初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの

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6 唯一の味方

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次の日の朝。
時刻は朝の八時。
夜が過ぎ、朝がやって来た。


(結局一睡も出来なかったわ)


眠れなかった理由は明白だ。
昨夜出会った侍女――レイナのことがいつまでも頭から離れなかったからである。


自分から突き放したというのに、今さら何なのだろうと呆れ返る。


(でもとっても話しやすい子だったわ……あんな子初めて……)


これまで侯爵邸の人たちと一緒にいるのは苦痛でしか無かったのに、彼女だけは違った。


カッコつけてあんなことを口にしておいて、もう一度会って話したいと思っている自分がいる。
今になって少しだけ後悔の念が押し寄せてくる。


(そんなこと思ったところでもう遅いのに……)


彼女は私の助言通り既に辞めているはずだ。
もう二度と会うことは無いだろう。


私を差別しない人間と出会えたのは嬉しかったが、彼女のためを思えばこうするほかない。
これが正しいのだ。
――私の傍にいて良いことなんて一つも起きないのだから。


……と、そう思っていたのに。


「今日からアリスお嬢様のお世話をさせていただくことになりました!レイナです!」
「……」


何故レイナが朝一番に私の部屋にいるのか。
全く理解が追い付いていない。


「……どうしてあなたがここにいるの?」
「さっき言ったじゃないですか!アリスお嬢様のお世話をさせていただくって!」
「いや、そういうことじゃなくて……」


とっくに使用人という職を辞し、荷物をまとめて出て行ったと思っていたのに。
昨日私の言ったことが上手く伝わらなかったのだろうか。
それに私の世話をするとは一体どういうことなのだろう。


(私としてもレイナが傍にいてくれるのは嬉しいけれど……)


未だに状況を理解出来ていない私をよそに、レイナは部屋のカーテンを開けて早速仕事を始めた。


「今日の朝、先輩侍女からアリスお嬢様に付くようにって言われたんですよね!私、嬉しくてたまらなくって!まさに地獄から天国って感じです!」
「……」


レイナは満面の笑みを浮かべてそう口にした。


(この侯爵邸において私の世話を任されるということは使用人の中で最底辺であるということを意味しているのに……)


それを知っていてそのようなことを言っているのか。
私に付くことでどんなことが起きるか……


「あなた、本当にいいの?」
「何がですか?」


着々と朝の準備を進めていたレイナがこちらを振り返って尋ねた。
何も分かっていないような無垢な顔を見ると、胸の中で罪悪感が沸き上がってくる。
本当にこの子を傍に置いてもいいのか。


「……私よりラウルに付いてた方がずっと待遇は良いはずよ。いや、それより他の貴族家ならもっと……」
「そんなこと言わないでください!私はアリスお嬢様が良いんです!」
「レイナ……」


ハッキリとそう言われてしまえば、こちらとしては断ることなど出来ない。


「これからよろしくお願いしますね、お嬢様」
「え、ええ……」


何より本人が嬉しそうにしているから、これでいいのかもしれない。


(この子、十代後半くらいかしら?私と歳も近そうだわ……)


もしかすると、この侯爵邸で唯一私の味方になってくれるかもしれない。
そう考えると何だか嬉しくなった。


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