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第4話 思惑
しおりを挟むそして嫁いで来た早々侍女タラに嫌がらせを受け、その事を義母に注意して頂こうと思ったが、逆に私が叱責されているという状況。
義母が当てにならないとは。
まぁ、いいですけど。
「聞いているの!? リサーリアっ!」
義母が強い口調で私に聞いた。
「…ごめんなさい、タラ。実家との環境が変わったばかりで慣れない事も多くて。だからついあなたにわがままを言ってしまったわ。あなたは私の事を心配してくれていたのね。ひどい事を言ってしまって…。これからは普通に戻してくれる?」
私は殊勝な態度で謝り、お願いをした。
ここでタラを否定し、怒る事は簡単だ。
けれど、それでは私が完全に悪者になる。
義母の前では、素直な嫁を印象づけた方がいい。
「え?」
きょとんとしているタラ。
「やはり冷たすぎる水は体に良くないと思うから、これからは皆さんと同じようにしてもらえるかしら? 身支度は自分でできるから結構よ。食事もあなたのいう通り、極端な味付けは身体に良くないから、これも皆さんと同じにしてもらえるかしら? 勝手な事ばかり言って申し訳ないわ…」
「リサーリアもこう言っているし、タラも言う通りにしてあげてね」
義母がタラの肩を叩きながら言った。
「…はい。畏かしこまりました」
ふふ。不承不承という感じね。
これで改善されるか分かったものじゃないけどね。
そして、その予感は的中した。
◇◇◇◇
パシャ
(…冷たい)
翌朝、顔を洗う水を持ってきたタラ。
冷たい冷たい。
けど、本当はこれくらいの冷たさは平気なんだけれど、タラの勝手にさせるのも気分がいいものではないし。
「お顔、洗われないのですか?」
私を見下ろしながらニヤニヤしているタラ。
なら私も笑いましょう。
ニッコリと!
「…っ!」
そんな私の顔を見て、少し戸惑うタラ。
私は無言のまま部屋を出た。
「お、奥様?」
タラが慌てて私を追いかけてきた。
「どこへ行かれるのです? 早くお支度をして下さいっ」
「あんなに冷たい水では洗えないわ。厨房からお湯を貰ってくるのよ」
「で、でしたら私が…」
「いいのよ。あなたは頼まれた事をすぐに忘れるようだから、自分でするわ」
あせっているタラに私は笑顔で答えた。
そうよね。
仮にも当主の息子の嫁である私が、他の使用人がいる厨房に入ってお湯をもらい、それを部屋まで運ぶなんてありえないわよね。
侍女であるあなたの職務怠慢と受け取られてもしかたがない。
(本当に職務怠慢なんだけど…)
「もし私がお湯を運んでいるところを義母に見られたらなんて言い訳するのかしら。あなたは義母に頼まれたにも関わらず、言いつけを守らなかった事になるわよね?」
私はスタスタと歩きながらタラを見ず話を続けた。
「お…奥様っ…」
タラが縋るように私を止めようとする。
「何をやっているの?」
「おはようございます、お義母様」
あら、タイミングがよろしくて。
「お、大奥様っ」
タラ、今どんな気持ちかしら。
「朝から何を騒いでいるのか聞いているのよ」
「そ、その…」
言い淀むタラ。
「今朝、タラが持ってきてくれた水が冷たかったので、お湯をもらいに厨房に向かっていました」
「何ですって!? タラ、私は昨日頼んだはずよね?」
「は、はい…あの…」
「間違えただけですわ、お義母様。私が今まで冷たい水を頼んでいたので、うっかりしてしまったのでしょう。今からお湯を運ぶのを私も手伝おうかと思いまして…」
私はそう義母に説明した。
ここでタラを庇えば、私の印象は多少良くなるだろうし、タラの信頼は損なわれる。
義母は疑いの眼で私とタラを見ている。
「リサーリア、貴方が行く必要はありません。タラ、早くお湯を持ってきなさい」
「か、畏まりました」
スカートを握り締める手に力が入りすぎよ、タラ。
「お義母様。朝からお騒がせしてしまい、申し訳ございません」
私は丁寧に義母にお辞儀をした。
「…部屋に戻って、身支度を整えなさい。もうすぐ朝食の時間だから」
「はい。お義母様」
私は控えめに微笑んだ。
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