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第137話 やっぱりアリスとノアの子
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「どうして」
「だって、兄だもん。もしも僕がレックスのお兄さんと同じ状況だったら、きっと凄く辛いと思う。お母さんが亡くなった事も、弟が亡くなった事も同じぐらい絶望すると思うな。どうしていいか分からなくなって、きっともう生きていたくないって思うと思う。お母さんと弟の所に僕も行きたいって思うよ、多分」
「じゃあどうして兄は鍵を持ち出したんだろう。そんな事をしたらディノが目覚める事が出来なくなってしまうって分かってたはずなのに」
「それは分からない。でも、レックスのお兄さんは絶対にレックスを恨んで鍵を持ち出した訳じゃないよ。それだけは分かる」
「何の確信があって?」
「兄だからだよ。それ以外に理由なんて無い。母さまなら絶対にそう言う」
アリスはきっとこんな時、ニカッと笑って親指を立てて言い切るはずだ。そして隣でノアも笑って頷くに違いない。
それを聞いてレックスも何かを思い出したように笑う。
「アリスなら言いそう。あの人は不思議。凄く好戦的なのに本気でディノと同じような事を考えてる」
「母さまが好戦的なのは悪いことする人たちにだけだよ」
「正義の人って事?」
「どうだろう? 母さまから見たら正義かもしれないけど、違う人から見たら正義じゃないかもしれない。だから母さまが絶対に正しいとは僕は思わないけど、母さまは絶対に無駄に生き物を殺したりしない。そこは絶対に正しいって思うよ」
真面目な顔をして言ったノエルにレックスは感慨深そうに頷く。
「やっぱりディノとは気が合いそうだ。ディノも自然じゃない淘汰を嫌ってた」
だからこそディノは絶滅しかけた生物や植物を地下に保護したのだ。彼はそれらの動植物を消えるべきではない者達と呼んでいた。進化するのは良いが、乱獲などによって絶滅はさせるべきではないとディノは考えていたようだ。
「それで盗まれた鍵はどこへ行っちゃったんだろう?」
「分からない。兄が盗んだのは鍵だけなんだ。ディノには3つの眼があった。一つはレヴィウスのシュタに転移起動装置として置いてある。2つ目は僕が持ってて、3つ目はディノの鍵のかかった部屋に置いてある。これが一番重要な眼なんだけど、その部屋の鍵を兄は持ち去った」
「一番重要な眼?」
「全てを見通す眼。未来も過去も現在も全てを見通す。僕が地上を歩き回っていたのは、ディノに世界の今を見せるため」
「それって、レックスが見たものや聞いたことはディノも知ってるって事? 今してるこの会話も?」
「うん。僕の身体に起こった事は全てそのままディノの身体に伝わる。僕がノエルに話をしようと決めた事もディノは知ってるし、僕がアミナスの事がお気に入りなのもディノは知ってる」
「へぇ……ええっ⁉」
淡々というレックスの言葉にそれまでずっと頷いていたノエルはレックスの最後の言葉を聞いて思わず仰け反ってレックスを二度見した。
「僕が鉱石で出来てる事知ったときより驚いてる」
「あ、いやごめん……レックス、アミナスがお気に入り……なの?」
「うん。アミナスは面白い。ディノもアミナスを見てよく笑ってる」
「ん? ディノとレックスはまだ話が出来るって事?」
「いいや、感覚だけ繋がってる状態って事。僕が面白い、楽しいって思うのと同じでディノが楽しい、面白いと思ったらすぐに分かる」
「な、なるほど……そっかー……アミナスはずっと僕が面倒見なきゃいけないかと思ってたけど、レックスとディノがアミナスの事を気に入ってくれてるんなら何か安心したかも」
