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第27話:スミスさんの豪邸の地下室でまたスライム退治
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さて、空しい休日も終わり、今日からまた仕事再開。
昨日、ボリスが村の会合の帰りに冒険者ギルドに寄って、仕事を貰ってきた。
しかし、内容はスライム退治。
「ねえ、ボリス、今さらスライム退治って、それはないんじゃないの」
「しょうがないだろ、ケンの調子が悪いんだ。だから、ローラを看病で宿屋に残す。それに、また村の会合があるんだよ。俺はまた出席しなきゃならないんだ。つまり、マリアとカイ、それにケイティの三人、おまけに回復役無し。これではスライム退治しかできないだろ」
ああ、ケンはそんなに悪いのか。
知らんかった。
廊下を隔てた部屋にいるのに。
あたしって冷たいのかしら。
こんなんだから、恋人が出来ないのかなあ。
いや、冷たいっていうより、何か一つの事しか考えられないのよねえ。
それにケイティショックもあったし。
「まあ、そんなわけでよろしく。特にマリア、カイがちゃんと仕事しているか注意してくれよ」
「はーい、わかりました。でも、カイは昨日は休みなのに、午後も弓矢の練習してましたけど」
「そうか、あいつもやっとやる気を出したか」
ボリスが満足気にうなずいている。
まあ、的を外してばかりいたけどね。
「それで場所はどこですか」
「湖の東の端っこに別荘があるだろ。俺たちの宿泊している宿屋のちょうど反対側だな」
「ええ、すごい豪邸ですよね。大金持ちでしょうね。確か、スミスさんでしたかね。仕事を引退して、その大金持ちが住んでいるって聞いたことがあるんですけど」
「ああ、四年前くらいから住んでいるらしい。それでなあ、その別荘の地下にスライムが大量発生したらしい」
「何匹くらいですか」
「わからんが、かなり大量みたいだぞ。ただ、最弱スライムらしい。それでなあ、その地下室の図面を作成してもらいたいんだが」
「え、何でそんなものが必要なんですか」
「ダンジョン探索の練習だよ。もっと本格的に洞窟探検とかする場合は地図も作成しなくてはいけないんだが、お前ら、今まで洞窟とか入る時は、ほとんど地図とか作成しないで適当にやっていただろ」
「そうですね。はい、わかりました」
別荘の地下室の図面を作成したって、ダンジョン探索の練習にならないんじゃないかと思ったがリーダーのボリスが言うなら仕方がない。
そう言うわけで、早朝にあたしとカイとケイティの三人で別荘の地下のスライム退治に出発。
あたしは弓矢の他に一応剣も用意した。
それから、リーダーのボリスに命令された地図を作製するための紙を肩掛けカバンに入れて持つ。
矢も大量に用意。
カイがぼやいている。
「またスライム退治かよ」
「しょうがないじゃない、三人しかいないんだから。それにいい練習になるんじゃないの」
「まあ、またケイティが無双して、一瞬で終わるかもしれないなあ」
「ちょっと、カイ。ケイティに押し付けないで、ちゃんと仕事してよ」
ただ、そのケイティに元気がない。
いつもは朝食をバクバク食べてるんだけど、今朝は少し残した。
いや、昨日の夕食も残したんだよなあ。
お腹が痛いのかしら。
それとも恋の病かしら。
あたしも重い恋の病にかかってみたいわ。
もう熱病みたいに倒れて死んでしまうかもってくらいの恋の病。
インフルエンザに罹って、高熱出して死にそうになったことはあるけどさあ。
「あの、ケイティ、どうしたの、調子悪いの」
「あ、いや、別に大丈夫です」
大好きなボリスがいないし、スライム退治だからやる気が出ないのかなあとあたしは思った。
湖の周りをぐるっと歩く。
途中に大きい広場がある。
この辺りの地盤はあまり家を建てるのによくないのか、ただ広い空間があるだけ。
そこから半周くらい歩いて、スミスさんの豪邸に到着。
まさに白亜の豪邸。
カイが感心している。
