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第15章 隼人と生きる光と影

No,169 閨房での切ない会話

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【これは20代後半のお話】

 事済ませた後──その夜の僕はとっととパジャマを着る気にはなれなかった。
 それは、隼人との逢瀬がとても胸苦しく感じていた頃の事だった。

(この宙ぶらりんな関係……いつまで続くんだろう…)

 僕はくるりと隼人に向き直り、その横顔に頬を寄せた。

「ねえ隼人……僕の事が好き?」

「ええっ?」
 と隼人が向き直った。

「どうしたの理久?それっていつも僕の台詞だよね?……それに、理久が自分の事を僕だなんてなんか変……」

 僕はフッと笑った。
「時と場合によって(俺)と(僕)を使い分けてる自分としては……今は(僕)って心境なんだ」
「そうなの?……なんか怖いな、悪い話し?」

「怖い?やだな、僕の事を好きか?って、ただ聞いただけじゃない……」
「だって、そんなの当たり前だろ?いつも大好きなのは僕の方で、ずっと理久を追っ掛けて来たんじゃないか」

「違うよ……追い掛けていたのはずっと僕。僕はずっと隼人を追い掛けていた。だって立ち止まったら、隼人は僕を置いて彼女のところへ行っちゃうだろ……」
「理久……」

「大好きなのは僕の方だよ。だって隼人の好きは、彼女と半分こしての二分の一だろ?
僕は全部、百パー隼人の事だけ好きなんだよ?どうしてくれるの……この気持ち……」
 僕は隼人の胸に顔を埋うずめた。
 悲しい気持ちに襲われて、僕は禁句にしていた彼女の事を持ち出してしまった。

「理久……」
「隼人は、自分が三つも年上だって自覚してる?」

「あ、それはそうだけど、理久は│頼《たの》もしいし大人っぽいし、ついつい僕は甘えちゃって……」
「そりゃ、初めから僕が高飛車に出ていた。隼人を年上扱いなんてした事ないし、背が高いのをいい事に肩を抱いたり壁ドンしたり、上からキスを奪ったり…」
「……それが理久だと思ってた」
「……だって、甘えたり出来なかったよ?年下らしく可愛い子ぶったって、どうせ彼女には敵かなわない」

「……理久?」
「甘えたり可愛いのは女子の専売特許だろ?僕みたいなでかい男が年下ぶったってうざいだけだし、だったらむしろ男っぽく振る舞って、上からぐいぐい隼人を抑え込もうと思ってた」

「え?……うん……」
「彼女の方に行かないように、力ずくで捕まえていようと思って必死だっだ」

「理久、嬉しい。そんなに僕を思ってくれていたんだね」
「そうじゃなくてね、隼人……。
僕は時々どうしようもなく苦しくなるんだ。僕達は、いつまでこうして一緒に居られるの?
隼人は、僕達の将来をどんな風に考えてるの?」

「理久、僕は理久が大好きだよ?このままずっと一緒に…」
「そうじゃなくて!そんな絵空事じゃなくて!実際に十年後とか、もっと先とか……僕も隼人も年を取る……」

「……だから、出来るだけ長く一緒にいよう?」
「彼女は?僕が聞いているのは彼女の事だ……」

「……それは」
「隼人……僕達、付き合い始めて随分になるよね。僕は、いつまでこんな思いを続けなくちゃいけない……?」


 絶句────


「ごめん、隼人……。たまにはちょっと、年下っぽく駄々をこねてみたかっただけ……。
もう、彼女の話は持ち出さないよ」
 僕は隼人から身体を離し、仰向けに天井を眺めた。

「理久、ごめん…………」
 隼人がぽっりと謝った。

 何をどう言うつもりで謝っているのか聞きたかったけれど、僕はこらえて沈黙を守った。

──静まり返って時計の秒針がうるさいくらいだ。

 このまま別れ話になるならそれでもいいと思って、覚悟を決めて甘えてみた。
 どうするかは隼人が決めればいい。僕は身体を投げ出して、隼人に全てを預けてみたかった。
 隼人が年上らしく、話を希望に向けてまとめてくれないかな?とも期待した。

────でも、やっぱり何も進展はないんだね。
 このままじゃ、二人とも胸がざわついて眠れない。気持ち良く明日を迎えられない。

 (俺)は、隼人に向けて身体を180度回転させた。
 隼人の身体に伸し掛かり、上からその顔をじっと見詰めた。

「理久……本当にごめん……」

 泣いていた。
 隼人はその瞳を涙で潤ませていた。

(やっぱり、この場は俺が収拾を付けなくちゃいけないんだな)

 俺はゆっくりと隼人の顔に唇を近付け、そのひたいに口付けた。
 隼人の瞳から涙があふれた。

「おやすみ、隼人。もう、何も心配しなくていいからね」

「……うん」

 もう、この話は止めよう。
 俺は、これから先も隼人の前では(俺)でいよう。(僕)になると隼人を泣かせる──。

 いだき合ったそのままに、その夜は静かに眠ってしまった。
──どちらが先に眠りに就いたか、それは全く分からない。


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