そんな事を言いつつ何だか寂しいノエルだが、いずれ両親が居なくなってしまったら、自分は一生独身を貫いてアミナスの面倒を生涯見るつもりでいたので少しだけ肩の荷が下りたのも嘘ではない。こんな所はやはりノアの子である。
「僕は兄が持ち出した鍵を探さなきゃならない。最初はディノはもうこのまま眠りにつこうとしてた。でも、ヴァニタスがまた不穏な動きをしてる。ディノは目覚めたがってる」
「分かった。僕たちで探そう。その鍵ってどんな形してるの? どれぐらいの大きさ?」
「大きさはこれぐらいで丸い。ごめん、それしか分からない。鍵を作ったのは僕の父さんなんだけど」
両手で鍵の大きさを示したレックスにノエルは頷く。
「なるほど。結構大きいんだね……困ったな。どうやって探そう? 何か他にヒントないのかな?」
ノエルはコロンボンの手帳を取り出して今聞いた話を簡潔にまとめて書きつけた。そんなノエルを見てレックスはゴクリと息を飲む。
「手伝って……くれるの?」
「勿論だよ! 前も言ったけど大切な友達を助けなかったって知ったら豚小屋の刑じゃ済まないし、そもそも僕がレックスを助けたいんだよ。ディノには会ったことないからよく分からないけど、レックスはもう僕の大切な友達なんだから」
「……ありがとう」
「どういたしまして! それにアミナスの面倒も一緒に見てもらってるしね! これからもよろしく、レックス!」
「うん。よろしく」
差し出されたノエルの手を握ったレックスが嬉しくて笑うと、ノエルもにっこり微笑んだ。
「レックス、最初会った時より凄く笑うようになったね」
「そうかな? 自分ではあまり分からないけど」
「そうだよ! 明日からまた忙しくなるね! そうだ! テオに頼んで何かヒントになりそうな事を父さまたちが言ってないか調べてもらおっか!」
ノアは絶対に危なそうな事についてはノエル達には聞こえないようにしているはずだ。
けれど、そこにこそレックスの言う鍵のヒントがあるような気がする。
「そうと決まれば今日はもう寝て明日から作戦考えよう! 他の皆にも話す?」
「うん。ディノと僕の事や鍵の事は皆にも話そうと思う」
「いいの?」
「うん。大人にはもう少し黙ってたいけど、アミナス達には話しておきたい」
「そっか! じゃあ明日集まって話そう! クロはちょっと宰相様の所に行っておいてもらわないと」
「うん、その方が絶対にいいと思う」
今や妖精王への信頼はガタ落ちの子供たちだ。ノエルとレックスはもう一度固い握手をして明日からの作戦会議を始めた。
翌朝、ノアはいつものようにアリスよりも先に目を覚ましてアリスに毛布をかけると、誰よりも早く談話室に移動した。
「おや、ノア様随分お早いですねぇ」
「ああ、おはようございます、サミーさん」
毎朝とても早起きなノアにサマンサは感心したように頷くが、そうではない。毎朝アリスにベッドから蹴落とされるだけの話なのだ。ノアはそんな言葉を飲み込んでサマンサが淹れてくれたお茶を飲んで大きなため息を漏らす。
「どうかされましたか?」
「いや~、何かどんどんややこしい事になってるなぁって思って。もう分からない事だらけだよ」
苦笑いを浮かべたノアを見てサマンサも苦笑いして頷く。
「そうですねぇ。私たちには何が起こっているのかさっぱり分かりませんが、昨日のような息抜きは必要だと思います。久しぶりにバセット領に行きましたが、あそこはいつ行っても楽しい所ですね。そう言えば……私、昨日は久しぶりに旦那が昔聞かせてくれた不思議な少年の話を思い出しましたよ」
「不思議な子?」
「ええ。旦那がまだ学生だった頃の話なんですけどね、ボロボロの服を着た貧民街の子の話なんです。その子はとても鮮やかな青い目をした男の子で、金色の光が目の中に散っていてまるでラピスラズリみたいな眼だったって。やけに大人びていて独特の雰囲気を持っていたらしいんです。昨日、バセット領でバーベキューをした時に来たレックスという少年を見て何だか急にその話を思い出したんですよ。ほら、あの子の瞳も不思議な色でしたから」