「すげえ豪邸だなあ」
「スミスさんって人が住んでるみたい」
玄関についている立派なドアノッカーを叩く。
しばらくすると、高価そうな服装の六十代くらいの男性が出てきた。
「あの、スライム退治の仕事を頼まれた者ですが」
「ああ、お待ちしていました」
白髪頭。
背が高くてにこやかな顔をしている。
「おはようございます、スミスと言います。申し訳ありませんねえ、何だかいつの間にかスライムがこの家の地下に大量に発生してしまってねえ。悪いねえ、スライムなんて退治させちゃって」
「いえ、それが仕事なので」
「じゃあ、よろしくお願いいたします」
お金持ちなのに礼儀正しい人だなあとあたしは思った。
スミスさんに案内されて、階段を下りて地下室へ行く。
扉を開くと、廊下のそこかしこにランプが灯っていて、そこら中にスライムがいる。
うわ、本当に大量に発生してるわ。
こりゃ、何匹いるかわからないなあ。
とにかく、片っ端から退治。
カイがバシバシとスライムに矢を当てて退治している。
「おお、今日の俺、調子がいいぞ」
カイは喜んでいるけど、相手は最弱スライムで、おまけにほんの目の前にいるスライムを倒して喜んでいる。外す方がまずいじゃんと思ったが、黙っていた。ケイティは淡々とナイフを投げて倒しているが、何だか本当に元気がないなあ。
どうしたんだろう。
あたしも、弓矢じゃなくて剣を使ってスライムを倒す。
矢がもったいないわ。
おっと、この地下室の図面を描かなくてはいけないんだっけ。
肩掛けカバンから紙を出して、簡単に書いていく。
変な地下室だなあとあたしは思った。
ただ、廊下があるだけ。
倉庫とか設置すればいいのに。
そして、この廊下がけっこう複雑な形をしている。
あちこちで折れ曲がったり。
地盤のせいかしら。
それにしても、ずいぶんと広いわね。
まあ、どうでもいいや。
難なくスライムを退治していくあたしらのパーティー。
午前中で百匹は倒したぞ。
ああ、疲れた。
「なあ、マリア、もうやめにしないか」
「けど、後、少し残っているけど」
「もう百匹倒したんだから充分だろ」
いい加減ねえ、カイは。
けど、あたしも疲れたわ。
もうほんの少し残っているけど、まあ、もうやめるか。
図面もそこら辺は適当に誤魔化した。
どうせ練習でしょ。
とりあえず終了。
図面もカバンにしまって、あたしらはスミスさんに挨拶に行く。
「やあ、みなさん、本当にありがとうございました」
にこにこしながら、あたしらに頭を下げる。
金持ちなのに腰の低い人ね、スミスさん。
「お茶でもどうですか」
「え、いいんですか、スライム退治で服が汚れていますけど」
「全然かまいませんよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
豪華な応接室に案内された。
壁一面が窓できれいなベスタ湖が見える。
天井も高いわ。
すごい大金持ちね。
スミスさんご本人が紅茶とお菓子を出してくれた。
お手伝いさんとかいないのかしら。
やや緊張気味のあたしたち。
カイにこっそりと聞かれる。
「マリア、いいのかなあ、この紅茶飲んで」
「そりゃ、いいんじゃないの」
と言いつつ、こんな冒険者みたいなことしてるあたしらとは住む世界が違うような大金持ちのスミスさんの前であたしも緊張してしまう。
「まあまあ、みなさん、ご遠慮しないで召し上がってください。そのお菓子も美味しいですよ」
「では、いただきます」
おお、美味しい紅茶ね。
お菓子は高級チョコレート。
普段は宿屋の安っぽいお茶を飲んでいるからね。
あたしが紅茶に、美味しいお菓子を食べていると、スミスさんに質問された。
「冒険者ギルドに頼んだら、何でもあなた方のリーダーの方が強引にこの仕事を引き受けたらしいんですが、なぜですか。リーダーはあなたでしょうか」
スミスさんの発言を聞いて驚くあたし。
え、知らなかった。
何で強引にスライム退治の仕事を引き受けたのかしら、ボリスは。
まあ、スミスさんには適当に返事した。
「えーと、あたしはリーダーじゃありません。リーダーは村の仕事で忙しくて、後、仲間が怪我をして、今は少数のメンバーしかいないんです。だから、結局、スライム退治くらいしか出来ない状況なので、そういうわけでこの仕事を引き受けたわけです」
「そうですか、それは大変でしたね。いや、地下室をきれいにしていただいてありがとうございました」
「いえ、単なるスライムですから。別にドラゴンを退治したわけじゃないですよ」
「ドラゴンが地下室に住みついたら大騒ぎですなあ。けど、一度、見てみたいものですなあ、ドラゴンを。見栄えはすごくいいモンスターのようですが、どんな感じなんでしょうかねえ」
にこにこと笑っているスミスさん。
すると、カイが答えた。
「うちのパーティーのマリアに聞いてみたらどうですか」
「え、それはどういうことですか」
「マリアはドラゴンキラーなんですよ。勲章も貰ったんです」
ちょっと、それは秘密でしょ、カイ。
もう、今やスライムキラーなんだから、恥ずかしい。
しかし、スミスさんはあたしを興味深く見る。
「おお、あなたがドラゴンキラーだったんですか。実は、この村の冒険者の中にドラゴンを倒した女性がいるという噂を聞いたことがあるんですが。そうですか、あなたでしたか。うむ、何かあなたにはオーラのようなものを感じますね」
多分、お世辞で言っているんでしょうね、スミスさんは。
スライムキラーにオーラは無いっての。
「あなたはどうやってドラゴンを退治したんですか」
「いえ、単に矢を射っただけです。それがドラゴンの首に付いていた魔石に当たって、墜落して倒せたんです。多分、それまでの集中攻撃されて、魔石が弱ってたんじゃないんでしょうか。運が良かっただけですよ」
「いや、運が良くてもドラゴンを倒したとはすごいですなあ」
あたしは胸のブローチを外して、スミスさんに見せた。
「これがドラゴンの首に付いていた魔石の欠片ですね」
「ほう、けど、今は魔力とかはないんですよね」
「まあ、単なる石でしょうね」
興味深く魔石をいじった後、あたしに返すスミスさん。
「まあ、今日は興味深い話をして下さってありがとうございました」
他に何か聞かれないか少し冷や冷やするあたし。
他にはスライム退治くらいしか経験ないもんねえ。
冴えない話しか出来ないわ。
それにしても、なぜだろう、なんでボリスはあたしに言ってくれなかったのかしら。
別にスライム退治の仕事なんて強引に受ける必要はないのに。
まさか、もう本当にこのパーティーに興味を失って、あたしたちには適当にスライム退治でもやらせて、自分は村長選挙にでも出馬する気かしら。
なんて思っていたら、ケイティがカイからチョコ菓子を貰っている。
「俺、甘いものは苦手なんでケイティにあげるよ」
嬉しそうにチョコを食べているケイティ。
すると、スミスさんがにこやかな顔でケイティに言った。
「お嬢さんはチョコが好きなのかな」
「は、はい。そうですね」
「実は私も好きでねえ。じゃあ、ちゃんと仕事をしてくれたお礼にチョコの詰め合わせを差し上げましょうか」
「わあ、ありがとうございます」
スミスさんがサイドテーブルを開けると、ありゃ、チョコレートの箱がいっぱい入ってる。
スミスさんチョコ・コレクターなのかしら。
そして、スミスさんに貰った紙の箱のチョコの詰め合わせを大事そうに抱えるケイティちゃん。
やっぱり女の子ね。
多少、元気が出たのかしら。
あたしは嬉しいわ。
さて、スミスさんの豪邸を辞して、昼頃、宿屋に帰る。
ケンの具合はどうかしら。
部屋に入ると、ケンが食事していた。
どうやら食事がとれるなら、大丈夫みたいね。
「ケン、調子はどう」
「ああ、だいぶよくなったよ、明日からは大丈夫だな」
「ローラはどうしたの」
「部屋で寝ているみたい。彼女には悪い事したなあ、すっかり疲れているみたい」
どうやら、ケンは大丈夫みたいね。
昼飯食って、あたしはベッドに横になる。
久々のスライム退治。
地味な仕事よね。
あたしの地味顔に合ってるかしら。
なんて卑下してしまう。
