30 / 64
30 招待
しおりを挟む
「お嬢様、そろそろ帰りましょう」
「うーん……もう少しだけ……もう少しだけ待っていたいの……」
「お嬢様……」
王太子殿下が去ってしばらく。
私とレイナは未だに事件現場に残っていた。
「レイナは先に戻ってくれてもいいのよ?私がこうしていたいだけだから」
「いいえ、お嬢様を置いて帰ることなんて出来ません。私も一緒にいさせてください」
「レイナ……」
力強い瞳でそう言われれば、無理に帰らせることなど出来ない。
「それにしても遅いですね、王太子殿下」
レイナが不安げな表情でこちらをじっと見つめた。
殿下が理由で心が落ち着かないのは私も同じだった。
(王太子殿下……いつになったら戻って来るんだろう)
あのとき彼はすぐに戻ると言っていたが、殿下がここを離れてからもう一時間は経過している。
そして私はそんな殿下をずっと待ち続けていた。
(待っててくれって言われたんだから……先に帰るわけにはいかないわ)
殿下が来てくれなければ私もレイナもどうなっていたか分からない。
せめてもう一度お礼を言っておきたかった。
その場でじっと佇んでいると、背後から声がした。
「――アリス嬢、まだここにいたのか?」
聞き慣れた声にゆっくりと後ろを振り返ると、馬に乗った状態の殿下が私を見下ろしていた。
「………………殿下!」
私はすぐに馬から降りる殿下に駆け寄った。
「殿下、大丈夫ですか?どこかお怪我は……」
「私は平気だ。君こそ、どうして……もしかして、ずっと私を待っていたのか?」
私はコクリと頷いた。
「アリス嬢……」
殿下が驚いたように目を見張った。
「もう一度お礼を言っておきたかったんです。本当にありがとうございました、殿下」
「君が無事なら何よりだ。気にしないでくれ」
殿下はそれだけ言ってそっぽを向いた。
よく見ると、彼の右手には血が滲んでいる。
暴漢たちとの戦闘で傷付けてしまったのだろうか。
私のせいでそんな風になってしまって、胸が痛む。
(せっかく助けてくれたんだから、何か……何かお礼を……)
「あの、殿下……」
「何だ?」
「よろしければ今度、ウチに来ませんか?」
「…………何だって?」
それを聞いた殿下が目をパチクリさせながら私を見た。
「是非、今回のお礼をさせていただきたいのです。命を救っていただいたので……」
「……」
「あ、迷惑なら全然……」
「――いいや、せっかくだし伺おう」
殿下はしばらく黙り込んだ後、そう言った。
「ほ、本当ですか……?」
「冗談のつもりで誘ったのか?」
「い、いえ!決してそんなことは!」
私は慌てて首を横に振った。
(来てくれるのよね……?)
それならこちらとしてもありがたい。
男性を家に招くだなんて初めてかもしれない。
相手が王太子殿下ならお父様もきっと承諾してくれるだろう。
「いつ頃がいいでしょうか……」
「私はいつでもかまわない。君に合わせよう」
「……!では、三日後に侯爵邸でお待ちしています!」
「ああ、楽しみにしている」
「殿下にとって楽しい時間になるよう、しっかりと準備しておきます」
張り切って言った私を見て、殿下はクスッと口元に笑みを浮かべた。
「うーん……もう少しだけ……もう少しだけ待っていたいの……」
「お嬢様……」
王太子殿下が去ってしばらく。
私とレイナは未だに事件現場に残っていた。
「レイナは先に戻ってくれてもいいのよ?私がこうしていたいだけだから」
「いいえ、お嬢様を置いて帰ることなんて出来ません。私も一緒にいさせてください」
「レイナ……」
力強い瞳でそう言われれば、無理に帰らせることなど出来ない。
「それにしても遅いですね、王太子殿下」
レイナが不安げな表情でこちらをじっと見つめた。
殿下が理由で心が落ち着かないのは私も同じだった。
(王太子殿下……いつになったら戻って来るんだろう)
あのとき彼はすぐに戻ると言っていたが、殿下がここを離れてからもう一時間は経過している。
そして私はそんな殿下をずっと待ち続けていた。
(待っててくれって言われたんだから……先に帰るわけにはいかないわ)
殿下が来てくれなければ私もレイナもどうなっていたか分からない。
せめてもう一度お礼を言っておきたかった。
その場でじっと佇んでいると、背後から声がした。
「――アリス嬢、まだここにいたのか?」
聞き慣れた声にゆっくりと後ろを振り返ると、馬に乗った状態の殿下が私を見下ろしていた。
「………………殿下!」
私はすぐに馬から降りる殿下に駆け寄った。
「殿下、大丈夫ですか?どこかお怪我は……」
「私は平気だ。君こそ、どうして……もしかして、ずっと私を待っていたのか?」
私はコクリと頷いた。
「アリス嬢……」
殿下が驚いたように目を見張った。
「もう一度お礼を言っておきたかったんです。本当にありがとうございました、殿下」
「君が無事なら何よりだ。気にしないでくれ」
殿下はそれだけ言ってそっぽを向いた。
よく見ると、彼の右手には血が滲んでいる。
暴漢たちとの戦闘で傷付けてしまったのだろうか。
私のせいでそんな風になってしまって、胸が痛む。
(せっかく助けてくれたんだから、何か……何かお礼を……)
「あの、殿下……」
「何だ?」
「よろしければ今度、ウチに来ませんか?」
「…………何だって?」
それを聞いた殿下が目をパチクリさせながら私を見た。
「是非、今回のお礼をさせていただきたいのです。命を救っていただいたので……」
「……」
「あ、迷惑なら全然……」
「――いいや、せっかくだし伺おう」
殿下はしばらく黙り込んだ後、そう言った。
「ほ、本当ですか……?」
「冗談のつもりで誘ったのか?」
「い、いえ!決してそんなことは!」
私は慌てて首を横に振った。
(来てくれるのよね……?)
それならこちらとしてもありがたい。
男性を家に招くだなんて初めてかもしれない。
相手が王太子殿下ならお父様もきっと承諾してくれるだろう。
「いつ頃がいいでしょうか……」
「私はいつでもかまわない。君に合わせよう」
「……!では、三日後に侯爵邸でお待ちしています!」
「ああ、楽しみにしている」
「殿下にとって楽しい時間になるよう、しっかりと準備しておきます」
張り切って言った私を見て、殿下はクスッと口元に笑みを浮かべた。
613
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる