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うっかりバレちゃった。

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「あっ、」

はずみでシャツのボタンが外れて。
崇につけられたキスマークが見えてしまった。


まだ、くっきりと残っていた。
虫刺されです、なんて言い訳は、勿論通用しなかったわけで。

二人は怒って。
崇を訴える! とか言い出すので。

クリーンでも、マフィアだし。
大事な身内にそんな命知らずなことをさせる訳にはいかない。


仕方ないから、正直にシチリアで起こったことを話すことにした。
下手に言い訳するよりも、素直に白状したほうがいいと判断したから。

ただし、愛理さんのプライベートな情報を聞いたことだけは伏せておこう。


*****


シチリアに着いた直後。

斡旋人のトーニオにスタンガンで気絶させられて拉致られた。
荷物を奪われた上に、銃で脅されて。

男娼として向かわされた先がヴァレンティーノだった。

僕だって知らない崇に、男娼に間違われて、最後までされちゃったけど。
僕が崇の名前を呼んだので、僕だって判明したら、謝罪された。


崇はすごくかっこよくなっていて。
シチリアのマフィア、ヴァレンティーノ一家の首領になってた。

麻薬には手を出さないし、観光客や素人に迷惑をかけないのが掟のクリーンな一家だって言ってた。
翌日はヴァレンティーノ所有の畑とか案内されて。幹部たちにも紹介された。


その夜、僕と再会するのだけを希望に、今まで頑張ってきたんだって。
崇からプロポーズをされた。

返事は大学を卒業してからじゃ駄目かって聞いたら、僕が崇を探すために名を出してたのを敵対組織に目をつけられたらしくて。

僕の情報を聞き出すためか、トーニオも攫われたって聞いて。
人質として狙われるかもしれないから、帰国できないと言われた。

でも、変装すれば大丈夫かもしれないと思って、スーツケースに入ってた母さんのワンピースを着て、屋敷から逃げた。

逃げたのはすぐにバレて、崇に追われて。一旦捕まりそうになったけど。
娼館の女主人にかくまわれた。

女主人はトーニオの妹のジーナで。兄のしたことのお詫びだって、バレないような女装をさせられた。
でも、ジーナ目当ての敵対組織に攫われてしまった。

潜伏場所に連れて行かれて。トーニオは情報を話してなかったことを知った。

ジーナの機転で、どうにか敵対組織の頭を動けなくしたけど。
トーニオは担いでは運べないような怪我だったし、外に敵がまだ何人いるかわからない状況で。

そんな時、崇が部下を連れて乗り込んできて、助けてくれた。
みんな僕だってわかんなかったのに、ひと目で僕だって見抜いた。


「それで、自分の気持ちに気付いて。改めて、崇のプロポーズを受けたんだ」

我ながら波乱万丈すぎるけど。
実話だ。


*****


「なにその、ジャンルごちゃまぜな海外ドラマみたいな展開……」
二人は半信半疑の様子だったけど。

「あっ、そういえばオリーブオイルってイタリアマフィアの資金源のひとつだとか聞いたことがあるような……」

そうなんだ。
やっぱりマフィアっていっても、悪いことばっかりしてる訳じゃなくて、そういう表の仕事もしてるものなのか。

愛理さんは物知りだなあ。


「やむを得ず話したけど。これ、ほんとに秘密の話だから。他の誰にも言わないでね?」

「言えるかよ。……そうか。あれだけ有名なヴァレンティーノがある意味アンタッチャブルな扱いされてる理由はそれだったか……」
晃司義兄さんも何か納得したようだ。


大企業の代表取締役で、誰もが目を惹くほどの美形なんだから、もっと華々しくマスコミ各社から脚光を浴びてもおかしくないのに。

たまに経済ニュースに載るくらいで。
ファッション雑誌も、代表については一切触れないという徹底ぶりだとか。あんな美形なのに。

マスコミ嫌いなのかと思ってたって。


「奏ちゃん、脅されて、行くわけじゃないよね?」
愛理さんは心配そうに言った。

「違うよ。マフィアになっても、崇は崇だったよ」


8歳の時に、攫われるみたいにイタリアに連れて行かれて。
言葉も環境も違う中、たった一人で、とんでもないプレッシャーに耐えながら。

マフィアのボスってだけでも大変だろうに。
その上、世界的大企業のトップにまで上り詰めてたなんて凄すぎる。

力を得て。
誰にも文句を言わせない、立派なボスになって。

大人になった僕を迎えに行くことを希望に、頑張ったんだって言ってた。

全て、僕との約束を果たすため。
だから。


*****


「僕にできることがあれば、微力でも、側で支えたいと思ってるんだ」


晃司義兄さんは、腕を組んで渋い顔をしてる。
「……吊り橋効果ってやつじゃないのか? それだけ立て続けに事件があって、ピンチな時にヒーローみたいに助けに来てくれたら、俺だって『キャーステキー抱いて♡』ってなるよそりゃ」


吊り橋効果は。不安定な場所とかで、こわくてドキドキしてるのを、恋のドキドキと勘違いすること。
ストックホルム症候群は、誘拐された被害者が、優しくしてくれた誘拐犯に惚れてしまうこと。

それは……否定できない。状況的に、そんな感じだし。
僕もその可能性には気づいてた。


「それで助けられたから結果オーライだけどさ。パスポートにGPSとか、普通にこええよ。もうそれストーカーの域じゃん」

うう。
そこも否定できない。

「マフィアだし、誘拐に備えてたのかも……」


実際、人を雇ってずっとこちらの動向は調べてたみたいだし。
言えないけど、愛理さんのプライベートまで。

多分、仲良くしてた友人も、全部身元調べられてるんじゃないかな……。


「もし奏ちゃんが約束のことすっかり忘れてて。恋人とか作ってたらどうしてたのかしら……」
愛理さんは首を傾げて悩んでいる。

「相手の子、東京湾に沈められたりな……」
晃司義兄さん、それ洒落にならないからやめて。


いやいや、ヴァレンティーノは素人には手を出さない、クリーンな一家ですし!
トーニオも手加減されてたし!


*****


「僕は約束覚えてたし。両想いだったんだから問題ないよ」

……崇は僕が結婚出来る年齢になったら、約束を覚えてなくても好きな相手がいても有無を言わさず攫う気で。
拘束具と監禁部屋まで用意されていたことは、言わないでおこう……。

それだけ、精神的に追い詰められてたんだ。
きっと。


ある意味、こうやって物理的に離れて、冷却期間を設けることができて良かったのかも、と愛理さんは言った。

一生のことだから、後悔しないように。
良く考えてね、って。


そんな。
後悔なんて、しないよ。
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