紛い物でも愛してる

無名ノ作家

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第1章 終焉への第1歩

ヒーロー気取り

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 朝、学校がどこか騒がしかった。耳にやけに入り込む人の声とか視線とか……『うざっ』と呟きながら教室へ向かうに連れてそのうるさい声は徐々にハッキリと鮮明になる。
 それら全てが俺の教室から漏れ出ているのだと分かって憂鬱な気持ちでドアを開けた時だった。
「そんな事してヒーロー気取りかよ! 突然帰ってきただけでもバケモンのくせに!」
「黙れ! さっさと誠心誠意謝れや!」
 なんの騒ぎだと怪訝な目を向けた所は俺の席がある所だ。机の上に花瓶があり写真まで……写真立てにあるのは似ても似つかない絵だが、いつもの光景なのに……。
「あ、黎斗! おい、こいつらお前の机にこんな事──」
「これって日聖が最初にやり始めた事だろ。俺がムカつくからって死んでくださーいって言いながら。それを今更謝れって何なんだよ。謝れって言うならお前が先に謝れよ」
 俺に同調するように周りが『そうだ、そうだ』と声を上げる。すると日聖は担任の机からカッターを持ってくるとそれを躊躇いもせず手首を切り裂いた。溢れ出す血に周囲が悲鳴をあげる。
「は……、お前……何して……」
「……ごめん。俺が始めたなんて……しら、いや……忘れてた。お前の言う通りだ。俺が先にやり始めたなら俺が謝るべきだよな。こんなんじゃ詫びにもならないけど、ごめん!」
「……っ何だよ、こんな事して許してもらえると思うなよな」
 俺はそう吐き捨てながら体操服を引っ張り出し日聖の手首に強く押し当てる。傷口を強く抑えてれば止血出来るはずだ、何かで読んだ。
「黎斗……俺、その……忘れてる事がたくさんあると思う。でも頑張って思い出すから。それと、他にも俺がやらかした事があるなら全部教えてくれ。全部、ケジメをつけるから」
「ケジメ? 自分の体刻むつもりかよ。ンなことどうだっていいよ。今は……お前の怪我を治療しないと……」
 俺は日聖に怪我の所を強く押さえるよう言うと付き添って保健室まで連れて行く。その間まるで叱られた犬みたいに明らかに様子の違う日聖がいた。
 いつも人を見下すような蔑んだ目を向けてきていたくせに今はそんな目付きはない、ただ後悔みたいな思いが何も言わなくとも伝わってくる気がする。そして同時に思う。『こいつは誰だ』と……。
 
 保健室に着くと扉には『保険医不在』の看板がぶら下がっていたが俺は構わず開けて日聖を椅子に座らせた。
「体操服取って、手当する」
「……うん」
 血塗れで真っ赤な体操服、その下に骨まで見えそうなぐらい割れた皮膚、グロい……。それでも気持ち悪さとかはなく傷口をなるべくくっ付けて薬を塗りガーゼを置いてから包帯でぐるぐるに巻いた。この手当が合ってるかは知らないけど、早めに病院に行かないといけないのは俺にも分かる。
「今日このまま早退して病院行けよ。縫わないといけないし」
「あー……うん、お前は?」
「は? 俺? 何で俺だよ、俺は別にどこも──」
「だってあいつらに虐められてんだよな? 俺も……だったけど今は違うし。一緒に帰ろう、な?」
 俺を守ってるつもりなのか? 罪滅ぼしのためか、どちらにしても俺はまだ信じるわけにはいかない。突然親友から裏切られた俺の気持ち、お前には絶対に分からない。重ねてきた信頼なんて壊れるのは一瞬だ。信頼より裏切りのほうがあっという間なんだ。
「俺は帰らないよ。病院ぐらい行けるだろ、おばさんもいるし。先生には俺から伝えておくし……それに俺はお前に虐められてきた事が何よりショックで今は変わっていても信じきれない。お前がもし本当に俺とまた友達に戻りたいっていうんなら誠意見せろよ。ケジメとかいらんし、それだけだよ」
 俺はそう吐き捨てて『体操服洗って返す!』と叫んだ日聖に目も向けず片手で挨拶だけ示し教室に帰った。

 扉を開けるとすでにHRは始まっていた。
「おお、飯沼いいぬま沼地ぬまちの様子は?」
「あー……傷が結構深めなんで早退するよう伝えました」
「そうか、良かった」
 そうしていつも通り過ぎていく日常。けどあいつが突然帰ってきたってのに、誰も動揺とかないんだな。バケモンって言われていたけどそれっきりだったし。閉ざされた村だから嫌になる。外の情報が入ってこない代わりに、村の情報も外部には漏れ出ない。誰かがいなくなってもきっと……。
「飯沼、飯沼!」
「えっ、はい?」
「悪いが沼地を病院に送ってくれないか。親御さんが仕事で来られないらしくて、代わりに付き添ってやってくれ」
 なんで俺が、そんな気持ちを押し殺して静かに返事をする。俺たちは早退を許され、二人並んで校門を出た。こうして一緒に歩くなんて久しぶりだ。
「なんか、ごめんな、黎斗。母さんに電話したら仕事で……」
「今日お前のおばさんは休みのはずだろ。職場今日定休日だし、何が目的なんだよ」
「あ……はは、バレてたか。やっぱ黎斗は鋭いなあ、かなわん」
 ムッとしながらも前に見た笑顔と変わらないなってまじまじと見つめてしまう。昔はよく馬鹿なことして遊んでたし日聖と居るのが楽しくて仕方なかった。四六時中一緒やから「お前ら兄弟みたいやな」って言われたり友達とかには「おホモ達でしゅかぁ~」なんてからかわれた。いつから変わったんだ、俺と日聖はなんでこんな風に最悪な絶交の仕方になったんだ。
「なあ覚えてるか、この道夕方んなるとカラスがめっちゃ飛び立ちよってさ、俺らそれ見てからいっつも嵐が来るとか天変地異が起こるとか馬鹿な事言って大人たち困らせよったよなあ……ほんま、懐かしいな」
 空を見上げる日聖の顔はあの時と変わらない。少し物憂げで見上げるくせに、俺を見てニカッと笑う。
「俺、今までは黎斗にとって最悪な奴やったかもしれん。でも心入れ替えて今度は、お前を守るヒーローになる。どんな奴が来てもお前を傷付ける奴はこの手で成敗する。やけんさ……俺が隣におること許してくれん?」
 寂し気な顔で少し笑った顔、俺が大好きな顔……。俺はずっと、ずっと、ずっと日聖を。
「そんなん俺の信頼を取り戻さん事には何とも言えん。お前のこと信じたわけやないし。俺を守るってんなら、絶対に守れよ。どこにいてもどんな時でも俺を優先しろよ……」
「黎斗を? それは、家族よりもってこと?」
「……あ、当たり前だろ……」
 何を言ってるんだと後悔したが、日聖を見ると『ニタァ』と笑っていた。目を細めて口角あげて、その顔がどこか嬉々としていて不気味さを覚えたが同時に俺の中にゾクッとするような感覚が湧き出していた。
「うん、絶対黎斗を優先する。何があっても、お前を守る。もう一度信じてもらえるように努力する、俺さ、久しぶりに黎斗に会ったとき正直ドキドキした。これが何やのかわからんけど、満たされた。お前と友達だって事に嬉しくなったし誇らしかった、それにめっちゃ撫でたくなった。抱きしめたくもなった、でも黎斗怒ってたし俺にもう一回死ねとかいうから、堪えたわ……」
「……それは、ごめん。俺ン中で日聖は友達やなくて悪党? 悪魔? みたいな感じやったから。最悪な思い出で埋め尽くされて心ズタズタで、怖かったんよ。またあの日々が蘇るんやって思ったら怖くなって……」
「そっか。けどもう大丈夫。前までの沼地日聖はもう、からな。俺から離れられんようになるまで、女とか要らんって思うようになるまでめっちゃ守るし愛したるよ!」
「キモいこと言うな……まあけど、期待せずに待ってるわ」
 そんな会話をしながら病院に着くと、日聖は処置室に通されて中から「痛い!痛い!」と叫ぶ声が聞こえていたが看護師に宥められながら涙目で出てきた親友は、泣き濡れた顔で俺に向かってブイサインを作って見せた。

 もし本当に日聖が生きて帰ってきてるんだとしたら何があってこんな性格になったんか知りたいし、日聖やなかったら誰なんか知りたい。前の日聖は仲が良くても愛するとかドキドキしたとか絶対に言わない、女の子が大好きで大好きで胸の大きな子を見ては鼻の下を伸ばす変態気質だった。それにあの粘着したような笑い方はしなかった。下品な声で笑う、豪快な奴だった。

 あいつは、だ。

 それでも俺はいいと思っている。本物の日聖がいなくなって、そいつを真似た別の何かでもいい。俺は俺だけを見てくれる日聖が好きだったんだ。小さい頃、小学生の時までの俺は日聖が大好きだった。他のやつと話すのさえ嫌がるぐらいに、眠っている幼い日聖のファーストキスを奪ってしまうぐらいに、愛していたんだ。
 けどその気持ちは俺を裏切ってきたあの日から木っ端みじんに崩れた。愛情は憎しみに代わり嫌悪になった。それが今は……日聖じゃなくたっていいんだ。俺を愛してくれるなら、化け物でもいい。俺は、間違っているだろうか。いや……きっと、これが俺なんだ。
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