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第32話:地主の家を訪問する
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あたしは、ケイティちゃんの恋を成就させるため、サム君の家を訪問しに行った。
村はずれにあるでっかい屋敷。
村長から事前に連絡があったようなので、すんなりと家には入れてくれた。
お手伝いさんに応接間に案内される。
しかし、どう説得しようか。
このままだと、あなたの息子さんとケイティが駆け落ちしますよなんて言ったら、ますます態度を硬化させてしまうだろう。
とにかくケイティを褒めまくるしかないのだろうか。
けど、いくらケイティちゃんがいい子でも、浮浪者に育てられていたことは知られているしなあ。
まあ、お友達としての関係でどうですかと言うしかないか。
もう、二人は湖の上で、あのボートに乗ってキスまでしてしまっているけどね。
ああ、羨ましい。
あたしは家畜のブタとしかキスしたことがないっていうのに。
おっと、そのことはなかったことにしたんだっけ。
それよりケイティちゃんのことよ。
ああ、どうしよう。
悩んでいたら、ご両親がサム君と一緒にやって来た。
そして、突然、サム君のお父さんに言われた。
「やあ、ご無沙汰ですねえ、マリアさん」
は?
あたしは初対面のはずだけど。
あれ、このサム君のご両親見たことがあるわ。
思い出したぞ。
あたしがドラゴンを倒した時に、そのドラゴンに追われていた結婚十周年記念で旅行中だったご夫妻じゃないの。
ええ、何てご都合主義的な偶然なの。
あの時の夫婦がこのど田舎の村に住んでいるなんて。
世間は狭いわね。
「いや、あの時はドラゴンから助けていただいてありがとうございました。あの後、大騒ぎになって、あんまりあなたにはお礼を言えませんでしたね、申し訳ありません」
ご夫妻があたしに頭を下げる。
どうやら、ボリスが村長を通じて、あたしがドラゴンキラーであることを事前に伝えたらしい。
そして、サム君もびっくりした顔であたしに言った。
「ケイティからも聞いてなかったんですよ。凄いですね、ドラゴンを倒すなんて」
周りには秘密にしてくれとパーティーの仲間には言っておいたからなあ。
まあ、いつの間やら、少し噂になっていたようだけど。
あの豪邸に住んでいるスミスさんも知ってたから。
ああ、栄光の十五才の時がよみがえるわ。
周りからは誉めそやされて、あたしは有頂天になったもんだ。
で、今や、スライム退治に明け暮れる日々と。
しょぼくれたもんだわね。
おっと、今はケイティのことを考えないと。
もう、あたしはケイティがいかにいい娘か褒めまくり。
実際、いい子だと思うし、それに冒険者としても一流だってことを言っておいた。
冒険者にもチンピラみたいな人がいるけれど、ケイティは別格であると。
と言うわけで、お友達としてお付き合いは認めてもらえた。
ボートの上でキスしているのを見たことは内緒にしておいた。
まあ、それ以上は、ハードル高いんじゃないの。
それとも、すんなり越えていくのかしら。
うーん、まだ、十三才よね。
わからないわ、経験ないから。
けど、ケイティちゃん真面目だから、キスだけでとりあえず満足したんじゃないかしら。
サム君も同様に真面目な感じがするし。
満足するわよね。
そうよね。
そうと言ってよ。
ああ、わからないわ、マジ経験ないから。
それで、ケイティのことをご両親と話していたら、ふと目に付いたものがあった。
応接間にガラスの箱に入れて飾ってある石。
「あれ、これはドラゴンが付けていた魔石の半分の欠片ですね」
「そうですね、あ、マリアさんも胸に付けてますね」
そう栄光の記録よ。
石をブローチにした。
十五才でドラゴンを倒した天才少女。
今や、スライム退治にあけくれる凡才女。
「けど、何でこんな魔石を買い取ったんですか」
「あんな怖い目に遭ったんですけど、逆に魔除けになるかなあと思いましてね。二度とあんな災厄はこないだろうなあと」
ふーん、そんな考えもあるのかしらね。
とにかく、ケイティちゃんの件はこれで一件落着かしらね。
あたしは、サム君とご両親にお見送りされる。
サム君には握手を求められた。
「ドラゴンキラーの方と握手出来るなんて感激です。それにケイティとのことありがとうございました」
「あはは、別に大した事ないわよ」
しかし、何であたしが十三才の男の子と女の子の間を取り持つ必要があるのかしら。
何で冒険者がそんなことしなきゃいけないのよとあらためて疑問に思いつつも、宿屋に帰った。
けど、何でボリスは、この夫妻がドラゴンに襲われたことがあるって知ってたのかしら。
それにあたしに助けてもらったってことを知ったのかしら。
村の会合で聞いたのかしらね。
そうだとしたら、何であたしに言わなかったのかしら。
まあ、いいか。
愛人の尻を追い回していたら、あたしのことなんて忘れたのかもしれないからね。
そんなわけで、宿屋に帰って、ケイティに言ったら大喜び。
「ありがとうございます、マリアさん! もうなんて言っていいかわかりません。このお礼はいつか必ずしますから」
「別に単にお友達ってことだから、大したことじゃないでしょ」
「いえ、嬉しいです、とにかくサムと会えるだけで嬉しいんです。ありがとうございました」
もう、すごく喜んでニコニコ顔のケイティちゃん。
かわいいわね。
ああ、けど、あたしにはいつ会えるだけで嬉しい人と出会えるのかしら。
誰か教えてよ。
いつ会えるのよ。
この世では会えないのかしら。
異世界に逝かないと会えないのかしら。
異世界恋愛。
空しいわ。
さて、ケイティの件をボリスにも報告しに行った。
「おお、そうか、それはよかったな」
何だかあまり興味無さそうなボリス。
頭の中は村長選挙でいっぱいなのかしらね。
「それで、何であたしが、あの夫婦をドラゴンから助けたってことを教えてくれなかったんですか」
「そりゃ、お前があんまり周りに自分がドラゴンキラーであることを教えないでくれって言ったからだよ。けど、今回はケイティの件があるから村長には言ったけどな」
「事前にあたしに言ってくださいよ」
「いや、すっかり忘れてた、ガハハ」
もう、村の運営の事で頭がいっぱいなのか、おっさん。
すっかり村長になりきっているな、このモンスター面食い親父。
その夜。
ケイティのいびきがうるさい。
ものすごくうるさい。
サム君のことで心配事がなくなったかしら。
鼻をつまんでおとなしくさせる。
まあ、かわいいから許す。
そして、つい、また窓の外を見てしまうあたし。
本当に趣味になりつつあるなあ。
ありゃ、またボートがやってきたぞ。
誰がやるのかしら。
あれ、アレックスとローラじゃないの。
どうなってるの。
え、どういう関係なの。
一応、経費節減で、アレックスとローラは二人部屋にしたんだけど。
アレックスは男だけど、まあ、大丈夫だろうって思ってね。
固唾を飲んで見守るあたし。
なんで固唾を飲まなくてはいけないのかしら。
けど、二人は話しているだけで、いかがわしいことはしない。
何となく、ローラがアレックスに相談しているような感じが伝わって来る。
恋愛相談かしら。
確かに、恋愛経験ゼロのあたしよりアレックスの方がいいかもなあ。
けど、いつの間に仲良くなったんだ、あの二人。
今日、会ったばかりだけど。
延々と話している。
何だろう。
おっと、気が付けば三十分も過ぎている。
あたしはずっと覗きをやっていたわけだ。
マジ、覗きが趣味になってしまったのかあ!
