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31 真実 アメリア王女視点
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「ああ、ホンットにムカツク!!!」
公爵邸に戻った後、私は与えられた部屋でルーカスに買ってもらったドレスを乱暴に脱ぎ捨てた。
「殿下、落ち着いてください」
「うっさいわね!黙ってなさい!」
「……」
私が叱責すると、侍女は冷めたような目で私を見た。
人を馬鹿にしているようなその目に、私の苛立ちは増していった。
(ルーカスは親切にしてくれるけれど、公爵邸の使用人は生意気なのが多いわね。ルーカスに頼んで追い出してもらおうかしら)
それも良いかもしれない。
あの男は私のためなら何だってする男だから。
(昔出会って一目惚れされてからお願いを断られたことなんて一度も無いのよね。ちょっと優しくしただけですぐ恋に落ちるんだから。男ってちょろいわ)
美しい容姿を持った女が手を差し伸べるだけで男はひれ伏す。
私はこれまでそうやって何人もの男を服従させてきた。
もちろん彼らに対する恋愛感情など一切無く、それなりに利用価値があったから傍に置いていただけだ。
(私は王女なんだし?そんな私の傍にいられるだけで幸せ者じゃない?)
悪いとは一切思っていない。
生まれ持った美しい容姿を使って何がいけないのか。
ありきたりな罠に嵌った男たちが馬鹿なだけである。
しかし、そんな私にも思い通りにならなかった男が一人だけいた。
(……屈辱だわ)
思い返すだけで腹が立つ。
あんな辱めを受けたのは初めてだ。
(でも私の作戦は上手くいったわ。だって今日の舞踏会、みんなしてアイツを非難していたんだから。良い気味ね)
そのときの光景を思い浮かべて、笑みが零れそうになった。
私の思い通りにならなかった男というのは元夫、ジークハルト王太子のことである。
私の四つ上で、五年前彼と結婚し、つい最近離婚した。
(離婚までされて……アイツのせいで完璧な私の経歴に傷が付いたじゃない)
隣国に輿入れした日。
初めて見る王太子は見た目も性格もとても大人びた人だった。
彼が隣にいると、まだ成長しきっていない私は子供に見えるだろう。
そんな風に思ってしまうほど素敵な男性だった。
(この人が夫なら文句は無いわ……誰も私を馬鹿に出来ないはずよ)
それから結婚式を終えた日の夜。
夫となった王太子は部屋でこんなことを口にした。
「君はまだ十七歳だろう?君が成人するまで初夜は延期しよう」
「……え?」
頭を鈍器で殴られたような感覚になった。
(私が子供だから抱けないっていうの……?)
正直に言うと私は処女では無かったが、王太子と結婚する半年前にはしっかりと遊んでいた男たちとの関係を清算している。
この私がわざわざだ。
そんな私を、拒絶するだなんて――
プライドを酷く傷付けられた私は、使用人たちに当たり散らすようになった。
「アンタも私のこと馬鹿にしてるんでしょ!!!王太子に愛されない女だって!!!」
「キャア!!!妃殿下、落ち着いてください!」
そのたびに王太子に苦言を呈されたが、彼らへの態度を改めることは無かった。
そして次第に私の行動はエスカレートし、夫である王太子にもキツい言葉を投げかけるようになった。
一年も経った頃には既に夫婦関係は冷え切っていたと思う。
そんな状態で行為など出来るわけがない。
結局、私たちは白い結婚のままだった。
嫁いでから2年を過ぎた頃、王太子にこれ以上暴れるのなら離婚も視野に入れると言われた。
それを言われたときは少し焦った。
王太子との仲は悪いが、私は死んでもこの地位を手放す気は無い。
(この生活に不満は無いし……離婚して傷がついてしまえば二度と王妃になんてなれないわ)
妥協して公爵夫人だなんて御免だ。
私はやはり王族が相応しい。
王太子のその言葉で一時は直そうとしたものの、生まれ持った自分の性格をそう簡単には変えられなかった。
(離婚なんて出来るはずが無いわ……だって私は隣国の王女だもの……だからきっと大丈夫……)
必死に自分にそう言い聞かせた。
そんな風に何の危機感も無く呑気に過ごしていたから、結局は離婚されてしまったのだけれど。
それに加えて私が隣国でやってきたことを知らされたのか、帰国後は両親に酷く叱責された。
ムカツク、これも全部アイツのせいなのに。
腹の虫が収まらなかった私は、自国で王太子の悪い噂を広めた。
当然、あの男は浮気なんてしていなかったが私が目に涙を溜めて訴えたら周囲は同情してくれた。
(ふふふ♪全部私の計画通りだわ)
次はどんな手を使って嫌いな奴らを懲らしめてやろう。
公爵邸に戻った後、私は与えられた部屋でルーカスに買ってもらったドレスを乱暴に脱ぎ捨てた。
「殿下、落ち着いてください」
「うっさいわね!黙ってなさい!」
「……」
私が叱責すると、侍女は冷めたような目で私を見た。
人を馬鹿にしているようなその目に、私の苛立ちは増していった。
(ルーカスは親切にしてくれるけれど、公爵邸の使用人は生意気なのが多いわね。ルーカスに頼んで追い出してもらおうかしら)
それも良いかもしれない。
あの男は私のためなら何だってする男だから。
(昔出会って一目惚れされてからお願いを断られたことなんて一度も無いのよね。ちょっと優しくしただけですぐ恋に落ちるんだから。男ってちょろいわ)
美しい容姿を持った女が手を差し伸べるだけで男はひれ伏す。
私はこれまでそうやって何人もの男を服従させてきた。
もちろん彼らに対する恋愛感情など一切無く、それなりに利用価値があったから傍に置いていただけだ。
(私は王女なんだし?そんな私の傍にいられるだけで幸せ者じゃない?)