やれやれ。
すると、ケイティが近づいてきた。
「あの、マリアさん、ご相談があるのですが」
何だろう、相談って。
昨日、ボリスが村の会合の帰りに冒険者ギルドに寄って、仕事を貰ってきた。
しかし、内容はスライム退治。
「ねえ、ボリス、今さらスライム退治って、それはないんじゃないの」
「しょうがないだろ、ケンの調子が悪いんだ。だから、ローラを看病で宿屋に残す。それに、また村の会合があるんだよ。俺はまた出席しなきゃならないんだ。つまり、マリアとカイ、それにケイティの三人、おまけに回復役無し。これではスライム退治しかできないだろ」
ああ、ケンはそんなに悪いのか。
知らんかった。
廊下を隔てた部屋にいるのに。
あたしって冷たいのかしら。
こんなんだから、恋人が出来ないのかなあ。
いや、冷たいっていうより、何か一つの事しか考えられないのよねえ。
それにケイティショックもあったし。
「まあ、そんなわけでよろしく。特にマリア、カイがちゃんと仕事しているか注意してくれよ」
「はーい、わかりました。でも、カイは昨日は休みなのに、午後も弓矢の練習してましたけど」
「そうか、あいつもやっとやる気を出したか」
ボリスが満足気にうなずいている。
まあ、的を外してばかりいたけどね。
「それで場所はどこですか」
「湖の東の端っこに別荘があるだろ。俺たちの宿泊している宿屋のちょうど反対側だな」
「ええ、すごい豪邸ですよね。大金持ちでしょうね。確か、スミスさんでしたかね。仕事を引退して、その大金持ちが住んでいるって聞いたことがあるんですけど」
「ああ、四年前くらいから住んでいるらしい。それでなあ、その別荘の地下にスライムが大量発生したらしい」
「何匹くらいですか」
「わからんが、かなり大量みたいだぞ。ただ、最弱スライムらしい。それでなあ、その地下室の図面を作成してもらいたいんだが」
「え、何でそんなものが必要なんですか」
「ダンジョン探索の練習だよ。もっと本格的に洞窟探検とかする場合は地図も作成しなくてはいけないんだが、お前ら、今まで洞窟とか入る時は、ほとんど地図とか作成しないで適当にやっていただろ」
「そうですね。はい、わかりました」
別荘の地下室の図面を作成したって、ダンジョン探索の練習にならないんじゃないかと思ったがリーダーのボリスが言うなら仕方がない。
そう言うわけで、早朝にあたしとカイとケイティの三人で別荘の地下のスライム退治に出発。
あたしは弓矢の他に一応剣も用意した。
それから、リーダーのボリスに命令された地図を作製するための紙を肩掛けカバンに入れて持つ。
矢も大量に用意。
カイがぼやいている。
「またスライム退治かよ」
「しょうがないじゃない、三人しかいないんだから。それにいい練習になるんじゃないの」
「まあ、またケイティが無双して、一瞬で終わるかもしれないなあ」
「ちょっと、カイ。ケイティに押し付けないで、ちゃんと仕事してよ」
ただ、そのケイティに元気がない。
いつもは朝食をバクバク食べてるんだけど、今朝は少し残した。
いや、昨日の夕食も残したんだよなあ。
お腹が痛いのかしら。
それとも恋の病かしら。
あたしも重い恋の病にかかってみたいわ。
もう熱病みたいに倒れて死んでしまうかもってくらいの恋の病。
インフルエンザに罹って、高熱出して死にそうになったことはあるけどさあ。
「あの、ケイティ、どうしたの、調子悪いの」
「あ、いや、別に大丈夫です」
大好きなボリスがいないし、スライム退治だからやる気が出ないのかなあとあたしは思った。
湖の周りをぐるっと歩く。
途中に大きい広場がある。
この辺りの地盤はあまり家を建てるのによくないのか、ただ広い空間があるだけ。
そこから半周くらい歩いて、スミスさんの豪邸に到着。
まさに白亜の豪邸。
カイが感心している。
「すげえ豪邸だなあ」
「スミスさんって人が住んでるみたい」
玄関についている立派なドアノッカーを叩く。
しばらくすると、高価そうな服装の六十代くらいの男性が出てきた。
「あの、スライム退治の仕事を頼まれた者ですが」