そんな女、嫌よねえ、男性は。
そして、そんな共通の趣味を持っている男性と付き合いたくないわ。
どうも、アレックスとローラはただお話ししているだけみたい。
どうでもいいや。
カーテンを閉める。
さて、寝ようかと思ったら、いきなり後頭部に衝撃を受けた。
あたしは、あっさりと気絶した。
村はずれにあるでっかい屋敷。
村長から事前に連絡があったようなので、すんなりと家には入れてくれた。
お手伝いさんに応接間に案内される。
しかし、どう説得しようか。
このままだと、あなたの息子さんとケイティが駆け落ちしますよなんて言ったら、ますます態度を硬化させてしまうだろう。
とにかくケイティを褒めまくるしかないのだろうか。
けど、いくらケイティちゃんがいい子でも、浮浪者に育てられていたことは知られているしなあ。
まあ、お友達としての関係でどうですかと言うしかないか。
もう、二人は湖の上で、あのボートに乗ってキスまでしてしまっているけどね。
ああ、羨ましい。
あたしは家畜のブタとしかキスしたことがないっていうのに。
おっと、そのことはなかったことにしたんだっけ。
それよりケイティちゃんのことよ。
ああ、どうしよう。
悩んでいたら、ご両親がサム君と一緒にやって来た。
そして、突然、サム君のお父さんに言われた。
「やあ、ご無沙汰ですねえ、マリアさん」
は?
あたしは初対面のはずだけど。
あれ、このサム君のご両親見たことがあるわ。
思い出したぞ。
あたしがドラゴンを倒した時に、そのドラゴンに追われていた結婚十周年記念で旅行中だったご夫妻じゃないの。
ええ、何てご都合主義的な偶然なの。
あの時の夫婦がこのど田舎の村に住んでいるなんて。
世間は狭いわね。
「いや、あの時はドラゴンから助けていただいてありがとうございました。あの後、大騒ぎになって、あんまりあなたにはお礼を言えませんでしたね、申し訳ありません」
ご夫妻があたしに頭を下げる。
どうやら、ボリスが村長を通じて、あたしがドラゴンキラーであることを事前に伝えたらしい。
そして、サム君もびっくりした顔であたしに言った。
「ケイティからも聞いてなかったんですよ。凄いですね、ドラゴンを倒すなんて」
周りには秘密にしてくれとパーティーの仲間には言っておいたからなあ。
まあ、いつの間やら、少し噂になっていたようだけど。
あの豪邸に住んでいるスミスさんも知ってたから。
ああ、栄光の十五才の時がよみがえるわ。
周りからは誉めそやされて、あたしは有頂天になったもんだ。
で、今や、スライム退治に明け暮れる日々と。
しょぼくれたもんだわね。
おっと、今はケイティのことを考えないと。
もう、あたしはケイティがいかにいい娘か褒めまくり。
実際、いい子だと思うし、それに冒険者としても一流だってことを言っておいた。
冒険者にもチンピラみたいな人がいるけれど、ケイティは別格であると。
と言うわけで、お友達としてお付き合いは認めてもらえた。
ボートの上でキスしているのを見たことは内緒にしておいた。
まあ、それ以上は、ハードル高いんじゃないの。
それとも、すんなり越えていくのかしら。
うーん、まだ、十三才よね。
わからないわ、経験ないから。
けど、ケイティちゃん真面目だから、キスだけでとりあえず満足したんじゃないかしら。
サム君も同様に真面目な感じがするし。
満足するわよね。
そうよね。
そうと言ってよ。
ああ、わからないわ、マジ経験ないから。
それで、ケイティのことをご両親と話していたら、ふと目に付いたものがあった。
応接間にガラスの箱に入れて飾ってある石。
「あれ、これはドラゴンが付けていた魔石の半分の欠片ですね」
「そうですね、あ、マリアさんも胸に付けてますね」
そう栄光の記録よ。
石をブローチにした。
十五才でドラゴンを倒した天才少女。
今や、スライム退治にあけくれる凡才女。
「けど、何でこんな魔石を買い取ったんですか」
「あんな怖い目に遭ったんですけど、逆に魔除けになるかなあと思いましてね。二度とあんな災厄はこないだろうなあと」
