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第13話 君を探し求めて
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そう…僕はこの女の息子ではない。
実母はここでメイドをしていた。
父は器量よしだった母を無理矢理手籠めにし妊娠させ、それを知ったグリフォンド伯爵夫人ははした金を握らせ、この屋敷から母を追い出した。
もともと身寄りのなかった母に行くあてもなく、一人で僕を産み育ててくれた。
毎日毎日働いてもその日暮らしの日々。
そのうち母は身体を壊し、亡くなってしまった。
同じ頃、父とあの女の息子が流行り病で死に、僕が引き取られる事になった。
その時の僕は12歳。
父が僕を引き取ってくれた時は嬉しかった反面、なぜもっと早く来て母を助けてくれなかったのかと複雑な思いを抱えていた。
その頃の僕は父と母の間に何があったのか知らなかったので、そんな事を考えていた。
引き取られはしたが、伯爵夫人はもちろん、父との交流も全くなかった。
生まれて初めて会ったというのに…
しかしそれは、あくまでも僕が亡くなった息子の代わりであり、父の血さえ引いていれば良かっただけの存在だから。
引き取られてから何年かして二人がそう話しているのを聞いた時、どこかでそういうことかと納得する自分がいた。
そしてなぜ自分は生まれたのか?
なぜ父の子を宿した母がひとりで育てる事になったのか疑問をもつようになった。
僕はその時の会話をきっかけに、いろいろ調べ始めた。
そして父が母にした事
母と伯爵夫人にあった出来事
父が子供が作れない身体になった事を知った。
「僕は当主になった暁には、貴方たち二人を辺境地へ送り、二度と領地に来させないようにするつもりでした」
「なっ! おまえっ それが親に向かって言う言葉か!」
「あなたが親として僕に何をしてくれましたか? あなたの息子が亡くなるまで、僕の存在自体忘れていたのではありませんか?」
「…っく」
苦虫を噛み潰したような顔をするところを見ると、図星らしい。
「でもリサーリアに出会えた事で、僕の考えは変わった。彼女さえいてくれれば当主の座も、爵位も必要ない。だから彼女がいないこの場所にいる意味はもうありません。僕はこの家を出て行きます」
「なっ、お前はグリフォンド伯爵家の跡継ぎなんだぞ!」
「だから他の跡継ぎを探して下さい。けど、あなたは跡継ぎを作る事ができないのですから、傍系から…は男子がいないんでしたね。あとは養子でも迎え入れるしか、グリフォンド家を存続させることはできませんね」
「先祖代々受け継がれてきたこのグリフォンド家を、血縁のない者に継がせるわけにはいかんのだ!」
「そうですか。けど、僕にはもう関係ありません。この家が存続しようと廃絶しようと」
「モートン!!」
僕は父の言葉を背に、部屋を出た。
そして一頭の馬にトランク一つを載せ、屋敷を後にした。
その後、どう調べたのかリサーリアが自殺したと聞きつけた義父のウォルトマン伯爵から、慰謝料と持参金返還の請求があったらしい。
しかし父はそれらを拒否。
するとウォルトマン伯爵から訴えられ、今は泥沼裁判になっているとか。
さらに捜査隠蔽のため、自警団と金銭の授受があった事も問題になっているみたいだが…もはや僕には関係のない話だ。
◇◇◇◇
「リサーリアって女性、ご存じありませんか? 年齢は19歳。髪はピンクブラウン、瞳はライトブルー。身長はこのくらいなんですが」
そう言いながら、自分の胸元に手で線を引いた。
「うーん、見た事ないねぇ」
「そうですか…。あ、あとこういう刺繍をして売りに来ていたかもしれないんですけど」
僕はリサーリアが作ってくれたブーゲンビリアのデザインがされているハンカチを見せた。
「まぁ、素敵な刺繍だねぇ。けど、悪いけど知らないわ。すまないねぇ」
「…いいえ。最後にここらへんでブーゲンビリアが咲いている場所ってありますか?」
「ここはあたたかい街だからね。そこらへんで咲いていると思うんだけど…」
「そうですか。いろいろありがとうございました」
雑貨店を出て、空を見上げながらため息をつく。
グリフォンド家を出てから三か月。
僕は南に向かって進み、雑貨店を訪ね歩いていた。
「君なら昔のように刺繍の腕を活かして、生計を立てていると思うんだが…」
リサーリアからもらったハンカチを見ながら、あの時の会話を思い出していた。
『あなたの瞳の色と似たかわいい花なのよ。あたたかい南の地方に特に咲いているんですって。私も絵でしか見た事ないけど』
『へぇ、きれいなもんだ。いつか本物を見に連れて行ってあげるよ』
『楽しみだわ』
「あの時の君の笑顔、昨日の事のように思い出すよ」
僕はハンカチに口づけをした。
どこにいるんだ…リサーリア――――…
実母はここでメイドをしていた。
父は器量よしだった母を無理矢理手籠めにし妊娠させ、それを知ったグリフォンド伯爵夫人ははした金を握らせ、この屋敷から母を追い出した。
もともと身寄りのなかった母に行くあてもなく、一人で僕を産み育ててくれた。
毎日毎日働いてもその日暮らしの日々。
そのうち母は身体を壊し、亡くなってしまった。
同じ頃、父とあの女の息子が流行り病で死に、僕が引き取られる事になった。
その時の僕は12歳。
父が僕を引き取ってくれた時は嬉しかった反面、なぜもっと早く来て母を助けてくれなかったのかと複雑な思いを抱えていた。
その頃の僕は父と母の間に何があったのか知らなかったので、そんな事を考えていた。
引き取られはしたが、伯爵夫人はもちろん、父との交流も全くなかった。
生まれて初めて会ったというのに…
しかしそれは、あくまでも僕が亡くなった息子の代わりであり、父の血さえ引いていれば良かっただけの存在だから。
引き取られてから何年かして二人がそう話しているのを聞いた時、どこかでそういうことかと納得する自分がいた。
そしてなぜ自分は生まれたのか?
