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第17章 恋愛不毛症候群

No,220 そして今年も忘年会

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【これは30代前半のお話】

 森山と危ない事になったあの忘年会の夜から1年が経った。
 今では森山も自分のペースを知り、飲み会にも楽しく参加出来るようになった。
 何より、今や俺と森山は仕事の上で息の合ったベスト・パートナー。そしてプライベートでも親友だ。

 そして今年の忘年会──森山の様子は悪酔いした去年とは全く違う。同僚と談笑し、女子とも打ち解けている。
──嬉しいけど、なんか淋しい。

(もう、俺なんて必要無いんだな)

 元々仕事の出来る森山は、今や社内の人気者だ。もはや過保護でお節介体質の俺なんて出る幕もない。


 一次会も終盤の頃、森山が俺に囁いた。
「歴野さん、二次会のカラオケを遠慮して、どこか静かな所で飲み直しませんか?二人で……」
「俺と二人飲みなんて普段いくらでもしてるじゃないか。せっかくだからみんなとカラオケ楽しめば?俺も森山の歌聴きたいし」

 森山は少し物憂い顔をした。
「歴野さん、オレと二人じゃ嫌ですか?オレは、忘年会の今日のこの日、歴野さんと二人きりで話したい事があるんです」

(え、何だろう?)
 俺はいつもと違う森山を感じた。
「分かった。俺だって騒がしいカラオケより、本当は森山と二人がいいよ……」

──俺達は二人でゆっくり、静かに話せる店を選んだ。


※──────────※


「去年の忘年会の……あの夜からオレ、歴野さんと一気に親しくなれたじゃないですか。だからこの忘年会の夜は、あ、厳密に言うと日付は違うけど、でもオレにとっては記念日的な?うん、とっても大事な夜なんです」
「あらら、ちよっと大げさな……
でもまあ、俺も森山と親しくなれて嬉しいよ。確かに記念日と言えば、記念日的な?」

「本当ですか?」
 森山が俺の顔を覗き込んだ。
「ああ、本当だよ」
 俺も森山の目を見て微笑んだ。

「あの時……歴野さんがパンツを貸してくれました」
「おいおい、パンツの話か?
そう言えばあの時、わざわざ新品を買って渡してくれたよな、かえって悪かったな」

「一度オレが履いたパンツなんて返されたら、いくら洗濯してあっても歴野さんにしたら気持ち悪いだろうと思って……だから新品を返したんです」
「俺の方こそ、いくら何でも使い古しを貸すなんて失礼だったよ。あのまま捨ててくれて良かったんだ」

「あ、いえ、捨ててなんかいません。歴野さんが履いていたパンツです。大切に仕舞っておいたんだけど………今夜は記念日だから、履いて来ました……」
「……え、ええっ?嘘だろ?」
「嘘なんかじゃ有りません。確認しますか?」
 冗談めかすでもなく、森山は真面目な顔をしてそう言った。

「で、でも……なにも俺のパンツを履いてこなくても……」
「今こうして歴野さんのパンツを履いているかと思うと、なんだか股間がズムズしてしまいます…」

(これ、どう言うこと?)
 瞬時──思わず自分がされたら一番嫌な問い掛けをしてしまった。

「森山……もしかしておまえ……ゲイ?」

「………………」

 森山は怒る訳でも茶化す訳でもなく、黙って俺の目をじっと見詰めた。

「歴野さん、それが分からないんです。オレはこの一年、その事をずっと考えていました」
「えっ、まじ?俺も咄嗟にすげぇデリカシーのないこと聞いちゃったけど、そこは冗談めかしてもいい所だよ?」

「冗談じゃないんです。オレ……それを話したかったんです」
「森山……」

「あの夜、歴野さんは泥酔した俺を親身に助けてくれました。
オレ、あんなに優しくされたの初めてなんです」
「いや、俺は当たり前に普通の事をしただけで……」

「おしっこの世話までですか?
あんな事、普通には出来ませんよね?」
「……憶えてたのか」

「覚えてましたよ。ただ、あの時は恥ずかしさのあまり忘れたふりをしていただけです」
「ごめん、そりゃ恥ずかしかったよな。俺が無神経だった」

「恥ずかしかったけど、でもそれ以上に嬉しかったんです。
さっきも言ったけどオレ、あんなに人に優しくされたの初めてだったから……」
「え?」

「そしてその嬉しさを伝えるのに一年も掛かってしまいました。
あの時は本当にありがとうございます」
「そんな大げさな事じゃないよ。まあ、一年も経てば笑い話だ」

「オレにとっては十分大げさな事だったんです。
散々愚痴ったからよく知ってると思うけど、オレ、それまで恋人も友達もまるでいなくて……そう言うのが苦手で……なのにまさか、オレのおしっこの世話までしてくれる人がいるだなんて……
そう、よく分からないけど、何だかとっても切なくなってしまったんです、胸が締めつけられるような?」
「それって、何だか特殊なプレイの話にも聞こえるんだけど」

「おちゃらけないで下さい。
オレ、真面目なんです。
あの時、切なくてキュンとしちゃったんです」

「あ、ごめん」

 俺はどう対応して良いのか戸惑い、下を向いた。


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