ふーん、そんな考えもあるのかしらね。
とにかく、ケイティちゃんの件はこれで一件落着かしらね。
あたしは、サム君とご両親にお見送りされる。
サム君には握手を求められた。
「ドラゴンキラーの方と握手出来るなんて感激です。それにケイティとのことありがとうございました」
「あはは、別に大した事ないわよ」
しかし、何であたしが十三才の男の子と女の子の間を取り持つ必要があるのかしら。
何で冒険者がそんなことしなきゃいけないのよとあらためて疑問に思いつつも、宿屋に帰った。
けど、何でボリスは、この夫妻がドラゴンに襲われたことがあるって知ってたのかしら。
それにあたしに助けてもらったってことを知ったのかしら。
村の会合で聞いたのかしらね。
そうだとしたら、何であたしに言わなかったのかしら。
まあ、いいか。
愛人の尻を追い回していたら、あたしのことなんて忘れたのかもしれないからね。
そんなわけで、宿屋に帰って、ケイティに言ったら大喜び。
「ありがとうございます、マリアさん! もうなんて言っていいかわかりません。このお礼はいつか必ずしますから」
「別に単にお友達ってことだから、大したことじゃないでしょ」
「いえ、嬉しいです、とにかくサムと会えるだけで嬉しいんです。ありがとうございました」
もう、すごく喜んでニコニコ顔のケイティちゃん。
かわいいわね。
ああ、けど、あたしにはいつ会えるだけで嬉しい人と出会えるのかしら。
誰か教えてよ。
いつ会えるのよ。
この世では会えないのかしら。
異世界に逝かないと会えないのかしら。
異世界恋愛。
空しいわ。
さて、ケイティの件をボリスにも報告しに行った。
「おお、そうか、それはよかったな」
何だかあまり興味無さそうなボリス。
頭の中は村長選挙でいっぱいなのかしらね。
「それで、何であたしが、あの夫婦をドラゴンから助けたってことを教えてくれなかったんですか」
「そりゃ、お前があんまり周りに自分がドラゴンキラーであることを教えないでくれって言ったからだよ。けど、今回はケイティの件があるから村長には言ったけどな」
「事前にあたしに言ってくださいよ」
「いや、すっかり忘れてた、ガハハ」
もう、村の運営の事で頭がいっぱいなのか、おっさん。
すっかり村長になりきっているな、このモンスター面食い親父。
その夜。
ケイティのいびきがうるさい。
ものすごくうるさい。
サム君のことで心配事がなくなったかしら。
鼻をつまんでおとなしくさせる。
まあ、かわいいから許す。
そして、つい、また窓の外を見てしまうあたし。
本当に趣味になりつつあるなあ。
ありゃ、またボートがやってきたぞ。
誰がやるのかしら。
あれ、アレックスとローラじゃないの。
どうなってるの。
え、どういう関係なの。
一応、経費節減で、アレックスとローラは二人部屋にしたんだけど。
アレックスは男だけど、まあ、大丈夫だろうって思ってね。
固唾を飲んで見守るあたし。
なんで固唾を飲まなくてはいけないのかしら。
けど、二人は話しているだけで、いかがわしいことはしない。
何となく、ローラがアレックスに相談しているような感じが伝わって来る。
恋愛相談かしら。
確かに、恋愛経験ゼロのあたしよりアレックスの方がいいかもなあ。
けど、いつの間に仲良くなったんだ、あの二人。
今日、会ったばかりだけど。
延々と話している。
何だろう。
おっと、気が付けば三十分も過ぎている。
あたしはずっと覗きをやっていたわけだ。
マジ、覗きが趣味になってしまったのかあ!
そんな女、嫌よねえ、男性は。
そして、そんな共通の趣味を持っている男性と付き合いたくないわ。
どうも、アレックスとローラはただお話ししているだけみたい。
どうでもいいや。
カーテンを閉める。
さて、寝ようかと思ったら、いきなり後頭部に衝撃を受けた。
あたしは、あっさりと気絶した。
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