なぜ父の子を宿した母がひとりで育てる事になったのか疑問をもつようになった。
僕はその時の会話をきっかけに、いろいろ調べ始めた。
そして父が母にした事
母と伯爵夫人にあった出来事
父が子供が作れない身体になった事を知った。
「僕は当主になった暁には、貴方たち二人を辺境地へ送り、二度と領地に来させないようにするつもりでした」
「なっ! おまえっ それが親に向かって言う言葉か!」
「あなたが親として僕に何をしてくれましたか? あなたの息子が亡くなるまで、僕の存在自体忘れていたのではありませんか?」
「…っく」
苦虫を噛み潰したような顔をするところを見ると、図星らしい。
「でもリサーリアに出会えた事で、僕の考えは変わった。彼女さえいてくれれば当主の座も、爵位も必要ない。だから彼女がいないこの場所にいる意味はもうありません。僕はこの家を出て行きます」
「なっ、お前はグリフォンド伯爵家の跡継ぎなんだぞ!」
「だから他の跡継ぎを探して下さい。けど、あなたは跡継ぎを作る事ができないのですから、傍系から…は男子がいないんでしたね。あとは養子でも迎え入れるしか、グリフォンド家を存続させることはできませんね」
「先祖代々受け継がれてきたこのグリフォンド家を、血縁のない者に継がせるわけにはいかんのだ!」
「そうですか。けど、僕にはもう関係ありません。この家が存続しようと廃絶しようと」
「モートン!!」
僕は父の言葉を背に、部屋を出た。
そして一頭の馬にトランク一つを載せ、屋敷を後にした。
その後、どう調べたのかリサーリアが自殺したと聞きつけた義父のウォルトマン伯爵から、慰謝料と持参金返還の請求があったらしい。
しかし父はそれらを拒否。
するとウォルトマン伯爵から訴えられ、今は泥沼裁判になっているとか。
さらに捜査隠蔽のため、自警団と金銭の授受があった事も問題になっているみたいだが…もはや僕には関係のない話だ。
◇◇◇◇
「リサーリアって女性、ご存じありませんか? 年齢は19歳。髪はピンクブラウン、瞳はライトブルー。身長はこのくらいなんですが」
そう言いながら、自分の胸元に手で線を引いた。
「うーん、見た事ないねぇ」
「そうですか…。あ、あとこういう刺繍をして売りに来ていたかもしれないんですけど」
僕はリサーリアが作ってくれたブーゲンビリアのデザインがされているハンカチを見せた。
「まぁ、素敵な刺繍だねぇ。けど、悪いけど知らないわ。すまないねぇ」
「…いいえ。最後にここらへんでブーゲンビリアが咲いている場所ってありますか?」
「ここはあたたかい街だからね。そこらへんで咲いていると思うんだけど…」
「そうですか。いろいろありがとうございました」
雑貨店を出て、空を見上げながらため息をつく。
グリフォンド家を出てから三か月。
僕は南に向かって進み、雑貨店を訪ね歩いていた。
「君なら昔のように刺繍の腕を活かして、生計を立てていると思うんだが…」
リサーリアからもらったハンカチを見ながら、あの時の会話を思い出していた。
『あなたの瞳の色と似たかわいい花なのよ。あたたかい南の地方に特に咲いているんですって。私も絵でしか見た事ないけど』
『へぇ、きれいなもんだ。いつか本物を見に連れて行ってあげるよ』
『楽しみだわ』
「あの時の君の笑顔、昨日の事のように思い出すよ」
僕はハンカチに口づけをした。
どこにいるんだ…リサーリア――――…
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