「だって、兄だもん。もしも僕がレックスのお兄さんと同じ状況だったら、きっと凄く辛いと思う。お母さんが亡くなった事も、弟が亡くなった事も同じぐらい絶望すると思うな。どうしていいか分からなくなって、きっともう生きていたくないって思うと思う。お母さんと弟の所に僕も行きたいって思うよ、多分」
「じゃあどうして兄は鍵を持ち出したんだろう。そんな事をしたらディノが目覚める事が出来なくなってしまうって分かってたはずなのに」
「それは分からない。でも、レックスのお兄さんは絶対にレックスを恨んで鍵を持ち出した訳じゃないよ。それだけは分かる」
「何の確信があって?」
「兄だからだよ。それ以外に理由なんて無い。母さまなら絶対にそう言う」
アリスはきっとこんな時、ニカッと笑って親指を立てて言い切るはずだ。そして隣でノアも笑って頷くに違いない。
それを聞いてレックスも何かを思い出したように笑う。
「アリスなら言いそう。あの人は不思議。凄く好戦的なのに本気でディノと同じような事を考えてる」
「母さまが好戦的なのは悪いことする人たちにだけだよ」
「正義の人って事?」
「どうだろう? 母さまから見たら正義かもしれないけど、違う人から見たら正義じゃないかもしれない。だから母さまが絶対に正しいとは僕は思わないけど、母さまは絶対に無駄に生き物を殺したりしない。そこは絶対に正しいって思うよ」
真面目な顔をして言ったノエルにレックスは感慨深そうに頷く。
「やっぱりディノとは気が合いそうだ。ディノも自然じゃない淘汰を嫌ってた」
だからこそディノは絶滅しかけた生物や植物を地下に保護したのだ。彼はそれらの動植物を消えるべきではない者達と呼んでいた。進化するのは良いが、乱獲などによって絶滅はさせるべきではないとディノは考えていたようだ。
「それで盗まれた鍵はどこへ行っちゃったんだろう?」
「分からない。兄が盗んだのは鍵だけなんだ。ディノには3つの眼があった。一つはレヴィウスのシュタに転移起動装置として置いてある。2つ目は僕が持ってて、3つ目はディノの鍵のかかった部屋に置いてある。これが一番重要な眼なんだけど、その部屋の鍵を兄は持ち去った」
「一番重要な眼?」
「全てを見通す眼。未来も過去も現在も全てを見通す。僕が地上を歩き回っていたのは、ディノに世界の今を見せるため」
「それって、レックスが見たものや聞いたことはディノも知ってるって事? 今してるこの会話も?」
「うん。僕の身体に起こった事は全てそのままディノの身体に伝わる。僕がノエルに話をしようと決めた事もディノは知ってるし、僕がアミナスの事がお気に入りなのもディノは知ってる」
「へぇ……ええっ⁉」
淡々というレックスの言葉にそれまでずっと頷いていたノエルはレックスの最後の言葉を聞いて思わず仰け反ってレックスを二度見した。
「僕が鉱石で出来てる事知ったときより驚いてる」
「あ、いやごめん……レックス、アミナスがお気に入り……なの?」
「うん。アミナスは面白い。ディノもアミナスを見てよく笑ってる」
「ん? ディノとレックスはまだ話が出来るって事?」
「いいや、感覚だけ繋がってる状態って事。僕が面白い、楽しいって思うのと同じでディノが楽しい、面白いと思ったらすぐに分かる」
「な、なるほど……そっかー……アミナスはずっと僕が面倒見なきゃいけないかと思ってたけど、レックスとディノがアミナスの事を気に入ってくれてるんなら何か安心したかも」
そんな事を言いつつ何だか寂しいノエルだが、いずれ両親が居なくなってしまったら、自分は一生独身を貫いてアミナスの面倒を生涯見るつもりでいたので少しだけ肩の荷が下りたのも嘘ではない。こんな所はやはりノアの子である。