「ああ、お待ちしていました」
白髪頭。
背が高くてにこやかな顔をしている。
「おはようございます、スミスと言います。申し訳ありませんねえ、何だかいつの間にかスライムがこの家の地下に大量に発生してしまってねえ。悪いねえ、スライムなんて退治させちゃって」
「いえ、それが仕事なので」
「じゃあ、よろしくお願いいたします」
お金持ちなのに礼儀正しい人だなあとあたしは思った。
スミスさんに案内されて、階段を下りて地下室へ行く。
扉を開くと、廊下のそこかしこにランプが灯っていて、そこら中にスライムがいる。
うわ、本当に大量に発生してるわ。
こりゃ、何匹いるかわからないなあ。
とにかく、片っ端から退治。
カイがバシバシとスライムに矢を当てて退治している。
「おお、今日の俺、調子がいいぞ」
カイは喜んでいるけど、相手は最弱スライムで、おまけにほんの目の前にいるスライムを倒して喜んでいる。外す方がまずいじゃんと思ったが、黙っていた。ケイティは淡々とナイフを投げて倒しているが、何だか本当に元気がないなあ。
どうしたんだろう。
あたしも、弓矢じゃなくて剣を使ってスライムを倒す。
矢がもったいないわ。
おっと、この地下室の図面を描かなくてはいけないんだっけ。
肩掛けカバンから紙を出して、簡単に書いていく。
変な地下室だなあとあたしは思った。
ただ、廊下があるだけ。
倉庫とか設置すればいいのに。
そして、この廊下がけっこう複雑な形をしている。
あちこちで折れ曲がったり。
地盤のせいかしら。
それにしても、ずいぶんと広いわね。
まあ、どうでもいいや。
難なくスライムを退治していくあたしらのパーティー。
午前中で百匹は倒したぞ。
ああ、疲れた。
「なあ、マリア、もうやめにしないか」
「けど、後、少し残っているけど」
「もう百匹倒したんだから充分だろ」
いい加減ねえ、カイは。
けど、あたしも疲れたわ。
もうほんの少し残っているけど、まあ、もうやめるか。
図面もそこら辺は適当に誤魔化した。
どうせ練習でしょ。
とりあえず終了。
図面もカバンにしまって、あたしらはスミスさんに挨拶に行く。
「やあ、みなさん、本当にありがとうございました」
にこにこしながら、あたしらに頭を下げる。
金持ちなのに腰の低い人ね、スミスさん。
「お茶でもどうですか」
「え、いいんですか、スライム退治で服が汚れていますけど」
「全然かまいませんよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
豪華な応接室に案内された。
壁一面が窓できれいなベスタ湖が見える。
天井も高いわ。
すごい大金持ちね。
スミスさんご本人が紅茶とお菓子を出してくれた。
お手伝いさんとかいないのかしら。
やや緊張気味のあたしたち。
カイにこっそりと聞かれる。
「マリア、いいのかなあ、この紅茶飲んで」
「そりゃ、いいんじゃないの」
と言いつつ、こんな冒険者みたいなことしてるあたしらとは住む世界が違うような大金持ちのスミスさんの前であたしも緊張してしまう。
「まあまあ、みなさん、ご遠慮しないで召し上がってください。そのお菓子も美味しいですよ」
「では、いただきます」
おお、美味しい紅茶ね。
お菓子は高級チョコレート。
普段は宿屋の安っぽいお茶を飲んでいるからね。
あたしが紅茶に、美味しいお菓子を食べていると、スミスさんに質問された。
「冒険者ギルドに頼んだら、何でもあなた方のリーダーの方が強引にこの仕事を引き受けたらしいんですが、なぜですか。リーダーはあなたでしょうか」
スミスさんの発言を聞いて驚くあたし。
え、知らなかった。
何で強引にスライム退治の仕事を引き受けたのかしら、ボリスは。
まあ、スミスさんには適当に返事した。
「えーと、あたしはリーダーじゃありません。リーダーは村の仕事で忙しくて、後、仲間が怪我をして、今は少数のメンバーしかいないんです。だから、結局、スライム退治くらいしか出来ない状況なので、そういうわけでこの仕事を引き受けたわけです」