悪いとは一切思っていない。
生まれ持った美しい容姿を使って何がいけないのか。
ありきたりな罠に嵌った男たちが馬鹿なだけである。
しかし、そんな私にも思い通りにならなかった男が一人だけいた。
(……屈辱だわ)
思い返すだけで腹が立つ。
あんな辱めを受けたのは初めてだ。
(でも私の作戦は上手くいったわ。だって今日の舞踏会、みんなしてアイツを非難していたんだから。良い気味ね)
そのときの光景を思い浮かべて、笑みが零れそうになった。
私の思い通りにならなかった男というのは元夫、ジークハルト王太子のことである。
私の四つ上で、五年前彼と結婚し、つい最近離婚した。
(離婚までされて……アイツのせいで完璧な私の経歴に傷が付いたじゃない)
隣国に輿入れした日。
初めて見る王太子は見た目も性格もとても大人びた人だった。
彼が隣にいると、まだ成長しきっていない私は子供に見えるだろう。
そんな風に思ってしまうほど素敵な男性だった。
(この人が夫なら文句は無いわ……誰も私を馬鹿に出来ないはずよ)
それから結婚式を終えた日の夜。
夫となった王太子は部屋でこんなことを口にした。
「君はまだ十七歳だろう?君が成人するまで初夜は延期しよう」
「……え?」
頭を鈍器で殴られたような感覚になった。
(私が子供だから抱けないっていうの……?)
正直に言うと私は処女では無かったが、王太子と結婚する半年前にはしっかりと遊んでいた男たちとの関係を清算している。
この私がわざわざだ。
そんな私を、拒絶するだなんて――
プライドを酷く傷付けられた私は、使用人たちに当たり散らすようになった。
「アンタも私のこと馬鹿にしてるんでしょ!!!王太子に愛されない女だって!!!」
「キャア!!!妃殿下、落ち着いてください!」
そのたびに王太子に苦言を呈されたが、彼らへの態度を改めることは無かった。
そして次第に私の行動はエスカレートし、夫である王太子にもキツい言葉を投げかけるようになった。
一年も経った頃には既に夫婦関係は冷え切っていたと思う。
そんな状態で行為など出来るわけがない。
結局、私たちは白い結婚のままだった。
嫁いでから2年を過ぎた頃、王太子にこれ以上暴れるのなら離婚も視野に入れると言われた。
それを言われたときは少し焦った。
王太子との仲は悪いが、私は死んでもこの地位を手放す気は無い。
(この生活に不満は無いし……離婚して傷がついてしまえば二度と王妃になんてなれないわ)
妥協して公爵夫人だなんて御免だ。
私はやはり王族が相応しい。
王太子のその言葉で一時は直そうとしたものの、生まれ持った自分の性格をそう簡単には変えられなかった。
(離婚なんて出来るはずが無いわ……だって私は隣国の王女だもの……だからきっと大丈夫……)
必死に自分にそう言い聞かせた。
そんな風に何の危機感も無く呑気に過ごしていたから、結局は離婚されてしまったのだけれど。
それに加えて私が隣国でやってきたことを知らされたのか、帰国後は両親に酷く叱責された。
ムカツク、これも全部アイツのせいなのに。
腹の虫が収まらなかった私は、自国で王太子の悪い噂を広めた。
当然、あの男は浮気なんてしていなかったが私が目に涙を溜めて訴えたら周囲は同情してくれた。
(ふふふ♪全部私の計画通りだわ)
次はどんな手を使って嫌いな奴らを懲らしめてやろう。
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