「僕は兄が持ち出した鍵を探さなきゃならない。最初はディノはもうこのまま眠りにつこうとしてた。でも、ヴァニタスがまた不穏な動きをしてる。ディノは目覚めたがってる」
「分かった。僕たちで探そう。その鍵ってどんな形してるの? どれぐらいの大きさ?」
「大きさはこれぐらいで丸い。ごめん、それしか分からない。鍵を作ったのは僕の父さんなんだけど」
両手で鍵の大きさを示したレックスにノエルは頷く。
「なるほど。結構大きいんだね……困ったな。どうやって探そう? 何か他にヒントないのかな?」
ノエルはコロンボンの手帳を取り出して今聞いた話を簡潔にまとめて書きつけた。そんなノエルを見てレックスはゴクリと息を飲む。
「手伝って……くれるの?」
「勿論だよ! 前も言ったけど大切な友達を助けなかったって知ったら豚小屋の刑じゃ済まないし、そもそも僕がレックスを助けたいんだよ。ディノには会ったことないからよく分からないけど、レックスはもう僕の大切な友達なんだから」
「……ありがとう」
「どういたしまして! それにアミナスの面倒も一緒に見てもらってるしね! これからもよろしく、レックス!」
「うん。よろしく」
差し出されたノエルの手を握ったレックスが嬉しくて笑うと、ノエルもにっこり微笑んだ。
「レックス、最初会った時より凄く笑うようになったね」
「そうかな? 自分ではあまり分からないけど」
「そうだよ! 明日からまた忙しくなるね! そうだ! テオに頼んで何かヒントになりそうな事を父さまたちが言ってないか調べてもらおっか!」
ノアは絶対に危なそうな事についてはノエル達には聞こえないようにしているはずだ。
けれど、そこにこそレックスの言う鍵のヒントがあるような気がする。
「そうと決まれば今日はもう寝て明日から作戦考えよう! 他の皆にも話す?」
「うん。ディノと僕の事や鍵の事は皆にも話そうと思う」
「いいの?」
「うん。大人にはもう少し黙ってたいけど、アミナス達には話しておきたい」
「そっか! じゃあ明日集まって話そう! クロはちょっと宰相様の所に行っておいてもらわないと」
「うん、その方が絶対にいいと思う」
今や妖精王への信頼はガタ落ちの子供たちだ。ノエルとレックスはもう一度固い握手をして明日からの作戦会議を始めた。
翌朝、ノアはいつものようにアリスよりも先に目を覚ましてアリスに毛布をかけると、誰よりも早く談話室に移動した。
「おや、ノア様随分お早いですねぇ」
「ああ、おはようございます、サミーさん」
毎朝とても早起きなノアにサマンサは感心したように頷くが、そうではない。毎朝アリスにベッドから蹴落とされるだけの話なのだ。ノアはそんな言葉を飲み込んでサマンサが淹れてくれたお茶を飲んで大きなため息を漏らす。
「どうかされましたか?」
「いや~、何かどんどんややこしい事になってるなぁって思って。もう分からない事だらけだよ」
苦笑いを浮かべたノアを見てサマンサも苦笑いして頷く。
「そうですねぇ。私たちには何が起こっているのかさっぱり分かりませんが、昨日のような息抜きは必要だと思います。久しぶりにバセット領に行きましたが、あそこはいつ行っても楽しい所ですね。そう言えば……私、昨日は久しぶりに旦那が昔聞かせてくれた不思議な少年の話を思い出しましたよ」
「不思議な子?」
「ええ。旦那がまだ学生だった頃の話なんですけどね、ボロボロの服を着た貧民街の子の話なんです。その子はとても鮮やかな青い目をした男の子で、金色の光が目の中に散っていてまるでラピスラズリみたいな眼だったって。やけに大人びていて独特の雰囲気を持っていたらしいんです。昨日、バセット領でバーベキューをした時に来たレックスという少年を見て何だか急にその話を思い出したんですよ。ほら、あの子の瞳も不思議な色でしたから」
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