電撃が活発に動き始め、内部から電気分解が始まる。

 ボコボコと泡立ち始め、徐々に水素と酸素、それに毒が分解されてガスがたまっていき、膨らみ、体内を圧迫していく。


【ビグワシャ!?】

 己の中で起きた変化に気が付いたのか、ビアスが動きを止める。

 だが、気が付いたときにはもう遅い。



「爆破!」

 その合図とともに、ギリギリまで水に包まれて外の空気に触れなかった炎が人形の中で解放される。

 そこにあるは、水素、酸素、後ついでに爆発しやすいガスがたっぷり詰まっており…‥‥そこに火を加えられたらどうなるのか、もはや目に見なくてもわかることであった。



ドッガァァァァァァァァン!!


 大きな音を立てて、ビアスが体内から爆発し、身体が四散していく。

 いくら外部からの攻撃に強かったとしても、流石に体内までは強くなかったようで、一気に爆発四散したのだ。




…‥‥が、これは別の危険性もはらんでいた。

 ビアスの持つ毒液、溶解液、吹き飛ぶ硬い体の一部、粘着弾の元なども一緒に爆発四散し、飛び散ったのだ。


【のわぁぁぁぁぁ!?】
【ひャぁぁァぁぁぁァ!?】
「かかったらシャレにならないでアルよ!?」
「そこまで考えていないわけではない!!『マッドシールド』!!」

 飛び散るそれらの残骸から身を守るために、いったんルースたちは一塊に集まって、魔法で泥の壁を作って防ぐ。

 土と水の複合による防御魔法だが、こういう時には使い勝手がよく、溶けても砕けても泥を補充すればほぼ大丈夫なのだ。


 そのまま爆発四散した残骸が収まるの待ち、魔法を解除した時には、その場にはあちこちにビアスの残骸が散らばっているだけであった‥‥‥‥。


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