「そうですか、それは大変でしたね。いや、地下室をきれいにしていただいてありがとうございました」
「いえ、単なるスライムですから。別にドラゴンを退治したわけじゃないですよ」
「ドラゴンが地下室に住みついたら大騒ぎですなあ。けど、一度、見てみたいものですなあ、ドラゴンを。見栄えはすごくいいモンスターのようですが、どんな感じなんでしょうかねえ」
にこにこと笑っているスミスさん。
すると、カイが答えた。
「うちのパーティーのマリアに聞いてみたらどうですか」
「え、それはどういうことですか」
「マリアはドラゴンキラーなんですよ。勲章も貰ったんです」
ちょっと、それは秘密でしょ、カイ。
もう、今やスライムキラーなんだから、恥ずかしい。
しかし、スミスさんはあたしを興味深く見る。
「おお、あなたがドラゴンキラーだったんですか。実は、この村の冒険者の中にドラゴンを倒した女性がいるという噂を聞いたことがあるんですが。そうですか、あなたでしたか。うむ、何かあなたにはオーラのようなものを感じますね」
多分、お世辞で言っているんでしょうね、スミスさんは。
スライムキラーにオーラは無いっての。
「あなたはどうやってドラゴンを退治したんですか」
「いえ、単に矢を射っただけです。それがドラゴンの首に付いていた魔石に当たって、墜落して倒せたんです。多分、それまでの集中攻撃されて、魔石が弱ってたんじゃないんでしょうか。運が良かっただけですよ」
「いや、運が良くてもドラゴンを倒したとはすごいですなあ」
あたしは胸のブローチを外して、スミスさんに見せた。
「これがドラゴンの首に付いていた魔石の欠片ですね」
「ほう、けど、今は魔力とかはないんですよね」
「まあ、単なる石でしょうね」
興味深く魔石をいじった後、あたしに返すスミスさん。
「まあ、今日は興味深い話をして下さってありがとうございました」
他に何か聞かれないか少し冷や冷やするあたし。
他にはスライム退治くらいしか経験ないもんねえ。
冴えない話しか出来ないわ。
それにしても、なぜだろう、なんでボリスはあたしに言ってくれなかったのかしら。
別にスライム退治の仕事なんて強引に受ける必要はないのに。
まさか、もう本当にこのパーティーに興味を失って、あたしたちには適当にスライム退治でもやらせて、自分は村長選挙にでも出馬する気かしら。
なんて思っていたら、ケイティがカイからチョコ菓子を貰っている。
「俺、甘いものは苦手なんでケイティにあげるよ」
嬉しそうにチョコを食べているケイティ。
すると、スミスさんがにこやかな顔でケイティに言った。
「お嬢さんはチョコが好きなのかな」
「は、はい。そうですね」
「実は私も好きでねえ。じゃあ、ちゃんと仕事をしてくれたお礼にチョコの詰め合わせを差し上げましょうか」
「わあ、ありがとうございます」
スミスさんがサイドテーブルを開けると、ありゃ、チョコレートの箱がいっぱい入ってる。
スミスさんチョコ・コレクターなのかしら。
そして、スミスさんに貰った紙の箱のチョコの詰め合わせを大事そうに抱えるケイティちゃん。
やっぱり女の子ね。
多少、元気が出たのかしら。
あたしは嬉しいわ。
さて、スミスさんの豪邸を辞して、昼頃、宿屋に帰る。
ケンの具合はどうかしら。
部屋に入ると、ケンが食事していた。
どうやら食事がとれるなら、大丈夫みたいね。
「ケン、調子はどう」
「ああ、だいぶよくなったよ、明日からは大丈夫だな」
「ローラはどうしたの」
「部屋で寝ているみたい。彼女には悪い事したなあ、すっかり疲れているみたい」
どうやら、ケンは大丈夫みたいね。
昼飯食って、あたしはベッドに横になる。
久々のスライム退治。
地味な仕事よね。
あたしの地味顔に合ってるかしら。
なんて卑下してしまう。
やれやれ。
すると、ケイティが近づいてきた。
「あの、マリアさん、ご相談があるのですが」
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