「貴方に心ときめいて」

華南

文字の大きさ
上 下
59 / 73

閑話13

しおりを挟む
「にーたん、お目々がとってもキレイ。
お空の様にキラキラしている」

てくてくと歩いてきて俺の脚に纏わり付き、上目遣いで言う。
拙い声で俺の目を見詰めて。

ぷっふらとした頬が薔薇色に染まっていて弾んだ声で言う。
歳の頃は、3、4歳位の女の子。

誰だか知らない。

帰り道、通りすがりの公園で遊んでいた女の子が俺を見て、急に走り出してきて。
何かが女の子の琴線に触れたのか、俺を見て興奮して。

「にーたんの髪、お日様色。
絵本で見た王子しゃま」

と、にっこり笑った。

呆気に取られてしまう。
言われた言葉に唖然とする。

俺は自分の顔が一番嫌いなのに、何故、この子は簡単に言う。

そう、俺は自分の姿が嫌いだった。
混血である自分が。

母親がクオーターでその血を受け継ぐ俺は血が薄れている筈が、何故か顕著に現れて。
それが元で幼い頃からいじめの対象になっていた。
顔も何処と無く日本人離れしている事も重なって、周りから浮いている存在。
それに輪をかけてひ弱で根暗とくれば、イジメのターゲットになってもおかしくは無い。

そんなの俺には関係ない。
見た目で判断して異分子として排除しようとする。
理不尽極まりないと思っていても、クラスではそれが正義であり常識であった。
余りにお粗末な思考が生み出す勝手な論理。
馬鹿としか言えない。

(俺がキレイ?
王子様って)

「あははは」

急に笑い出す俺に、女の子がきょとんとした目で見る。
澄んだ目で笑い出す俺を不思議そうに。

(馬鹿じゃないのか)

思わず自虐的に嘲笑ってしまった。
栄養の行き届いていない今にも折れそうな程、痩せ細っているこの俺が王子だって。
生活水準だって低層な。
父親が誰だが判らない私生児で母親は男に簡単に股を開く。
あ、そうか。
それもあってのいじめか。

「僕は王子様では無いよ」

ぶっきらぼうに言ってしまう。
自分の置かれている環境は、この小さな女の子はまったく関係無いのに。
だけど言わずにはいられなかった。

こんな澄み切った瞳を持つ女の子に自分の姿が映っている。
綺麗な綺麗な、穢れを知らない瞳を持つ。

醜い俺があの綺麗な目に。

恥ずかしくて恥ずかしくて今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

俺の返事が気に入らなかったのか。
見知らぬ女の子はみるみる目に涙を溜めて泣き出す始末。

わんわんと泣きながら俺の脚に縋って何度も何度も言う。

「さゆが言ってるの、間違って無い。
にーたんは王子しゃまなのっ」

大声で泣き出し収まりの付かない事態に俺は慌てふためいて。
オロオロして困惑していたら、気付いた母親が苦笑を漏らしながら女の子を俺の脚から離し謝罪する。

ぐずぐず泣きながらも俺を見て女の子が言う。

「さゆ、にーたんが好き」

急な告白に思わず目が見開く。

俺の何処が気に入ったのだろう。
こんな痩せっぽっちのみすぼらしい姿の俺をこの女の子は何故?

見ず知らずの俺を好きだって。

「も、もう紗雪ったら急に何を言い出すの?」

困ったわね、とくすくす笑う母親に俺は急に頬が赤くなってしまった。

不思議な気分だった。
今までに無い、感情。

じんわりと優しい気持ちが心一杯になっていって。

それが紗雪との出会い。

俺にとって初恋とも言える出会いであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽りの恋人達

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,066pt お気に入り:39

乙女ゲームのヒロインが攻略するのは、攻略対象者だけじゃない!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:120

【完結】モブなのに最強?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,421pt お気に入り:4,539

悪役令嬢とヒロインは前世の記憶がある!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:8

職も家も失った元神童は、かつてのライバルに拾われる

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:873pt お気に入り:34

処理中です...